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その時アリエッタは考えた。
(ここって結局どこなんだろう。昨日はぴあーにゃの家っぽい所にお泊まりしたけど、車みたいなので移動してからは凄く広いんだよねぇ。天井も高い気がするし)
今更感が否めないが、それも無理も無い事だった。
今のアリエッタは、自分1人で外に出歩く事は出来ない。言葉が分からないまま知らない場所で道に迷った場合、人に聞く事が不可能だからである。それはアリエッタ自身も自覚している。
現状、自分で考えて動く事が出来ないせいで、現在地や目的地に対する関心が薄れていたのであった。さらに見る物全てが新しい物であるせいで、情報の整理が全く出来ないというのも、原因の1つでもある。
しかし頭脳も半分子供になっているとはいえ、そこは元大人のアリエッタ。最低限迷子になるのだけは避ける為、常に保護者の側を離れようとはしない。
(この場所がどういう場所か聞けたらなぁ……で、意味も分かったらなぁ)
アリエッタはこの日、王城を外から見ていない。朝に誘導されるまま魔動機に乗っていたら、いつの間にかベッドの上だったのだ。まさか昨日遠目に見たお城らしき建物にいるとは、全く思っていなかった。
大人達がディランに向けて冷たい視線を送りながら話している中で、周りをキョロキョロと見渡し始めた。
(結構広い部屋だなー。大人こんなにいても余裕あるし、会議室みたいな所かな? でもあんな大きいベッドあるから違うかな? う~ん……)
「アリエッタどうしたのよ?」
「ぱひー?」(そういえばさっきから何を話してるんだろう……あれ? ぱひー、疲れた顔してるような?)
間近にあるパフィの顔をじ~っと見つめるアリエッタ。
朝から城に招かれ、王様と会い、王妃に振り回され、アリエッタの誘拐事件である。パフィが疲れるのも当然だった。
そんな疲れた顔のパフィを見て、自然とアリエッタの手が頬に触れる。
「えっ……アリエッタ?」
「だいじょうぶ?」
パフィは一瞬何を言われたのか分からなかった。この騒動で、疲れている事を忘れていたのだ。
(も、もしかして、怖い顔になっていたのよ? いけないのよ、アリエッタにそんな顔見せてしまうなんて……)
慌ててアリエッタの頭に顔を埋め、思いっきり息を吸い込んだ。
「ふゃう!?」(くすぐった!)
「……ちょっとパフィ? 何してんの?」
「ふぅ……いやちょっと、一旦アリエッタ成分を補給しようかと思ったのよ……」
顔を上げた時、パフィの顔はかなり満足気になっていた。
「うらやま…じゃなかった、ビックリしてるからほどほどにね? 口に髪の毛ついてるよ」(後であたしもやろっと)
「う~……」(今の何だったんだろう……)
「ごめんなのよアリエッタ。いい匂いだったのよ♡」
突然始まったミューゼの家の日常風景。可愛がる2人とアリエッタの可愛い声で、冷え切った空気が一瞬にして和やかになってしまった。
「これがアリエッタちゃんの魅力……まさに天使ね」
「おまえら、カオ……」
他の大人達の表情がだらしなく崩れている。可憐で無垢な少女が愛される姿によって、大人達の心が浄化されているのだった。
しかし浄化されないままの例外もいる。
「……やはりアリエッタ嬢は王妃にふさわしい! どうかな? この城で教育するというのは! その為にも明日、我が妃に迎えよう! うむ、パーティの準備をしなければな。ドレスも──」
嬉しそうに両手を広げて主張するディラン。周囲の「何言ってんだコイツ?」という視線をものともせず、そのまま計画を語り始める。
そんな幼女趣味の王子の言葉に、違う反応を示す者が、アリエッタの隣に2人いた。
『……は?』
殺気など生ぬるいと思わせる程の、暗く冷たい眼をしたミューゼとパフィが振り向いた。暗い視線の向かう先は、もちろんいい気になって喋り続けているディラン。
直接その眼に見られていない他の5人は、慌ててディランの隣から逃げ出し、アリエッタ達の後ろに移動した。なぜなら……
(視界に入っているだけで殺される気しかしない!)
本能にまで響く程の恐怖であった。
逃げた本人達は、震えながら後ろでボソボソと言い合っている。
「ながねんいきて、あんなくらいメ、はじめてみたぞ……こわっ」
「お兄様すみません……わたくしには貴方を救えませんでした」
「王妃様……次の配属先は……」
既に全員、ディランの事を諦めている。王子を護る側仕えですらも、見捨てる始末である。
そこにアリエッタがトコトコと歩いてきた。
「ア、アリエッタ?」
「アリエッタちゃん?」
パフィに抱かれていたはずのアリエッタが、今目の前にいる。不思議に思ったピアーニャとネフテリアが、顔を上げた瞬間、ビクッと体を震わせる。2人が見たのは……
(もしアリエッタに見せたら)
(許さないのよ)
と語る眼だった。
「ピアーニャ! わたくしごと包んで!」
「りょうかいした!」
「わっ?」(お姉さん何!? どうしたの?)
ネフテリアがアリエッタの視界を奪うように抱きしめ、耳を防ぐ。すぐさまピアーニャが『雲塊』で2人を包み、隔離した。
そして──
ゴガァッ
城の上部の壁から、巨大な木が横向きに生えた。
「此度の破壊は…もちろん不問とする。むしろすまなかった……」
あの後、大きな破壊音に驚いた執務中の王が、兵士と共に駆けつけ、フレア達から事情を聴き出していた。そして全てにおいて王族側が悪いと判断し、城の破壊に関してはディランの怪しい魔法の実験結果という事にしたのだった。
そのディランはというと、ミューゼの植物魔法によって壁の外へと突き出されてしまったものの、運良く枝に引っかかって落下せず、フォークやナイフが刺さった程度の軽症で済んでいたのだった。今は魔法で治療され、部屋が直るまでは大きな風穴の空いた部屋で謹慎処分となっている。城の上層にあるせいで高度がある為、しばらくの間は野宿よりも寒い夜を過ごす事になるだろう。
時間も丁度良いからと、何故か食事の席に招かれ、王の側近から説明を聞き、王から謝罪を受けていた。
「もういいですよ。良かれと思ってやった事ですし、こうやって謝ってもらっていますし」
王女と仲良くなり、最後には王子をぶっ飛ばしたミューゼは、気分が落ち着いた事で緊張が軽くなり、王族に頭を下げられている事におかしさを感じるようになっていた。
なお、王政の無いラスィーテ出身のパフィには、イマイチその感覚が分からない。なのでアリエッタとふれあい、大人しくしている。
「ディランのバカは、しっかりみはっておけよ。またアリエッタがさらわれては、こまるからな。」
「もちろんです、ピアーニャ先生」
ディランの側仕え4人は、しばらくは罰としてディランの見張りをし、希望があれば転属という処置に落ち着いた。王族直属の兵として動ける程の人材なので、そう簡単には手放される事は無い。
この後も、王族たちにはピアーニャの小言が続き、なんともいたたまれない夕食になっていた。
そんな中、食事が終わり話についていけないアリエッタはというと、パフィの隣でボーっと考えごとをしていた。
(う~ん、ここはみゅーぜの親戚の家なのかな? 結構大きいけど、ぴあーにゃの家も大きかったし、こんなものなのかな? 個人的にはみゅーぜの家が一番過ごしやすいなぁ、広すぎないし)
「アリエッタ、暇なのよ? 今日たくさん寝ちゃったから、まだまだ元気なのよ。ほらおいで」
パフィはおもむろにアリエッタを膝の上に乗せ、何気なくアリエッタの髪を撫で始める。
「やっぱり綺麗な髪なのよ。また吸いたいのよ」
「ちょっとパフィ。次あたしだからね?」
「吸うって……でも気になるかも」
パフィはちょっと特殊な趣味に目覚めかけていた。
髪を撫でられたアリエッタは、ふと改めて自分の髪について考える。
(そういえば自分の髪の色が変わるのって、ママに教えられて以来は絵を描く時しか見てなかったなぁ。筆では見てるけど、たしかこの髪の束全部の先端が変わるんだよね。好きな色出す練習にもなるから、ちょっと試してみようかな。まずは赤から……)
突然の思いつきで、色の練習を始めることにした。
アリエッタの【彩の力】は、髪の毛を筆にする事で使いやすいようにしている。筆に色を乗せて、色をつけたい場所につけ、その絵を実現化しているのだ。
「あら、髪が……アリエッタ?」
「なんだ?」
髪の色が変わるのは先端のみ。それを意識的に色を変えていくのは、アリエッタにとっては特に難しいという事はない。赤から黄、緑、青と変化させていく。
「相変わらず不思議な光景なのよ。それに手にもつかないのよ」
ものに色をつける事が出来る髪だが、そういう風にしているのはアリエッタの意思であり、逆に言えば意識さえしなければ色がつく事は無い。絵を描いていない今なら、髪を撫でても手につかないのだ。
パフィの膝の上で安心しきっているアリエッタは、なんとなく色を変え続けていった。
「ちょっとパフィ…目立っちゃってるんだけど……」
「これがアリエッタちゃんの力? なんとも不思議ねぇ」
「まぁアリエッタにやめろというのはムズカシイからな。むしろ、ここでよかったというべきか」
虹色に変化する髪の毛を見て、パフィとピアーニャが真面目な顔つきになった。
「総長、これって……」
「うむ。まずいかもしれんな」
「どういう事?」
ネフテリアが首を傾げると、ピアーニャが真剣に話し始める。
「じつは、アリエッタがこのようにニジのようなイロになったのは、はじめてではない。アリエッタのほごのためにナイミツにしていたことがあるのだ」
「あっ、あの時の事?」
「うむ。レデルザードにパフィとミューゼオラがやられていたときだ」
「あの時のアリエッタは、凄く怒っていたのよ。叫びながら攻撃して、私達がどうにも出来なかったあの巨大な生き物の頭を砕いちゃったのよ」
正しくは、アリエッタを助けた女神の仕業なのだが、そんな事は誰も分からない。
「その時のアリエッタもこんな感じで、虹のような髪になっていたのよ」
実際には、女神の時は同時に全ての色が発現していた為、変化なしの虹色だった。今のアリエッタは1色ずつ変化させて、虹色に見えているだけである。
だが、この様な現象を見慣れている筈もない2人には、同一の現象にしか見えていないのだった。
「もしかして、今のアリエッタって……」
ミューゼに聞かれ、パフィがコクリと頷いた。
「ひどい目にあった事を怒っているのかもしれないのよ」
その言葉に、ミューゼとパフィ以外が息を飲んだ。
しかしアリエッタ本人はというと、
(おぉ……なんだかゲーミングマシンみたい。あれもこんな風にLEDがカラフルに変わっていくんだよねー。名付けてゲーミングアリエッタ~! なんてね♪)「んふ……」
怒りなど全く無く、パフィの胸の中でちょっとした笑いを堪えていたのだった。