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その報告を受けたのは、立川音大から帰宅してしばらくした時だ。
恋人の島野レナから侑のスマホに電話が掛かってきた。
『侑……っ…………うぅっ』
いつも明るい声音で電話を掛けてくるレナが、その日は嗚咽しながら声を震わせている。
『レナ? そんなに声を震わせてどうした?』
『あなたの…………お父さんとお母さんが……』
そこまで言うと、レナは電話越しの向こうで泣きじゃくった。
『おい、泣いてたらわからんぞ。親父と母さんがどうしたんだ?』
『ウィーンから…………ザルツブルグへ向かう途中で…………交通事故に遭って…………亡くなったって……』
『……え?』
(…………嘘……だろ……?)
侑は、何かの間違いだろう、と思いながらも絶句した。
『こっちでは……既にニュースになってる。日本でも……ニュースになっているかも……しれないよ……』
彼はパソコンを立ち上げ、ニュースサイトを開くと、海外のニュースカテゴリに『世界的マエストロ響野弦氏、妻でソプラノ歌手の響野エリカ氏、ウィーン郊外で事故死』と見出しが出ている。
『まさか…………そんな……』
侑はレナと電話が終わっても、そのまま崩れ落ちるように床へしゃがみ込み、その日は一睡もできなかった。
翌日、侑は朝一番に立川音大とJ響の事務局に電話を入れ、両親がオーストリアで事故で亡くなった事を伝え、すぐに日本を発った。
ただでさえ長い十数時間のフライトが異様に長く感じ、こうして飛行機に乗っている自分が、いまだに信じられない。
侑は、仮眠を取ろうとするが、全くと言っていいほど眠れず、機内食も全然手を付けられなかった。