日没から約三十分後。
空には黄、オレンジ、赤、紫、群青のグラデーションが描かれ、幻想的な彩りを添えている。
富士山と江ノ島のシルエットも見え、海は紫紺、砂浜は墨黒に染まっていた。
日の出三十分前と日没の三十分後は、一日のうちで一番空が美しい時間と言われる、マジックアワー。
名前の通り、魔法を掛けたような空の表情に、恵菜は顔を綻ばせた。
「すごく…………美しい空……」
「俺も………こんな綺麗な空を見たのは、初めてだな……」
緩やかに流れていく時間と、華美な色彩の夕景を楽しむ二人。
「こんなに綺麗な空を見られて…………今日、ドライブに連れてきてもらって…………本当に良かったです。素敵なご褒美をもらった気分……」
「俺も…………恵菜さんをドライブに誘って良かった。また……」
言葉を途切らせた純に、恵菜が上目遣いで彼を見やる。
「また…………君と……一緒に…………出掛けたい。いい……かな……?」
少しの間(ま)を置いた後、純は辿々しく問い掛けた。
(これって…………また会いたいって事……だよね?)
恋慕を抱いている彼からの誘い。
恵菜に断る理由はないし、純をもっと知りたいと思う。
「私で良ければ…………ぜひ……」
「…………マジで……嬉しい……」
彼女は、蕾がゆっくりと花開くように目を細めると、純も引きつけられるように、笑顔を滲ませた。
***
稲村ヶ崎を出発したのは十九時過ぎ。
二人は途中、レストランに立ち寄って夕食を摂り、西国分寺の恵菜の自宅に到着したのは二十二時を回っていた。
「谷岡さん、今日は楽しかったです。ありがとうございました」
「俺もすごく楽しかった。また、出掛けよう」
車を降りて挨拶する恵菜に、純はパワーウィンドウを開けて答える。
「じゃあ、また。アプリでメッセージ送るよ。おやすみ」
「おやすみなさい」
純は緩やかにアクセル踏んで車を発進させると、恵菜は、彼の車が小さくなるまで見送った。







