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翌朝、部室の空気はどこかピリついていた。
凌先輩は昨日話してくれた「弱さ」を微塵も感じさせないほど、コート上で誰よりも激しくラケットを振っている。そしてそれを、遥が意地でも食らいつくように打ち返していた。
「……おはよう、紗南ちゃん。昨日はよく眠れた?」
ミーティング前、小谷先生が来るのを待っていると、成瀬先輩が隣に座ってきた。先輩の視線は、ホワイトボードの前で資料を整理している小谷先生に釘付けだ。
「あ、おはようございます。……はい、なんとか」
「そう。……ねえ、見て。今日の先生、珍しく眼鏡じゃない? 知的で最高すぎるんだけど」
成瀬先輩が悶えるように私の腕を掴む。昨日の「告白しないで後悔するよりマシ」という言葉が嘘のように、今の先輩はただの恋する乙女だ。
「……本当に、先生のこと大好きなんですね」
「え、バレバレ? ……まあいいや。紗南ちゃん、あのね。さっき先生が『今年の合宿は山の方のキャンプ場を併設したテニスコートを借りる』って言ってたの」
先輩は声をさらに潜めて、いたずらっぽく笑った。
「夜はバーベキューと自由時間があるんだって。……チャンスだと思わない? 私が先生を星空の下に誘い出すの、手伝ってよ。その代わり、凌と遥くん、どっちかが紗南ちゃんを連れ出そうとしたら、私が全力でカモフラージュしてあげるから」
「ええっ、そんな……!」
「いいじゃない、お互い様でしょ。……あ、先生が話し始めるわよ」
小谷先生がパンパン、と手を叩いて部員たちを集める。
「えー、再来週からの強化合宿についてだが……」
先生が説明を始める中、ふと視線を感じて顔を上げると、列の反対側にいた凌先輩と遥、二人の視線が同時に私にぶつかった。
期待、不安、そして譲れないという決意。
合宿という逃げ場のない二泊三日が、私たちの関係をさらに深く、複雑に絡め取ろうとしていた。