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「いらっしゃーい!どうぞ!」
「さっくんお疲れー!お邪魔しますー!」
「…お邪魔します。」
ニャンズの偉大な力をもってしても未だ拭い去れないモヤつきを抑えながら、ドアを開ける。そこからは【皆の前での佐久間大介】を演じてはいたものの、不意に蓮と目が合えば笑顔はそのままに思わず目を逸らしてしまった。
笑顔で塗り固めた俺の表情の変化を一瞬でも逃すまいと尚も見つめてくる蓮の視線も、気付かぬフリをしたまま。
ドアを押さえながら2人が敷居を跨いだことを確認すると、俺は鍵とチェーンをしっかりとかけ、キッチンへと向かった。
「それでどうしたの、ほんとに急に。びっくりしちゃったじゃん!」
温めた焙じ茶とお菓子を準備しながら、我が家のようにソファで仰向けに寛ぐ康二と、ソファには座らずにローテーブルとの間で胡座をかいて部屋を見回す蓮に問いかける。明るいトーンのその声に、僅かに嫉妬の色を混ぜ込んで。
「いやほんまごめんやで、さっくん。」
「ううん、それは全然良いんだけどね?」
康二、今聞きたいのはそんな感じの解答じゃないんだ。
「収録終わってからもずっと一緒にいたの?」
「俺はあの後すぐ別の収録とかインタビューとかあったんだけど、 」
「俺も時間はちゃうけど後からの仕事が同じ局やって。」
「そう。それで俺の方が上がり時間が早かったみたいなんだけど、帰りのタイミングがちょうど被って。」
──ほんとに?
「ほんまそれ、たまたま帰り際の廊下でめめとばったり会うてん。びっくりしたな?」
「うん。スケジュールで同じ局だとは知ってはいたけど、まさかだったね。」
「…へぇ、」
───それって、蓮が康二の上がりを待ってたんじゃないの、?
疑念と考察がふつふつと込み上げてくる。まず、康二が嘘を吐くことは絶対にない。蓮だって、誤魔化すことはあっても必要性のない嘘は吐けないはず。
何で俺の家に訪れた時に蓮の様子がおかしかったんだろう。ていうかもし2人がお互いを想い合っていたとしたなら、そもそも俺んち来なくない?
…2人の思惑が、解らない。
そう難しく考えながら再びダイニングに目をやると、シャチにべったべたに擦り寄られ『帰ったら愛犬に嫉妬されるのでは』と触れ合いに困っている蓮と、触れそうで触れない絶妙な距離を保つツナに警戒心丸出しで見つめられながら、《ツナぁ、こっちおいでやぁ…。》とどうにかして触れ合いたい康二の構図があまりに対照的過ぎて。
「っふふ、」
(まあ、いっか。考えてても仕方ないや。)
やっぱり同じグループのメンバーとはいえ、年下の後輩はどうしたって可愛いものだよなぁ。と余計な考えを全部吹き飛ばした。
マグカップをそれぞれの前に、テーブルの真ん中には様々なお菓子を少しずつ並べた皿を置いてから、俺は蓮の右隣に少し間隔を空けて腰を下ろす。
「…あ。それでさ。」
いつの間にかあぐらに丸まったシャチ、肩に座り込んだツナを乗せて──というか乗られて──やや前傾姿勢になっている蓮が、思い出したように声をあげる。そうして最早俺ですらどうでもよくなってきていた訪問の理由の説明を続けた。
「俺、今日2人が岩本くんに怒られてるのを見て思ったんだよね。『今はやめて』『静かにして』ってはっきり言わなかった俺も悪かったなって。だから会った時に康二にそれ伝えて、佐久間くんにも言わなきゃってなって、」
「さっくんならまだ起きてるやろし、なんならいっそサプライズで突撃しちゃえばええやんって俺が提案したっちゅーわけ。」
「…うん、そういうこと、です。」
そーっと伸びてきた康二の手に爪をしまって猫パンチするツナが、蓮の肩から飛び降りて俺に擦り寄ってくる。その一方で未だ胡座に居座るシャチの機嫌を損ねまいと少しずつこちらに身体の向きを変え、
「佐久間くん。俺も、ごめんなさい。」
全くもって謝罪するほどのことでもないのに、それでもしっかりと頭を下げてくる蓮。俺は何だかくすぐったい気持ちになって、向けられたその頭を両手でわしわし撫で回した。
「、うぉっ!?」
「あは、いいよっ!」
しばらく撫で続けていると、《俺もぉ!》と寂しがり屋が勢いよく割り込んでくる。その勢いに驚いたシャチとツナは蜘蛛の子を散らすように散開した。
「あぁごめんツナシャチー!」
「んっふふ、康二もよしよーし!」
片手を康二の頭に移して同じように撫でる。明るくて、それでいて穏やかな時間が部屋中に流れた。