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「梓!!」聖奈はベランダに出て声を張り上げる。
「わ!びっくりした!いきなり大声出さないでよ!」ベランダで体育座りをしていた梓が驚いたように聖奈に言う。
「梓!?はぁ〜・・よかったぁ〜・・生きてたぁ〜・・」
聖奈は目の前に梓が居た事で安心したのか、目にうっすらと涙を浮かべながらその場に座り込む。
「生きてた?生きてたって何?」
「いや、もしかしたら梓が飛び降りたのかな?って思って・・・」
「何バカな事言ってんの?卒業したら駿との同棲が待ってるんだから!死んだりする訳ないじゃん!」
「まぁ、それもそうだよね」
聖奈は梓の横にゆっくりと腰を下ろす。
「てかどうしたの?こんな時間に・・・」
「う、うん・・ちょっと寝れなくて・・」
「そう・・だよね・・あんな事があった後だもんね・・普通に寝れる訳ないか・・ごめん」
「聖奈が謝る事ないよ?聖奈は何も悪くないんだから」
「ありがとう・・梓」聖奈は梓を自らの体に抱き寄せる。
それから2人は夜風に当たりながら、雑談を続ける。
「え?梓ってあの時、駿くん押し倒したの?」
「ま、まぁ・・でもダメだって言われちゃった・・エ○チは私が高校卒業してからだってさ」梓は不満そうに頬を膨らませる。
「へぇ〜・・駿くん・・よく耐えれたね」
「どうだか!意気地が無かっただけだよ」梓は依然として頬を膨らませて不貞腐れている。
「まぁ!まぁ!これでも飲んで忘れようよ!」
そう言う聖奈の手には2本の缶ビールが握られていた。
「え?ビール?何処から持ってきたの?」
「何処って、冷蔵庫の中にあったよ?おばさんが飲んでたヤツなんじゃないの?」
「ああ・・まだ残ってたんだ・・」
梓は忘れようとしていた母の面影を再び感じた事で、複雑な心境になり夜空を見上げる。
「ほら!飲もうよ!」聖奈は梓に缶ビールを差し出す。
「えー・・それ苦いから嫌い」
「苦いからって・・飲んだ事あるの?」
「あ、いや、えっと、ちょっとだけね?駿の家に初めて泊まった日の夜に、駿が飲んでたヤツを少し飲んだだけ・・」
梓は焦った様子で弁解する。
「教え子にビール飲ませるくせに、エ○チはダメなんて言ってんの?善悪の基準が分かんないなぁ駿くんって」
「まぁ、私が勝手に飲んじゃっただけだから・・その後にすぐ取り上げられちゃったし」
「ふーん・・そういう事か・・ならいいや!私1人で飲も!」
聖奈は缶ビールを開けようとするが梓は「待って!やっぱ私も飲む!」と言って缶ビールを手にする。
「いや、無理しなくていいよ?嫌いなんでしょ?」
「大丈夫!もう飲めるから!多分・・」梓はそう言うと缶ビールをプシュという音を立てて開ける。
「じゃあ私も!」聖奈も梓同様にビールを開ける。
「じゃあ乾杯!梓!」「うん!乾杯!」
2人は乾杯をすると、勢いよくビールを飲む。
「うげぇぇ〜・・やっぱにっが!!」梓は苦痛に歪んだような表情をする。
「な゛に゛ごれ゛・・ごん゛な゛に゛がい゛の゛?」聖奈はビールのあまりの苦さに顔をしかめる。
「やっぱ無理だ!」2人は缶ビールを手にしたままキッチンへ走りシンクに流す。
「やっぱ私たちにはまだ早かったね」
「あはは!だね!」2人はシンクにビールを流し捨てながら微笑む。
「わかってると思うけど、これはウチらだけの秘密だからね?」
「わかってるよ!秘密!」
それから2人は誰にもバレないようにそっと寝室に行く。
2人が寝室に入った事を確認すると、駿がそっと目を開ける。
「俺・・起きてるんだけどな・・」
そう呟きながらゆっくりと起き上がり、シンクへ向かい、蛇口を捻り水道水を手のひらに溜めて飲む。
「梓にはもう、俺しかいない・・絶対に守ってみせる・・・」駿はそう心の中でつぶやく。
梓もベッドに横たわりながら、いずれやって来るだろう駿との同棲の日々を思い浮かべながら微笑む。
互いに2人の明るい未来を思い描いていた。
しかし運命と言うものは時に残酷なもので、2人に順風満帆という物を与えてはくれなかった。
それが、明らかになったのは週明け、月曜日の事だった。
霞学園高校に通うとある女子生徒は、自宅のリビングで母親と共に朝食をとっていた。
「ちょっと!アンタ観てみなさいよ!売春グループ逮捕だってよ!」母がテレビのモニターを指差す。
「売春グループ?」娘は母が指差すテレビを見る。
テレビでは、梶橋の逮捕を放送しているニュース番組が放送されていた。
「繁華街の裏路地って近所じゃん!やばっ!」
「アンタも気をつけなさいよ?最近は物騒なんだから!」
「わかってるよ!」娘はうんざりした様子で味噌汁を口に運ぶ。
そこにスーツ姿の父が新聞を片手にやって来る。
「あなた!新聞読みながら歩かないでって!いつも言ってるじゃない!」
「ああ・・悪い!」父は空返事をすると、新聞を折りたたみ椅子に座る。
「観てよパパ!売春グループ逮捕だってさ!」
「ああ!新聞にも書いてあったな・・確か繁華街の裏路地なんだろ?あの辺はヤバい店多いらしいからな」
父は納豆をかき混ぜながらテレビを観る。するとテレビモニターに一瞬RAMが映し出され、それを観た父の表情が変わった。
「ん?このバーって・・・」父はテレビモニターを食い入るように見つめる。
「どうかしたの?パパ?そんなにこのニュース気になる?」娘が父に尋ねる。
「いやさ・・ホラ!同じ学年にさ!若い男の先生居るだろ?誰だっけ・・ホラ!名前が出てこない!誰だっけ?」
父が記憶を探っていると「皆川先生?」とご飯の入った茶碗をキッチンから持ってきた母が言う。
「そうそう!皆川先生だよ!皆川先生!」
「皆川先生がどうかしたの?」
「いやな・・人違いかもしれないんだけどな?金曜日の深夜・・ホラ!俺が仕事終わりに呑みに行ったろ?その帰りに見たんだよ!この裏路地から皆川先生が出て来るところ!」
父の言葉に母と娘が目を見開く。
「え?まじで?」「アナタ?それ間違いないの?」
娘と母が父を問いただす。
「いや、そんな言われると自信無くなってくるけど・・多分間違い無いと思う」
「こうしちゃいられないわ!」父の言葉を聞いた母はスマホを手にする。
「なんだ?学校に苦情でも入れるのか?」
「当たり前じゃない!売春斡旋をしてる店がある場所に教師が出入りしてるなんて!」
母はスマホを操作して霞学園高校に電話をする。