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俺は古着屋に来ている。小さい頃からの友人のミズキとともに。その古着屋には、アメリカから直接輸入された古着が並んでいるという。ミズキは大の古着好きで、今日この古着屋に来ている理由も、こういう場所に掘り出し物があるからという理由であった。大量にハンガーにかかっている服を見ていると、ミズキが一着の茶色のジャケットを取り出して、俺に見せながらこう言った。
「このジャケット、タカトが着たら超似合うと思うんだけど。着てみてよ!」
俺はミズキに言われるがままに試着室に行き、ジャケットを羽織ってみた。確かにとても俺に似合っている気がする。ミズキもジャケットを着た俺の姿を見て、「絶対買った方がいいよ!運命感じるわ。」と言った。そこまで値段が高くもなかったので、俺はそのジャケットを買うことにした。
帰りはミズキの車で、俺と彼女のマナミが住む家まで送ってもらっていた。昨日は夜遅くまで仕事があったからあまり寝ていない。俺は車に揺らされながら、寝てしまっていた。
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気づくと俺は家にいた。しかし全く俺には見覚えのない家。しかも雰囲気が日本ではなく、アメリカンな感じである。俺は寝室へと歩いていっていた。俺の意思ではなく、誰か他の人物が体を動かしているような感覚である。そして寝室に入ると、髪の長い金髪の外国人の女の子が、裸になってベッドに横たわっていた。そして俺に向かってこう言った。
「Henry, let’s spend the night together soon.(ヘンリー、早く一緒に夜を過ごしましょう)」
俺はほとんど英語がわからないのだが、不思議と彼女の言っている言葉の意味が分かる。俺は彼女にこう返した。
「Rose, let’s have a hot night.(ローズ、暑い夜にしよう)」
そして俺は服を脱ぎ、彼女のベッドに入った。脱ぎ捨てた服の中には、俺が買ったあのジャケットも見えた。そして行為を始めようとしていた。
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「おい、タカト!家に着いたぞ!」
ミズキの声で目が覚めた。夢だったのか。でも、夢にしてははっきりとしていた。まるで現実で見ている光景のように。それに夢に俺が今着ているジャケットが出てきていた。何だか不気味である。俺はミズキにお礼を言い、家に入った。
「おかえりタカト!あら、そのジャケットいいじゃない?」
俺が帰るとマナミはこう言ってきた。やっぱりこのジャケットを買ってよかったと思いつつ、俺はこう返した。
「ただいま。ミズキが選んでくれたんだよ。似合ってるだろ?」
俺の言葉に対しマナミは「ミズキはオシャレだから間違い無いよ」と言った。
俺とミズキとマナミはいわゆる仲良し3人組というやつだ。小中高、大学生時代はほとんど一緒に過ごしてきた、いわゆる幼馴染。ただ、俺はマナミのことが友達としてではなく、異性として好きになっていた。俺がミズキにそのことを打ち明けると、ミズキは俺がマナミにプロポーズができるように、大学卒業旅行を企画してくれた。そして旅行中に俺はマナミにプロポーズをし、OKをもらうことができて現在に至るという訳である。だから俺はミズキに頭が上がらない。
夜ご飯を食べ、マナミとソファに座り録画していた映画を見ていた。気づいたらマナミは寝落ちしていた。気持ちよさそうに寝ているマナミを見ていると、俺も何だか急に眠くなってしまい、マナミに寄りかかるように眠りについた。
*ここからは読み手の読みやすさと筆者の労力を解消するために、英語で喋っているシーンを全て日本語で書かせていただきます。
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昼に見た夢と同じ部屋に立っている。正面には昼の夢で行為を共にした女性が立っており、俺?にこう話しかけてきた。
「会社に行くのね。寂しいわ。」
彼女の言葉に俺(ヘンリー)はこう返す。
「できるだけ早く帰ってくるよ。愛おしい君を待たせたりしないさ。」
そう言い彼女のほっぺにキスをした。前回の夢では気づかなかったが、ヘンリーも彼女(ローズ)も結婚指輪らしきものをしている。新婚なのだろう。そして斜め左に見えるクローゼットには、例のジャケットが掛かっていた。そしてヘンリーはそのジャケットを羽織り、家を出た。すると景色に白いモヤがかかり、モヤがあけるとオフィスにいて、パソコンを打っていた。そして同僚らしき男が近づいてきてヘンリーにこう言った。
「ヘンリー、ローズさんとの新婚生活はどうだい?あんな可愛い嫁がお前にできるなんてな。羨ましいよ。」
ヘンリーはこう返す。
「まぁ控えめに言って最高さ。ロイも早く彼女を見つけて結婚すればいいじゃないか。」
ロイはこう返した。
「そう簡単なもんじゃない。それにお前みたいに付き合い始めてすぐに結婚できるほど勇気がないよ。でも今のヘンリーを見てたら俺も勇気出してみようかなって思ってしまうね。」
ヘンリーのデスクにはローズとの2ショット写真が飾ってある。写真を眺めているとロイは「仕事に戻るわ!」と言い、疲れからか赤くなった目を擦りながら向こうに行ってしまった。彼も大変なのだなと思っているとまた目の前に白いモヤがかかり、モヤがあけたらバーらしき場所にいた。隣には上司らしき男が座っている。その男はヘンリーにこう言った。
「どうだいヘンリーくん。ローズとの共同生活は。」
ヘンリーはこう返す。
「最高ですよお義父さん。いえ、すみません。ルイス課長。」
ルイスは笑いながらこう返す。
「ハハハ、別にお義父さんでも構わんよ。私達は家族になったんだからな。」
ルイスはこう続ける。
「ローズは私の1人娘だ。妻が早くに死んで、これまで男手独りで育ててきた。ローズには大変な思いをさせてきたんだ。だからこれからはどうか、君がローズを幸せにさせてあげて欲しい。」
ルイスの頼みを聞いて、ヘンリーはこう返す。
「心配はいらないですよ。僕ならローズを幸せにできます。」
ルイスは「ありがとう」と呟き、グラスに残っていた酒を飲み干すとこう言った。
「ところでヘンリーくん。君が今着ているそのジャケットカッコいいじゃないか。前から持っていたか?」
ヘンリーはこう返す。
「いえ、最近古着屋で買ったんです。一目惚れしましてね。ルイス課長も着てみます?」
ヘンリーはジャケットを脱ぎ、ルイスに着させた。ジャケットはルイスにも似合っていた。
ヘンリーはこう続ける。
「僕より似合ってますよ!よかったらあげましょうか?そのジャケット。」
ルイスもジャケットが気に入っている様だ。喜んでいる様子のルイスを見ながらヘンリーは続ける。
「でも一つ気になることがありまして。そのジャケットを手に入れてからというものの、変な夢を見る様になったんですよ。どこかの青年の見ている景色を追体験している様な。その男の子もこのジャケットを着ているのですよ。何だか不気味な夢です。」
ヘンリーの言葉に対してルイスはこう返す。
「ジャケットとは関係ないんじゃないか?たまたまだろう。まぁ、その変な夢は早く見ない様になればいいが。」
こうして例のジャケットはルイスの元へと渡った。
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日差しに照らされ目が覚めた。寝落ちしていたようである。まずい、今何時だ?俺は時計を見た。朝の7時15分。よかった、いつもぐらいの時間だ。横ではマナミが気持ちよさそうに寝ている。彼女は今日デスクワークだと言ってたし、起こさなくても大丈夫だろ。それにしても、連続で同じアメリカ人の男の夢を見るなんて。夢でヘンリーってやつも言ってたけど、原因はあのジャケットなのか?これまでの持ち主が体験してきた景色を夢で見るっていう。不思議な話だが、もしそうであれば、次はルイスの見た景色を体験することになるはずだ。いや、そんなの現実的ではない。きっと俺が夢の中で勝手に作り出した物語なのだろう。こんなこと気にしている場合ではない。早く仕事に向かわなくては。
俺は現在、建築関係の施工管理業をしている。大体は日中に仕事があるのだが、たまに夜勤があるという感じだ。まだ新米なので決して稼ぎが良いとはいえないが、将来結婚を考えているマナミのためにも早く仕事を覚えて現場を任される様な存在になろうと考えている。今日の現場はとある商業施設で、改築をするらしく解体作業の仕事をしているところだ。今は長くの間店舗が入って無かった、所謂空きスペースの整理をしている。俺が現場に入ると、先輩であるタカハシさんと作業員のエンドウさんが何やら話していた。俺はタカハシさんに声をかけた。
「おはようございます!何かトラブルでも?」
俺の問いに対して、タカハシさんはこう答えた。
「トラブルじゃないよ。昨日エンドウさんがこのエリアでこれを見つけたそうなんだ。」
そういって見せられたのは、年期の入ったジーンズだった。タカハシさんはこう続ける。
「何でこのジーンズがこんなところにあったのかは知らんが、エンドウさん曰くかなりいいものらしい。いわゆる年代ものらしいよ。元請けから好きにしていいって許可が出たら売ろうって話してたところだよ。」
そういえばエンドウさんは古着に詳しいんだっけ。俺は古着に興味があるわけではないので、目の前のジーンズの価値がいまいち分からないが、そんなに良いものならエンドウさんが貰えばいいのに。俺は何も喋らずにジーンズを見つめているエンドウさんにこう尋ねた。
「エンドウさん古着好きでしたよね。売らなくたってエンドウさんが貰ってしまえばいいのでは?」
エンドウさんは俺の方に振り向き、こう答えた。
「こんなところにずっと放ってられていたものだからな。誰が着ていたのか、なぜ放置していたのかも分からない。少し君が悪いだろう?」
エンドウさんの返事を聞き、タカハシさんがこう言った。
「そんなこと言ってたら古着屋で服買えないじゃないか。エンドウさんよく古着屋で服買ってるじゃないの。」
エンドウさんがこう返す。
「まぁ、確かにそうだが。店で買うのとはまた別の話さ。俺の考え方なんだけどさ、服ってその服を着た人の霊(タマシイ)が宿るって思ってるんだよ。そう考えるとさ、このジーンズの持ち主に何かあったんじゃないかって思うんだよね。やっぱり不自然じゃん。こんな長い間使われてなかった場所に、こんな良いジーンズがあるの。」
タカハシさんは笑いながら「スピリチュアルかよ」と返していたが、エンドウさんの言葉を聞いて俺はあのジャケットのことを考えていた。もし本当に俺の夢に、前の持ち主の見た景色が映っているのだとしたら?あのジャケットには霊が宿っている?もしかしたら俺に何かを伝えようとしているのだろうか。俺が考え込んでいると、タカハシさんから「作業始めるぞ!」と呼びかけがかかったので、俺は一旦、ジャケットのことは忘れて仕事に集中することにした。
今日の作業が終わり、俺は家へと帰ってきた。マナミが作ってくれていた夜ご飯を食べ終わり、ソファで録画していたバラエティ番組を2人で見ていた。テレビを見ながら笑っていた俺に、目が赤くなり眠たそうにしたマナミはこんなことを聞いてきた。
「タカトさ、私たち今こうして付き合ってるわけだけど、ミズキはどう思ってるのかな?」
マナミの急な問いかけに対し、返答を戸惑っていると、マナミはこう続けた。
「ごめん、急にこんなこと聞かれても困るよね。その、私とタカトとミズキって、昔は3人仲良くって友達って感じだったでしょ。それなのに私とタカトが今こんな関係だからさ、ミズキ1人で寂しんじゃないかって。」
なるほどそういうことか。確かにマナミの言う通り俺たちは、前の仲良し3人組という様な関係ではない。でも、今でもミズキとはよく遊んでいるし、例のジャケットだって、ミズキと一緒に選んで買ったものだ。多分寂しいとは思ってない、はず。俺はこう返した。
「大丈夫だよ。卒業旅行(プロポーズ旅行)だってミズキが計画してくれたものだし。もう前みたいに3人で一緒にいることはできないかもしれないけど、きっとミズキは俺とマナミのことを応援してくれているはずだよ。」
俺がこう返すとマナミは「タカトがそう言うんだったらきっとそうだね」と返して、昨日の様にうとうとし始めたので、俺はマナミをベッドまで運び、俺自身も寝支度をし始めた。
ミズキのことは今でも親友だと思っている。マナミも彼女となるまではそうであった。でも、ミズキは俺たちのことを本当はどう思っているのだろう。外から見れば俺とはいつも通り仲良くしてくれて、マナミのことも応援している。でも内面は?本当に心の底から俺たちのことを良く思っているのか?心の底では前みたいな3人の関係が良かったと思っているのかも。マナミの考えていることが正しいのかもしれない。今度少しオブラートに包んで聞いてみよう。ミズキの本音を聞くべきだ。それはそうと、今日も例のアメリカ人の夢を見るのだろうか。今度はジャケットを譲って貰ったルイスの景色を?俺は不安に思いながら、すでにぐっすりと寝ているマナミの横で目を閉じた。
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俺の目の前には、昨日までのヘンリー達が住んでいた家とは違う景色が広がっている。部屋の隅に置かれている鏡にはルイスの体が映し出されていた。その様子は、昨日見たヘンリーとローズの未来に期待を乗せていた時とはガラリと変わり、何だかひどく疲れている様に見える。俺(ルイス)は受話器を取り、誰かに電話をし始めた。
「おはようヘンリーくん。ちょっと2人きりで話したいことがあるんだ。今日の夜、例のバーにこれるか?」
電話の相手、ヘンリーはこう返した。
「もちろんです。声に元気が無いようですが、大丈夫ですか?」
ルイスは「夜に話す」と言い、電話を切った瞬間目の前にモヤがかかった。モヤが開けると昨日のバーにヘンリーと一緒にいた。正面に座っているヘンリーがルイスに話しかける。
「話とはなんです?やはり元気が無いように感じますが。まさか、あのジャケットの件ですか。」
ルイスはこう返す。
「あぁ、そうだ。俺も夢を見たよ。スクールに通っている、多分君の見ていた青年と一緒だ。」
ヘンリーはこう返す。
「泣き虫の青年ですね。ルイス課長も同じ景色を見たなんて。彼、些細なことで泣き出してしまうでしょう?なかなか大変そうですよね。」
ヘンリーの言葉を聞き、ため息をついたルイスはこう返した。
「彼、首を吊ったよ。鏡の前で、泣きながら、笑顔で。」
2人の間に静寂が訪れる。そして目の前にモヤがかかり、モヤが開けるとルイスの自宅の景色が広がった。1人で飲み直しているのか、テーブルには空き瓶が転がっている。そしてルイスは独り言をこぼしていた。
「ヘンリーのやろう!とんでもないものを俺にくれやがって!俺が呪われたらどうするんだ!」
すると電話機から電話がかかってきた。ルイスは乱暴に受話器をとる。
「どちら様ですか!?こんな夜遅くに!」
電話の相手は弱々しくこう答えた。
「ローズよ、パパ…。殺される。助けて。」
一気に酔いが覚めたルイスは電話に向かってこう叫ぶ。
「何があったんだローズ!?今どこにいる!?」
ローズはこう答える。
「ヘンリーと私の家…。ヘンリーも撃たれた…。私、死にたくないよ…。」
ルイスは「ローズ!」と叫ぶが、これを最後にローズの声は途切れてしまった。ルイスはバッドと銃を持ち、ヘンリー達の住む家に向かうため車に乗り込んだ。ここでまたモヤがかかり、開けるとヘンリー達の家の前にいた。家に入りルイスがリビングに駆け込むと、そこにはすでに頭を撃ち抜かれ、絶命しているであろうヘンリーが血溜まりの上に倒れていた。
「そんな馬鹿な、ヘンリー…」
そう呟くルイスの後ろから男が近づいてきて、ルイスに話しかける。
「ルイス課長のせいですよ。あなたが勝手に、強引にヘンリーとローズをくっつけたから。俺はローズのことが好きだったのに!」
ルイスが振り向くと、そこには涙を流しつつも笑いながらこちらに銃を構えている、ヘンリーの同僚、ロイの姿があった。
~~~
「うわぁぁああ!!!」
俺は飛び起きた。何だ今のは。ヘンリーとローズ、そしてルイスがロイに撃たれたのか。なんて夢だ。もう、とても俺の想像の中の夢だとは思えない。あれは目の前のクローゼットにかかっている、あのジャケットの前の持ち主達が実際に見た現実なんだ。あのジャケットはきっと、夢の中でヘンリー達が言ってた泣き虫の青年の呪いがかかっている。そうなれば、俺も誰かに殺される?俺が考えていると横で寝ていたマナミが、目を擦りながら驚いた様子でこう聞いた。
「どうしたのタカト?変な夢でも見た?」
どうやら俺の叫びで起きてしまったらしい。俺はこう返した。
「ごめん。ちょっと怖い夢を見てた。大丈夫だから気にしないで。」
そうだこれは単なる夢だ。呪いなんてあるわけない。俺は心配そうにしているマナミをもう一度寝かせつけると、仕事の支度をして家を出た。
現場に着くと、何やら人が集まり騒いでいる。何かあったのか。俺はタカハシさんの元へ行き、事情を聞いた。どうやら昨晩、現場周辺から男の遺体が見つかったそうだ。身元はすでに割れており、なんとあのジーンズが見つかった空きスペースに店舗を持っていた店の店主らしい。彼は生前借金の影響でヤクザと揉めており、返さなければ資産を没収すると脅されていたそうで、そのうちの一つが現場から見つかったあのジーンズだったそうだ。そしてタカハシさんはこんな話も聞いたらしい。
「死因の詳細とかはまだ分からないんだが、遺体はズボンを履いてなかったらしい。ヤクザに殺された後脱がされたのか、はたまた自死をする際にジーンズだけ空きスペースに隠したのか。前者なら何故押収されずに空きスペースにジーンズがあったんだろうな。」
確かにおかしな話である。俺たちが遺体について話していると、エンドウさんが近づいてきてこう言った。
「あのジーンズを貰わなくて良かったよ。きっと遺体で見つかったやつの怨念が憑いているだろうからな。」
いつもならこんな話されても流すだろうが、今回ばかりはそうはいかなかった。例のジャケットが頭をよぎるからである。何でこのタイミングでこんなことに巻き込まれるんだよ。誰かに相談したいが、マナミに相談するのはなんか違う。適当に流されてしまいそうだ。ならばミズキか。そもそもあのジャケットはミズキに勧められて買ったものなのだから、俺の相談相手になる義理があるはずだ。俺はミズキに連絡し、今日の夜にミズキの家で話を聞いてもらうことにした。
~その日の夜~
俺はミズキにこれまでのことを話した。あのジャケットを着てからおかしな夢を見ていること、夢で出てきた外国人達が殺されたこと、今日のこと、全部話した。俺の話をひとしきり聞いたミズキは、タバコに火をつけながら言った。
「まぁ、俺は古着が好きだからたくさん集めているけど、これまでそんなことは無かったよ。タカトの見ている夢が想像ではなくて呪いによるものだったら、相当運が悪いってことだね。」
俺はこう返す。
「そりゃこんなこと普通はないだろうさ。だからミズキに相談してるんだよ。俺はどうすればいいと思う?」
タバコを一吸いして、笑いながらミズキが返す。
「もうあのジャケットを手放せばいいんじゃね?呪いの根源を無くせばそんな夢見なくなるかもよ。」
確かにそうかもしれない。でもヘンリーはジャケットをルイスにあげたにも関わらず、ロイに撃たれて死んでしまった。あのジャケットを着てしまったが最期、呪いから逃れることはできないんじゃないだろうか。俺が考えながらミズキを見ると、ミズキが赤い目をして涙を流している事に気づいた。俺はこれまで見てきた夢を思い返す。ヘンリーとルイスを撃ったロイは笑いながら泣いていた。まるで何かに取り憑かれたかのように。そしてルイスが言っていた首をつった泣き虫の青年。彼も泣きながら笑って首を。まさか、俺はこれからミズキに殺される?そう考えてしまった俺は立ち上がり、取り乱しながらミズキに叫んだ。
「お前、俺のこと殺すつもりだろ!やっぱり俺とマナミのこと良く思ってなかったんだな!?」
俺の言葉に驚きながらミズキが返す。
「な、どういうことだよ?俺がタカトを殺すだって?そんなことするわけないだろ!マナミのこととか今関係ないし、お前どうしたんだよ。」
「夢の中でヘンリー達を撃った奴も今のミズキみたいに笑いながら泣いていたんだよ!お前も呪われたんじゃないのか!?」
俺の言葉に対し、ミズキはこう返す。
「今俺が泣いているのはタバコの煙が目に入ったから!笑っているのは正直お前の話がくだらないって思ったからで、それは悪かったよ。タカトがそこまで思い詰めてるなんて思わなかったから。」
ミズキの言葉を聞き、俺は座って落ちつきを取り戻した。ミズキが続ける。
「俺がタカトとマナミのこと良く思ってないってどういう意味?お前他にもなんかあったんじゃないのか?」
俺は昨日マナミに言われたことを話した。今の俺とマナミを見て、ミズキはどう思っているのかということ。俺の話を聞き、ミズキはこう言った。
「そっか。確かに前みたいな3人の関係に戻りたいと思うこともあるけどな。でも俺はタカトがマナミが好きだって俺に言ってくれた日から、お前ら2人を応援するって決めたんだ。俺はタカトもマナミも親友としてずっと好きだから。この気持ちに嘘は無いよ。」
これがミズキの本音。俺はミズキに頭を下げ、涙を浮かべながら言った。
「ミズキ、ひどいことを言ってごめん。お前を疑うなんてな。俺たちはずっと親友だよな。」
ミズキは「当たり前のことを言うなよ」と、笑いながら返した。
家へと帰り、俺は夕食を食べながらマナミにミズキの本音を伝えた。マナミは俺の話を聞いてこう言った。
「それがミズキの気持ちなんだね。良かった。私ももっと自分の気持ちに正直にならなくちゃ。」
今日は寝ないでおこう。寝なければあの夢を見ないで済むはずだから。そして明日、あのジャケットを燃やしてしまおう。泣き虫の青年の魂が成仏できるように祈りを込めながら燃やすんだ。そうすればきっともう、あの夢を見ないで済むはず。しかし、夕食を食べていた俺は、何だか急に瞼が重くなった。そして気づけば俺はテーブルにもたれ掛かりつつ寝てしまっていた。
~~~
気づけば俺はルイスの見る景色を見ていた。昨日の夢の続きである。銃口を向けられているルイスは、ロイに対してこう言った。
「ローズはどこにいる?!何も自分が愛している女まで手にかけることはないだろ!」
ロイが返す。
「あぁ、ヘンリーとあんたをやれればよかったさ。だがヘンリーを撃った俺を見て、ローズがこう言ったんだ。「地獄に堕ちろ」って。俺の気持ちも知らずに!ついカッとなってね。ローズを撃った。」
奥の部屋を見るとドアが開いており、そこから血溜まりが見える。絶望の表情を見せるルイスにロイに対し、引き金を弾きながらこう言った。
「次はあんただよ。ルイス。」
“パァーン”と、サイレントがついているものの部屋には銃声が響いた。ルイスは手に持っていたバットを離しながら後ろへと倒れる。そのバットをロイは拾い上げ、ルイスの前へ立った。急所は外れたのか、ルイスはまだ意識がある。ルイスはロイに語りかける。
「なぜだ。私は君の上司だから分かる。君はこんなことをする人間ではないはずだ。頼むからもうやめてくれ。」
ロイは泣きながら、笑顔をみせてこう返した。
「あんたは苦しませて殺してやる。このバットで頭をバラバラにしてやるよ。」
ロイの様子は、まるで狂気を誰かに操られているように見える。ルイスは身体を動かして逃げようとするものの、身体は動かない。ロイがルイスの頭に振り落とそうと、バットを振り上げる様子が見える。そして振り落とされたバットはルイスの目前に迫ってきた。
酷く頭が痛い。呼吸も苦しい。早く夢から醒めてくれ。気づくと目の前には、椅子に座って俺を見ているマナミの姿が見えた。夢じゃない。これは夢じゃない。現実だ。今俺は現実で苦しんでいる。口から血の味がする。俺は血を吐いていた。ボヤけた視界に映るマナミは、苦しみもがく俺を見てこう言う。
「おかしいなぁ。苦しませずに殺せる毒薬のはずだったんだけど。まぁ、殺せたら何でもいいか。」
マナミが今日の夕食に毒薬を。何で?どうして?言葉すら発せない俺に、マナミはこう言う。
「聞こえているか分からないけど、一応教えてあげるね。これからタカトが死ぬのは、私がミズキと一緒になるためだよ。」
訳が分からない。マナミは俺のことが好きなはずだろ!マナミは続ける。
「私ね、本当は昔からずっとミズキのことが好きだったんだ。でもミズキは鈍感だから私の気持ちに気づいてくれない。それどころかタカトと付き合えって言ってきて。別にタカトのこと嫌いじゃないし、ミズキのためにもとりあえず我慢しようと思ってたけど、やっぱり無理だよ。だってタカトじゃなくって、ミズキのことが好きなんだもん。」
現実だと思いたくない。そうだ!これはまだ夢の続きだろ?そうに違いない。そうであってくれ。そう考える俺に、マナミはこう言った。
「タカトがいなくなれば私はミズキの所へ行けるようになる。ミズキは優しいから、きっとタカトを失った私のことを見てくれる。だから、ごめんねタカト。あなたはいなくなるの。私達の前から。」
マナミのこの言葉を聞いたのを最後に、視界が赤く染まっていく。ミズキと一緒になるためだとしても、マナミがこんなことをするはずがない。きっとあのジャケットの怨霊に操られてるんだ。そうなんだろ?きっとそうだ。崩れゆく意識の中、俺が最後に見たマナミの顔は、赤い目をして泣きながら、笑っていた。
尊人(タカト)を毒殺した愛美(マナミ)は、遺体を山へ埋めようと準備をしている。物を整理していた愛美の目に止まったのは、例のジャケットであった。愛美は独り言をこぼす。
「せっかくだし、売っちゃおう。近くにリサイクルショップがあったはず。」
こうしてジャケットはリサイクルショップへと渡り、店頭へと並んだ。
~数日後~
とある仕事終わりのサラリーマンがリサイクルショップへと足を運んでいた。彼は古着のコーナーへと行き、服をかき分けながら買う服を決めようとしていた。するとピタッとかき分ける手が止まる。彼の目には茶色いジャケットが目に止まった。彼はそのジャケットをハンガーから外し、試着もせずにレジへと向かった。
彼は家へと帰り、玄関を開けると勢いよく6歳の娘が飛び出してきてきた。
「おかえりパパ!今日はパパの大好きなハンバーグだって!」
愛する娘の言葉に父は笑顔で、「ただいま。パパ嬉しいな!」と返し、妻の待つリビングへと入った。帰ってきた夫がビニール袋を持っているのを見た妻は、「何を買ってきたの?」と夫に問う。夫はビニール袋からジャケットを取り出し、妻と娘の前で着て見せた。
「どう?帰りがけリサイクルショップに寄って買ってみたんだが、似合ってるかな?」
父からのの問いかけに対して娘は「パパかっこいい!」と返し、妻も「似合ってると思うよ!」と返した。
夕食を食べ終わり、夫は妻に部屋で余っている仕事を終わらしてくると伝え、仕事部屋へと入った。妻がつけたテレビではニュースをやっており、キャスターが事件を読み上げている。
“今日の午前11時、同棲相手の殺害及び、死体遺棄の容疑で塚本愛美容疑者24歳が逮捕されました。塚本容疑者には、行方不明となっていた中村尊人さん25歳の殺害の容疑がかけられており…”
妻はテレビで報じられているニュースには目もくれず、スマートフォンを見ている。そこへ娘が近づいてきて、こう言った。
「ママ。なんでスマートフォン見ながら泣いているの?嫌なことあった?」
彼女は赤い目をして、泣きながらスマートフォンを見ていた。娘に心配されていることに気づいた彼女は、娘にこう返す。
「大丈夫だよ。何でもないから。さぁ、良い子はもう寝る時間だよ!」
彼女は娘を連れて、ベッドへと向かった。机に置かれたスマートフォンは、とあるホームページを映し出している。そのページには、[殺人衝動の抑え方]と書かれていた。