テラーノベル
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父が遺した「最初の一円」を基金とし、私は非営利の金融基盤『ルーツ財団』を設立した。
それは、利益を追求するのではなく
誰かの「誠実な一歩」を支援するためだけに存在する、世界で最も純粋な資産運用機関。
「詩織さん、このシステムはもう誰にも書き換えられない。父さんの愛という名の『オリジン・ブロック』が、すべての取引を正しく監視し続ける」
海斗が構築した、改ざん不能な信頼の連鎖。
デジタルと真心が融合したその場所で、新しい経済が静かに鼓動を始めた。
そんな再出発の朝、ルーツ・ガーデンの正門に一人の女性が立っていた。
泥にまみれた靴、虚ろな瞳。
かつて直樹の愛人として私の家庭を壊し、最後には直樹に裏切られてすべてを失った莉奈だった。
「……何の用かしら」
莉奈は膝をつき、震える手で一円玉を一った差し出した。
「……これ、私が今持っているすべてなの。……詩織さん、私を助けてなんて言わない。でも、私に『やり直すためのチャンス』をちょうだい…っ」
かつての傲慢さは消え、そこにあるのは一人の、飢えた人間の剥き出しの心だった。
周りの職員たちは「追い出すべきだ」と騒ぎ立てる。
当然だ
彼女が私に、そして陽太にしたことは、一円の許しも得られないことかもしれない。
けれど、陽太がそっと莉奈の前に立ち、その一円玉を受け取った。
「……ママ。この一円も、今日から僕たちの仲間にいれていい?」
陽太の瞳には、憎しみではなく、ただ「未来」だけが映っていた。
復讐とは、相手を地獄に落とすことではない。
相手が地獄から這い上がるための「一円の価値」さえも、こちらがコントロールできるようになること。
「……いいわ。莉奈さん、その一円を、この庭の草むしりの『報酬』として預かるわ。…あなたが自分の価値を一円ずつ積み上げる覚悟があるなら、この門は閉じない」
それは、私が下した「一円の慈悲」。
憎しみという負債を、労働という資産へ振替させる。
それが経営者としての、私の最後の教育だった。
【残り5日】
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