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「離婚なんて世間体が悪い。マンションだって買ってやっただろ。絶対、離婚は認めないぞ」
義母が本当に義祖父を連れてきたので少し驚いた。
そして、個室だからといって病院で怒鳴り散らすとは本当に常識がない。
「あのタワーマンション本当にいりません。慶明小学校だと都内一等地の一軒家でないとバカにされます。昔ゴミ捨て場だった場所に住んでいるなんて考えられないと陰口を言われるんです。それなのに、タワーマンションに戻ると何階に住んでいるか聞かれます。正直に答えると、高層階に住んでいるからってマウントをとってきていると言われます。どうせ、節税対策に買ったマンションですよね。投資物件として貸し出したらいかがですか?」
私は今の生活にずっと息苦しさを感じていた。
私は離島に生まれて東京に夢を見てきた。
東京に出るには飛行機に乗らなければならず、CAになりたいと思ったのだ。
でも、近所同士で作った野菜を分け合うような生活をしてきた私に東京はあっていなかった。
どちらが上か下か常にマウントを取り合い続ける環境は私には無理だったのだ。
ミライの小学校の保護者も、子供までもそのような人が多かった。
「貧乏人のバカ嫁のくせに偉そうに」
吐き捨てるように言った義祖父の言葉にため息が漏れた。
「看護師さん、政治家の西園寺亨は弱者に寄り添う政治とか言ってますけれど、実はこのような方です。学歴を鼻にかけて貧乏人をバカにしています」
私が義祖父の後ろに来ていた看護師さんに声を掛けると、義祖父は一瞬固まった。
「あの、面会はお一人まででお願いしたいのですが」
ナースが戸惑いながらいう言葉に義祖父は真っ赤になりながら怒り出した。
「うるさい、高い金払って個室にしてるんだ」
「いくら個室でもルールを守るのは最低限のことですよ、義祖父様。しかも病院でそのように叫んではなりません。それにしても、先ほど義母さんも同じようなことを言ってました。西園寺家に入ると社会のルールも守れなくなるようですね。早く離婚しておかしな家を出たいです。幸い夫の不倫相手はたくさんいそうで、慰謝料も多く取れそうです。養育費もしっかり払ってくださいね。正志さん、たとえ会社を不貞行為で辞めさせられても頼れる極太の実家があるからお金には困らないですよね」
「杏奈、考え直してくれ、ミライには父親が必要だろ。心を入れ替えてお前だけを愛するようにするから」
夫の言葉にゾッとしてしまった。
私は最初から夫を愛したことがない。
だから、彼に愛すると言われてもちっとも嬉しいと思えない。
「ミライの判断に委ねますが、私にはあなたは必要ありません」
昏睡状態に陥る前、私のことを拒否してきたミライを思い出した。
私はミライと一緒にいられるチャンスがあるなら、一緒に暮らしたい。
でも教育虐待のようなことをしてきた上に、彼の苦しみから目を逸らした私を彼が許すかは分からない。
「お母さん、目覚めたんだ」
その時、義母がミライを連れてきた。
ミライはなんだかやつれている。
「ミライ、心配かけてごめんね。今日は学校はお休みなの?」
私はミライを見るなり泣きそうになるのを耐えながら彼に尋ねた。
私が「学校」というフレーズを出した途端、彼の顔がこわばるのがわかった。
きっと、彼はまだ学校で苦しい虐めにあっているのだろう。
男の子のプライドだろうか、彼はそれを自分から私や夫に言おうとはしない。
でも、私は気がついたのだから彼を救うことに全力を注ぐべきだった。
「今、緊急事態宣言中で休校中だから」
ミライの言葉に、私は今がパンデミックのような状態で緊急事態だということを悟った。
おそらくそれが原因で、フライトも大幅減便しているから夫もここにいたのだろう。
「ミライ、お母さん、お父さんと離婚するようなこと言っているんだよ。ミライはお父さんと一緒に暮らしたいよな」
ミライは明らかに夫の言葉に戸惑っていた。
夫は1ヶ月前、私と離婚してミライを連れて行くと言ったことを忘れてしまったのだろうか。
私はミランダ・ミラになっていた時も、一瞬たりともあの日の夫を忘れたことはない。
ずっと私の尊厳を踏み躙ってきた彼に復讐をしたいと思っていた。
「ミライ、お母さんはお父さんとは離婚することにしたの。ミライには今まで無理やり勉強させて息苦しい生活をさせて申し訳なかったわ。実はお母さんは中学生になるまで、一度も勉強をしたことがないの。学校が終わると島の子と魚釣りをしたり、のんびり過ごしてきたわ。離婚してお母さんは島に戻ろうと思う。ミライはお父さんとこのまま東京で暮らすか、島でお母さんと暮らすか選んでくれる?」
私はミライと一緒に暮らしたいと思っている。
しかし、私自身も彼を傷つけるようなことを沢山した自覚がある。
だから選択権はミライに委ねるべきだと思った。