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純一は不器用に応えようと、俺の肩にしがみついてきた。
吐息が熱を帯び、部屋の静寂に濡れた音が小さく響く。
「り…りひとしゃん、れろ、って、いっぱいされて……じゅんくんの、とろとろになっちゃう…」
「…ん、は……純一、気持ちいい?」
「んんっ……もっといっぱい、ちょうらい……?」
とろんと緩んだ瞳で、さらに強請るように唇を突き出してくる。
甘い痺れが脳を突き抜けるが
俺は彼のふやけた意識の裏にある、微かな「過緊張」の|残滓《ざんし》を見逃さなかった。
「ふふ……今日はいつもよりずっと甘えん坊だね。会社で何かあった?」
髪を優しく撫でながら問いかけると、純一の身体が強張ったのが分かった。
さっきまでの幸福そうな笑顔が、陽炎のように消えていく。
「……あは、は…実はね、失敗しちゃったんだ」
「失敗?」
「上司の人がね、書類の提出『いつでもいいよ』って言ったから……じゅんくん、明日にやろうと思って…」
「そしたらさっき、『常識がない』って、すっごく怒鳴られちゃったの」
「……そっ、か…それは純一、びっくりしたし、悲しかったよね」
「…言葉の意味、勘違いしちゃったみたい……」
純一の瞳に、再び大粒の涙が溜まり始める。
高次脳機能障害の代表的な特性だ。
言葉の裏にある『暗黙の了解』や
『文脈によるニュアンス』を読み取ることが、彼にはどうしても難しい。
社会は彼に「25歳の大人の常識」を求める。
だが、額面通りにしか言葉を受け取れない彼にとって
その『いつでもいい』という言葉の罠がどれほど酷なことか。
「純一なら『いつでもいい』って言われたら、言葉通りに受け止めるのは当然だよ。純一は悪くない」
「…っ、で、も……また、めいわく、かけちゃった…!がんばってるのに……っ、ちゃんとお仕事しなきゃ、大人にならなきゃって思ったのに…」
堰を切ったように、純一の口から苦痛が溢れ出す。
「それにね、? ほかにも……っ、書類の数字まちがえちゃって…せんぱいに、やる気あるのかって……っ、おこられちゃったの……っ」
「……っ」
純一の声が、段々と過呼吸特有の短く苦しいものになっていく。
俺は彼の背中に手を回し
さする速度を落としながら、できる限り低く落ち着いたトーンで語りかけた。
「純一、息を吸って、ゆっくり吐いて。……今日は、午後から頭がぼーっとしてた?」
「うん……数字が、なんか霞んで見えて…昨日、一生懸命メモして教えてもらった手順も、半分、忘れちゃってて……っ」
涙が止まらないまま、純一は俺のシャツの胸元をぎゅっと、引きちぎらんばかりの力で握りしめる。
「うう、っ、ひ、ぐっ……やる気、あったのに……がんばりたかったのに……っ!」
過呼吸気味になりながら、必死に自分を弁護しようと、許しを乞うように言葉を紡ぐ純一。
25歳の、世間的には立派な大人の男が
俺の腕の中でボロボロと涙を流して、まるで迷子になった子供のように声を上げて泣いている。