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裏社会での恋は、日常では味わえないような盛り上がりがある一方で、常に危険と隣合わせだった。
極道というのは、常に周辺組織との抗争が耐えない。
それ故に、組員はもちろんのこと、その周辺人物も、いつ疑われ、命を奪われるかわからない。
彼の組織は今、敵対する有力な極道と、抗争に踏み切ろうとしていた。
しかも今回の相手は、営業許可の件で私も世話になっている組織だ。
両組織から、裏切り者と思われぬよう、私達は常に、極秘で会っては、人目を忍んで行動していた。
そんなわけなので、私は抗争中、闇医者に運ばれた彼をすぐに見舞うことはできなかった。
話は後に事務所を訪れた際、彼の舎弟である髪の長い男から、怪しまれないようにそれとなく聞いた。もちろんこの人さえも、私達の関係は知らない。
すると彼と戦ったのは、かつて私を飛鳥馬師匠の元へ送ってくれたあの男だという。彼は顔や肩を貫かれても、決して倒れず、最後は、背後から敵の舎弟に打たれ、生死の狭間を彷徨ったという。
どちらも任侠を重んじ、弱いものに手を差し伸べるとても良い人たちなのに、上からの命令で殺し合いをしなくてはいけないとは、裏社会の命は、なんと軽いものなのだろう。
私は髪の長い男に、見舞いだといって持ってきた花と果物を彼に渡すように頼み、事務所を去った。
さらに数年後。
今度もまた、彼の組織は抗争の真っ只中だった。
しかし今回の敵は、前回よりもさらにやっかいな相手だ。
不気味な男たちが顔を揃える、近頃急速に力をつけていた巨大マフィア組織。
それだけでも十分手強い相手だが、今回私には、それ以上の大きな問題があった。
そのマフィア組織というのが、実は兄の所属する組織だったのだ。
どうかこのままうまいこと和解してほしいという私の願いも虚しく、彼の組織と兄の組織との抗争は、勢いを増す一方だった。
私にもついに、決断の時がやってきた。
抗争が起きた際、一切の関与をせず、特定の組織に味方しないという約束の元で、複数の組織から営業許可を得ていた私は、彼の組織に味方するわけにはいかない。さらに、万が一私の素性が割れたら、スパイを疑われ、命を落とすことになるだろう。
私には、このまま彼の元を去るしか、道は残されていなかった。
机の上にあった便箋に
「このような形でお別れを告げるご無礼を、どうかお許しください。私のことなど忘れて、どうぞお幸せになってください。」
と書き、手紙の最後に
「追伸 : くれぐれもお気をつけて。一本の腕が、あなたの背後に迫っています。あなたのご無事を、心よりお祈り申し上げます」
と付け加えると、そのまま音を立てないように彼の部屋を出ていった。
彼が、手紙に隠された意味を、どうか汲み取ってくれることを願って…。