テラーノベル
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「……よし、書けた! 紗南ちゃん、これちょっと読んでみて!」
放課後の部室。他の部員たちがコートへ出たあと、成瀬先輩が「極秘事項があるから」と私を呼び止めた。差し出されたのは、ピンク色の可愛らしい付箋……ではなく、合宿の備品リストの裏に書かれた、びっしりとした文字。
「え、これ……小谷先生への手紙ですか?」
「手紙っていうか、作戦会議のメモ? 夜の自由時間に、いかに自然に先生を呼び出して、いかに生徒と教師の枠を超えた会話をするか……っていうシミュレーション!」
先輩の目は、試合中よりも真剣だった。
「『先生、ちょっとサーブのフォームを見てほしいんです』……これだと普通すぎ? やっぱり『先生、進路のことで相談が……』の方が夜っぽくていいかな?」
「……成瀬先輩、それ、本気で実行するつもりなんですか?」
「当たり前じゃない。さっきも言ったでしょ、後悔したくないの。……それに、先生ってば最近、合宿の準備で忙しそうにしてて、眼鏡の位置を直す仕草がもう……たまんないのよ」
先輩は悶えながら自分の顔を隠した。普段あんなにカッコいいテニス部のエースなのに、先生の話になると途端に年相応の女の子になる。そのギャップが少しだけ羨ましかった。
「……成瀬先輩、頑張ってくださいね。私にできることがあったら、何でもしますから」
「ありがと、紗南ちゃん! その言葉、忘れないでよ?」
先輩はパッと顔を上げると、少しだけ真面目な顔になって私の肩を叩いた。
「私のことはいいの。……それより、あんたの方こそ覚悟しなさいよ。合宿って、良くも悪くも『化けの皮』が剥がれる場所だから。凌も遥くんも、コートの外であんなにバチバチしてるんだもん。何かが起きないわけがないわ」
先輩の予言めいた言葉に、私はゴクリと唾を呑んだ。
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