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半年前からバイトをしている、このカフェ「アンジュ」は朝の七時から夜十時までオフィス街の一角、その中にある古い商業ビルの一階で営業をしている。
その為忙しいのは平日のモーニング、ランチタイムだ。
定休日はまわりのオフィスに合わせて日曜日。
モーニングは航平と、航平の父であるオーナーが。
柚はその後九時から出勤し、ランチタイムが終わると休憩を続けて二、三時間貰う場合もあれば何度かに分けて休ませてもらう時もある。
が、基本営業が終わり掃除をして夜の十時半頃に帰るのが、なんとなくいつもの流れ。
「天野さん、もっと早く帰ってもいいんだぞ」
「いえいえ、今はとりあえずたくさんこのお店で働きたいので!」
力んで拳を作り応えるけれど、航平は、うーん、と。なおも悩む素振りを見せる。
「……もう1人雇うか考えてんだけどな。 いやでも親父の復帰も近そうだし、どうするかな」
考え込む航平に、今度は優陽がカウンター席に座ろうと床に固定されたイスを軽く回転させつつ言った。
「おじさん、腰だいぶ良くなった?」
「ん? ああ、まだ長時間立ってるのが無理みたいだけどな」
「そっか、ならよかった」
二人がカウンターとレジ前という五メートルほどの微妙な距離感で話すのを眺める。
そう。
もともとは、航平とオーナーである航平の父が二人でまわしていた店なのだ。
柚は腰を痛めてしまったオーナーのピンチヒッターでもある。
まあ、人手不足なので復帰後もクビになる予定はないそうなのだけれど。
「おう、また親父にも顔見せてやれよ……っと」
会話が途切れて、航平がポケットからスマートフォンを取り出した。
「なに? 女?」
「うるさいぞ」
「ははは、まあ、この時間に着替えてんだから、そっか」
特に楽しくもなさそうに、わざとらしい乾いた笑いを出す優陽。
その視線がキッチンにいる私に向けられた。
「柚、まだ着替えてないね。 航平、彼女に鍵渡してあるんでしょ?」
「ん? ああ、時々閉めて帰ってくれてる。 俺が早く上がる時とか」
「ははは、女と遊ぶ時ね」
だからお前は、と。 言い返す航平の声を遮って。
「俺と柚で閉めといたげるから、早く行けば?」
「いや、着替えくらい待つけど」
「え? 航平に合わせて急がせなきゃダメなの? 柚を?」
航平はレジの売上金を袋に入れながら、呆れたように眉間を寄せた。
「へーへー、二人きりにしろってか。 まあ、いいよ」
繰り広げられる会話を優陽と航平。二人を交互に目に映しながら聞いていると航平柚へと声をかけた。
「天野さん。悪いな、俺先に上がるけど。 あと入口閉めてシャッターおろして貰うだけだから」
「はい、いつものとおりにやっておきますね」