テラーノベル
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第一話「赤いマフラー」――スタジオの明かりが、ふっと暗くなる。
丸いテーブルの上に置かれたロウソクが、ゆらゆらと揺れている。
「みなさん、こんばんは……」
静かに微笑んだのは司会のさくら。
その隣には、しっぽをゆらゆら揺らしながら座る、しゃべるネコ――ニャロ。
「にゃっはっは……今日は特に寒い夜だにゃ。こんな夜は、背筋がゾッとする話がぴったりにゃ」
さくらは小さくうなずく。
「今夜も、“もっと聞きたい怖い話”のお時間です。
最初のお話は……“赤いマフラー”。体験者の美玲さんです」
ロウソクの炎が、大きく揺れた。
――そして、話が始まる。
美玲の話
「私は美玲。これは……私が体験した、怖くて不思議な話です」
あれは、去年の冬のことでした。
雪が降り始めた、12月の終わり。
学校からの帰り道、私はお気に入りの赤いマフラーを巻いていました。
そのマフラーは、おばあちゃんが編んでくれたもの。
やわらかくて、あたたかくて、少し長め。
私はその日、いつもと違う道を通りました。
近道だと友達に教えてもらった、古い公園の横の細い道。
夕方なのに、やけに暗い。
街灯が一本だけ、チカチカと点滅していました。
そのとき。
「……寒い」
背後から、かすれた声が聞こえました。
振り向いても、誰もいません。
雪だけが、しんしんと降っています。
気のせいだと思い、歩き出した瞬間。
ぎゅっ。
首が、後ろに引っ張られたのです。
「え……?」
振り返ると、私の赤いマフラーが、誰もいないはずの空中でピンと引っ張られていました。
まるで、誰かが掴んでいるみたいに。
私は必死に引っ張りました。
けれど、マフラーは離れません。
そして、耳元で。
「それ……あったかそう……」
はっきりと聞こえました。
私は叫び、思いきりマフラーをほどき、その場に置いて走って逃げました。
後ろを振り返ることは、できませんでした。
家に帰ってから、熱が出ました。
三日間うなされ続けました。
夢の中で、誰かが私のマフラーを巻いて、にやりと笑っていました。
顔は、見えません。
ただ、目だけが――真っ黒でした。
数日後、私は勇気を出してあの道を見に行きました。
マフラーは、ありませんでした。
でも。
街灯の下に、雪の上にくっきりと残っていたのです。
足跡が。
私のものではない、裸足の足跡が。
そして、その足跡は、公園の奥へと続いていました。
私は気づきました。
あの日、声の主は。
「寒い」と言っていた。
もしかして――
あの子は、ずっとあそこで、寒いままだったのかもしれない。
それからです。
私が新しいマフラーを巻くと、必ず。
どこからか。
ぎゅっ、と引っ張られる感覚がするのです。
誰もいないのに。
今も。
たまに聞こえます。
「それ……ちょうだい……」
私の首元が、少しだけ冷たくなるのです。
そして、最後にひとつ。
あの赤いマフラー。
後日、町の掲示板に、こんな張り紙を見つけました。
『赤いマフラーの落とし物を探しています
小学生くらいの女の子のもの
三年前の冬、公園でいなくなりました』
写真がありました。
そこには。
私と同じ赤いマフラーを巻いた、見覚えのない女の子。
でも。
その写真の女の子は――
私に、そっくりでした。
「……これで、終わりです」
美玲の声が消える。
スタジオに静寂が広がる。
ニャロが、小さくつぶやいた。
「マフラーってのは……首に巻くものだにゃ。
でも時々、“誰かの想い”まで巻いちまうことがあるのかもしれないにゃ……」
さくらは静かに微笑む。
「あなたの首元は……今、あたたかいですか?」
ロウソクの炎が、ふっと消える。
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