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白山小梅
12
#借金
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駅でバスを降りた二人は、アウトレット行きの無料送迎バスに乗り換える。十五分ほどバスに揺られると、アウトレットの入口近くの停留所で停車した。
「俺は七香についていくから、好きしていいよ」
本当にただの暇つぶしなんだ。好きなお店とかないのかしらーーそう考えて、自分が彼のことを、名前以外何も知らないという事実にぶち当たる。
とりあえず何か質問でもしてみようと思った時だった。七香の目に、ずっと食べたいと思っていたご当地フルーツをふんだんに使ったパフェのポスターが目に飛び込んできたのだ。
「マスクメロンパフェ、二千五百円なり……」
店の前で、眉間に皺を寄せて立ち尽くす。さすがに高校生のお小遣いでは、今まで二千円を越えるパフェなんて食べたことがない。しかしここでしか出会えないものだと思うと、ぐらぐらと心が揺れ始めた。
一体なんのためにバイトをしてるのよ! こんな贅沢をするためじゃないのにーーそう思っても、食べたい気持ちは反比例するかのようにどんどん大きくなっていく。
「なに? 着いて早々、いきなりパフェ?」
「だ、だって……ずっと気になってたから……。でも値段が可愛くないから悩んでる」
「ふーん。じゃあ俺が買って、仕方ないから七香にも食べさせてやるよ」
七香の瞳がキラキラと輝いた。しかしその言葉をそのまま受け取るのも癪で、つい口を尖らせてしまう。
「うわっ、恩着せがましい」
「……買わなくてもいいんだぞ」
「うわぁ! ウソ嘘! ありがたくいただきますから買ってくださーい!」
「分かればよろしい」
昴が店の中へと入っていってしまったので、七香は慌ててその背中を追った。フロアの中央近くの二人掛けの席に案内されるや否や、昴はマスクメロンパフェとアイスコーヒーを二杯注文する。
奢ってくれるのに、また子供扱いをされるのが嫌で、アイスコーヒーが飲めないとは言い出せずに口をきゅっと結んで黙り込んだ。ミルクとガムシロップを大量に入れればきっと大丈夫だろうーー自分に言い聞かせ、納得した時だった。
「俺、こういうの食べるの初めてかも」
昴がポツリと呟いたのを聞いて、七香は目を瞬かせた。
「えーっ、じゃあなんで一緒に食べるなんていったの?」
「……まぁたまにはこういうのもいいかなって思ってさ」
「……昴くんって何歳なの? 大学生だよね?」
「俺? 大学四年生の二十一歳」
「じゃあ来年卒業? 就職先って決まった?」
「こう見えて医学部生なんだ。だから卒業はまだ先」
「えっ、医者になるの? なんか意外すぎる……」
「なんで意外なわけ?」
「いや、医学部に行く人ってもっと真面目なイメージがあったから。患者さん、お医者さんにそんな無愛想で冷たくされたら泣いちゃうよ」
「あはは! なんだよ、それ。初めて言われた」
本当に言われたことがないのだろうか……周りの人は、無愛想で口が悪いこの男からの返しが怖くて、何も言えないだけなんじゃーー七香が眉間に皺を寄せながら考え込んでいると、
「七香は高校何年生?」
と急に話しかけられて、ハッと我に返った。
「に、二年生」
「学校って楽しい?」
「まぁぼちぼち」
「"ぼちぼち"はいい方だよ。俺は全く楽しくなかった」
「どうして?」
「俺が早紀さんと出会ったのが、七香と同じ高二の時でさ、彼女の大人な魅力にどっぷりとハマって、同級生が子どもに見えたんだ。だから同級生と距離を取るようになって、三年の時仲が良かったのなんて二人くらいしかいなかった」
「じゃあ……青春をエンジョイしてないの? もったいないなぁ」
「高二の俺が今の七香を見たら、きっと中学生に間違えただろうな」
七香は昴をキッと睨みつけだが、なんとか気持ちを押さえ込む。
「というか、早紀さんとはどんなデートをするの?」
「まぁ大体ご飯食べたら、ひたすらセックスして終わり」
「セッ……⁈ なんとなくそんな気はしてたけど……でもそれだけで満足するの?」
「まぁ好きな人と一緒にいられるだけで幸せじゃない?」
「それ以上は望まないの?」
「あんまりそういうことは考えたことはないな」
きっと彼はデートが何かを知らずにきてしまったに違いない。もちろん恋愛経験ゼロの七香がそれを知っているわけではないが、友だちと過ごす楽しみ方くらいならわかる。
「……よし、じゃあ仕方ないから、今日は私が昴くんといっぱい遊んであげる。昴くんが子どもっぽいって思っていたことが、すごく楽しいんだって教えてあげる」
「今更? しかも俺、遊ばれるわけ?」
「今更とか言わないの。楽しいことに遅いも早いもないんだよ」
「まぁ暇だし。付き合ってやるか」
そんな言い方なのに、何故か彼の表情が照れているように感じた。これがいわゆるツンデレというやつなのかしらーー時折見せる可愛いらしい姿に、七香の心臓が高鳴る。