テラーノベル
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その日、音は急に冷たくなった。
同じ鍵盤のはずなのに、響きが違う。
柔らかさは消え、どこか硬質で、乾いた音。
短調。
彼はその言葉を知っていた。
だが“理解”はしていなかった。
「……違う曲みたいだ」
ぽつりと呟く。
隣にいた仲間の一人が、鍵盤から手を離した。
「同じだよ」
「でも……こんなに暗い」
答えは返ってこなかった。
その夜、知らせが届く。
母が倒れた、と。
世界が一瞬で遠くなる。
病室は静かだった。
機械の音だけが、規則的に鳴っている。
「……来たのね」
母の声は、以前よりもずっと細かった。
「星、見てる?」
彼は答えられなかった。
窓の外には、確かに星があった。
だがそれは、あまりにも遠く、冷たく感じられた。
ド、ド、ソ、ソ――
頭の中で旋律が鳴る。
だがそれは、もう優しいものではなかった。
同じはずなのに。
同じであることが、こんなにも残酷だった。