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今彼の脳内では夢と現実、自愛と自責が戦争を繰り広げているのだろう。知ったことではないが、ぶつぶつと永遠とつぶやいているのは気味が悪いので、早急に記入を終わらせるか、人間として壊れるかしてほしい。
「なあ、本当に離婚するのか……」
あと一画で書き終わ等速るというタイミングで呟いた。あと一画という今際の際に、あまりに無情なあっけなさでも覚えたのだろうか。
少し涙ぐむ彼の姿は、ほんの一瞬ではあったが付き合い始めたばかりの頃の、私の愛した彼であった。
「……書けた」
漢字を習った小学生のような言葉を醜く育った彼は最後に残した。
すると、ちょうど通達知らせる鐘がなった。はじめは小さな音だったが、時間とともに大きくなっていき、ついには雨音を超えるものになっていた。そのあたりで晃一は、それが自分のものだということをようやく認識したようで、焦って立ち上がり、私へ一言もなく会話を始めた。
不思議な時であった。無音のようで雨は聞こえ、彼の声も聞こえていた。だが、そのすべてが曖昧で、この湿気からか霞がかっていた。時は歪むようで遅いようで、等速で。この世界でこの場だけが、何か異質な変化を遂げ、空洞となってしまったのか。
「はい、そうですか」
彼はただこの二言、それだけを機械の向こうへと返した。そこに漂う哀愁といたら、離愁と言ったら。
私が彼を壊したのだ。この彼は私が作った、私のものなのだ。決して晃一でも、玲奈でもなく、私のものなのだ。
「おめでとう。社会のごみくずさん」
私の祝福がよほど嬉しかったらしい。彼の瞳は、人類歴において、これほどまでになく小さな点を成し、殺意以外を虚とした狂人のものとなった。血のよくよく通っ他頭部は、まるで腐ったトマト。びしょびしょであるとともに乾いていて、ぐちゃぐちゃのしわくちゃ。
魔王にでもなった気分だ。これまで強敵相手に挑み続けた英雄は、いつしか乞食へ堕ちた。もはやそこにいるのは、自らの怒りを呪いとする気品なき怪物。