『……こんにちは。
あなたが……レイ・フィリップさんですか?』
おそるおそる英語で声をかければ、彼は一瞬驚いたような顔をした。
『あなたは?』
『ホストのノダといいます。
フィリップさんを迎えに来ました』
ノダというのは、民泊をしている伯母のけい子さんの名前だ。
そこで彼はふっと表情を緩める。
『あぁ、ノダさん。 ありがとう』
柔らかく微笑まれ、不意をつかれた胸が思いっきり高鳴った。
(やばい……)
金髪碧眼のキラースマイルは、威力抜群だ。
気を抜くと、好きな人がいる私の胸すら打ち抜かれそうになる。
『じ、じゃあ行きましょうか。こっちです』
私は火照った頬を隠すように、急いでロータリーの端を歩き出した。
民泊は、ふつうのホテルに泊まるより格安だ。
さらには伯母の家は都心から少し外れているから、宿泊料金も少し安めにしてある。
とはいえ都内まで電車で30分だし、連泊する人は少なくない。
それでも約3か月の宿泊をするレイさんは、今までにない長期滞在のゲストだった。
(やばい、ほんとにかっこいい)
私の後ろを、レイさんがキャリーバックを転がしながらついてくる。
今まで何人も外国人のお世話をしてきたけど、かっこいい人なんて正直いなかった。
こんな人がこれから隣の部屋に泊まるなんて、はたして私の心臓が持つんだろうか。
『ここまで迷わずにこれましたか?』
振り返って尋ねれば、レイさんは苦笑いをした。
『少し迷ったよ。乗り換えがわからなかった』
『あぁ、そうでしたか。
けど時間にはぴったりでしたね』