テラーノベル
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スタートヽ(*^ω^*)ノ
キヨの指先が、ぬいぐるみのカニのハサミをそっとなぞる。
柔らかくて、丸くて、小さくて。
思わず笑みがこぼれるその横顔は、レトルトがアプリ越しに何度も見てきた、優しくて、まっすぐで、大好きなキヨの表情だった。
レトルトは、静かに近づく。
心臓が壊れそうなほど鳴ってる。
(怖い。でも…)
――もう、これ以上、離れたくない。
ほんの一歩。キヨの隣に立つ。
キヨはまだ気づかない。
カニを撫でる指に夢中で、視線を下げたままだ。
レトルトは、震える唇をゆっくり開いた。
「……キヨくん。」
たったそれだけの言葉なのに、声が上ずる。
怖くて、愛しくて、全部混ざったような声だった。
一瞬、空気が固まった。
キヨの指が止まる。
そして、ゆっくり顔を上げる。
驚きと、戸惑いと、信じられないというような目が、レトルトをまっすぐに捉えた。
「……レトさん……?」
まるで時間が止まったようだった。
雑貨屋の小さな世界に、2人だけしかいないような、そんな錯覚。
レトルトは、視線を逸らせないまま、小さく頷いた。
「……本物の、俺やで……」
キヨの瞳が、じわりと揺れる。
つづく