テラーノベル
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「……ねえ、卿…最近疲れてるよね。僕に何かできるなら、言ってね?」
縋るように問いかけると、卿は一瞬だけ表情を消し、それから酷く淡々と言い放った。
「うん、ありがとう。でもゆずには関係ないことだし、ゆずは家でいい子にしててくれるだけで十分だよ」
その言葉は、鋭いナイフのように僕の心臓を抉った。
「関係ないこと」
僕が足を踏み入れることを許されない、彼の領域。
「でも、僕も卿のこと助けたいし……」
「心配しないで、これは俺の問題だからさ」
笑う卿の顔が、霧の向こう側にあるように遠く感じる。
助けてあげたい。力になりたい。
なのに、彼は頑なに僕を外側に追い出す。
まるで僕は、彼を癒すための「置物」であって
対等なパートナーではないと言われているようだった。
「どうして……?」
「えっ?」
「…僕、そんなに頼りないの……っ?」
「え、ゆず……? どうしたの」
「どうしたの、じゃないよ…っ、僕がいくら卿の心配しても…っ、卿は…大丈夫、気にしないでって、そればっかじゃん……っ!」
抑えていた感情が、決壊したダムのように溢れ出した。
視界が涙で歪む。
僕を落ち着かせようと卿が伸ばしてきた手を、僕は生まれて初めて、烈しく振り払った。
「……なんで分かってくれないの……っ」
「ゆず、ちょっと待って」
「卿、いつも『心配しないで』って言うけど……僕だって卿を支えたいの! なんで全部自分で抱え込もうとするの……!?」
震える声で訴えても、卿の返答は残酷なほど優しかった。
「ごめん、違うよ、ゆずがいるだけで本当に救われてるんだよ。ゆずが家に居てくれるだけで、帰ってきたときにここが俺の居場所だって思えるし」
「なにそれ……そんなの、家政婦でいいじゃん。…僕じゃなくても、成り立つなら……! 僕なんかいらないじゃん……っ!!」
涙が止まらない。
僕は、彼を支え合える「人間」でありたかった。
守られるだけの、魂のない人形になりたかったわけじゃない。
僕を「庇護すべき存在」という枠に閉じ込める彼の愛情が、今は苦しくてたまらない。
「うっ……ひっ、ぐ……もう、いい……」
僕は、引き止める卿を無視して玄関へと走り出した。
溢れる涙を拭いもせず、無我夢中で靴に足を突っ込む。
だがその瞬間、鉄の万力のような力で手首を掴まれた。
「…ゆず、どこ行くつもりなの?」
背筋が凍りつくような、低く冷徹な声。
振り返ると、そこには見たこともないほど険しい表情をした卿が立っていた。
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