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「――認める。お前のいうとおりだった」
「何の話だ」
さっぱり分からないと、首を傾げる真面目君は、自分がいった発言なんか覚えていませんと僕を見る。まあ、僕もしょっちゅう自分がいったこと何て忘れるし、インタビューとかで、それいいましたよね? っていわれても、ピンとこないことなんてざらにある。
まあ、人間生きてれば、それなりに発言はするし、そんなこといちいち覚えていないだろう。自分に関わる事じゃないなら、記憶から消していく。それが、生存本能。それが、普通。
僕は、レオ君の隣に腰を下ろし、ある意味負けたと、彼に振ってやった炭酸飲料の缶を渡した。レオ君はそれを疑うことなく手にとって「ありがとう」といった後、缶の蓋を開ける。プシャアアと勢いよく飛び出した炭酸は、レオ君だけじゃなくて僕にもかかった。こんなはずじゃなかったのに。
「飛ばさないでよ。びちょびちょじゃん」
「すまない……こんなことになるとは、思っていなかった。炭酸も、閉じ込められていて辛かったんだな」
「どんな感性」
思わず口に出してしまったが、レオ君はそんなこと気にする様子もなく、自分をふくまえに、僕にハンカチを差し出してくれた。
「何?」
「いや、使うかと思って。祈夜も濡れただろ」
「別に、僕は濡れてないけど」
「そうか」
と、レオ君は、すぐに引き下がっては、自分にかかった炭酸をふいていた。僕は、レオ君に背を向けて、持ってきていたハンカチで濡れたところをふく。何というか、渡されたものを使いたくなかった。いや、レオ君に借りを作りたくないっていう僕の意地というか。
(……調子狂う)
僕が、背を向けていれば、レオ君は座らないのか、なんてすっかり炭酸をふききったような顔で、僕を見てきた。まあ、足も痛いし、座るかと、隣に腰掛ければ、レオ君は少し嬉しそうに笑っていた。いつも、こう。僕が隣に来ると嬉しそうに笑うんだから、意味が分からない。
「それで、さっきの話は何だったんだ? 認めるとか、俺の言うとおりだったとか」
「覚えてたの」
「祈夜がいったことだからな」
いつもは、そんな気にしないのに、こういう時だけ、と色々と文句は言いたかったが、それを全部飲み込んで、僕は、別に、と感情を表に出さないよう必死に足を組んで、気を紛らわした。取り繕っていないと、ボロが出てしまう。空っぽで、何もない僕なんて、レオ君はどうでもイイと思うだろうから。
此奴の、顔色なんて気にしても無駄だって分かってるし、人の顔色なんて伺って生きていたら、辛いだけだって言うのも分かってる。でも、これは癖だ。
「……認める。ほら、前さ、レオ君僕が恋してるとかいってたじゃん」
「いった……か」
「いったんだよ。この脳みそ鳥頭」
「鳥に失礼だ」
と、真顔で返され、話をする気もだんだんと失せていく。
(はあ、僕は何と話してるんだろう……)
そんな気さえしてきたが、気を取り直して話す。いつもだったら、面倒くさくなった時点で、やめるのに……今日は、何だか聞いていて欲しいと思ってしまった。
紡さんに酷いことしたからだろうか。それとも、それは間違ってなかったと肯定して欲しいから?
いや、きっと、らしくないけど……
「恋してた」
「祈夜が?」
「だから、何で驚くの。はあ……恋してたの。この間連れてきてた人に」
「そうか……」
「その人と喧嘩した」
「別れたのか」
「付合ってもいないんだけど?」
そういうと、レオ君はそれもまた意外だというように目を見開いた。もう、ころころ変わるその顔を見ていると、紡さんを思い出すから嫌だ。嫌だというか、レオ君じゃない、その顔が見たいのは、とか思ってしまう自分がいる。
いつからだっただろう、恋だって気づいたのは。バカみたいだって思われるかもだけど。
(紡さんが、他の人に触れられているところみて、『お願い』を聞いているところみて、すっごくいやだった。モヤモヤして、気持ち悪かった)
あれが、嫉妬という感情なんだろう。はっきりと分かった。分かってしまった。一生分かる事なんてない感情だと思っていた。一番僕が演じるの、苦手な感情。
そうして、何で昨日ああなっていたのだとか、色々紡さんに聞く前に、八つ当たりするように、紡さんにぶつけてしまった。もしかしたら、バレてたかも知れない。僕が泣きそうだったこと。後からそれも気づいたけど、自分が泣きそうで、いやだったから八つ当たりしていたって、紡さんが気を失った後に気づいた。
僕は、演じるのが上手いと思っていた。
でも、違った。心と体がバラバラなんだ。自分の感情すら理解できていない。
だから……でも、そんな僕をきっと紡さんは受け入れてくれる。僕も好きだし、両思いだし。あの告白の返事をやっと返せるんじゃないかって、あんな酷いことした後だけど思ってしまうわけで。
「それで、祈夜はどうしたいんだ」
「どうもこうも、まず仲直りして。告白の返事するつもり」
「そうか……」
「だから、何? 言いたいことがあるならはっきりと」
「芸能人の恋って難しいと思うぞ」
「はあ?」
さっきから、何を言うんだ、とそろそろ頭にきて、バッと振返れば、そこには、真剣で、深刻そうな表情をしたレオ君がいた。自分がそれを経験しているから分かる、みたいな、そんな顔。
「は……マジで」
「聞いておいて、損はないと思う。俺の話」
「そこまで言う?」
半分冗談で、半分本気で、僕は笑い返した。きっと、上手く笑えていない、動揺していただろうけど。