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 暁が八番街制圧の準備に取りかかっている頃、十四番街でも動きがあった。暁の後援を受けたトライデント・ファミリーの幹部マルコは、消極的なボスと他の幹部達を説き伏せていよいよ十四番街制圧のために動き始めた。先ずは更なる勢力拡大である。 十四番街は他の区画と違い支配者足る巨大勢力は存在しない。いくつかの中規模組織と、多数の小規模組織がしのぎを削り合う群雄割拠の区域である。

 この中でトライデント・ファミリーは小規模組織に該当する。正確には中規模組織へと成り上がれる下地は十分にあるが、トライデント・ファミリーの属する区域を支配する中規模組織ホーライ・ファミリーによって抑え込まれている。

 ホーライ・ファミリーの方針は安定した経営であり、支配地域に存在する組織間の抗争を抑制し、更に規模を増しつつある組織に対して圧力を掛けてこれを抑制する。こうすることで支配地域の安定を図っているのだ。トライデント・ファミリーもこれまで何度も抑え付けられており、マルコとしても邪魔な存在であった。

 今まではその組織力の違いから我慢を強いられていたが、マルコが主体となって数年掛けて準備を整え、更にシャーリィから提供された資金によって十分な力を得られたと判断したマルコは、ホーライ・ファミリーと最後の交渉に当たる。

 場所はホーライ・ファミリーの支配地域にあるレストラン。店内には一般客も居て、更に護衛は僅かなもの。これだけでもトライデント・ファミリーを舐めているのが分かった。




 マルコは苛立つ部下達を抑えて単身店内へ乗り込み、ホーライ・ファミリーを率いるヨセフとの交渉を開始した。




「何か食うか?貧乏なお前らには縁がないだろうから、今日はご馳走してやる」




 ホーライ・ファミリーを率いるヨセフは、でっぷりと肥えた身体を揺らしながら高級である黄昏産の食材をふんだんに使用した料理を食べながらマルコを迎えた。




「いや、遠慮しておくよ。今日は時間を取らせて悪いな」

「ふんっ、意地を張りやがって。まあ、俺は寛大だからな。無礼は許してやろう。それで?」




 ヨセフに促されたマルコは対面に座り、静かに口を開く。




「質の良い葉っぱを作ることに成功したんだ。それを使って商売を拡大させるから、一応知らせとこうと思ってな」

「なんだと?そんな話は一度も……まあ良い。それで、分かってると思うがアガリの七割をちゃんと納めろよ」




 ホーライ・ファミリーは支配地域の組織からアガリの七割を徴収している。反発した組織はいくつかあったが、全て見せしめに壊滅させている。当然七割も取られては組織拡大など夢物語である。

 だが、今回は違う。




「あんた達のシマじゃ売らねぇんだ。だからアガリは無しの筈だろ」




 一応ホーライ・ファミリーの持つ販路を利用しているので、アガリの七割は仲介手数料と言う名目である。




「なんだと?俺のシマの外で商売をするつもりか?そんな勝手が許されると思ってんのか?」

「あんた達には迷惑掛けねぇよ。他所で商売をするんだからな。だから、アガリを納めるのも今日までだ」




 マルコの言葉を聞き、ヨセフはテーブルへフォークを静かに置いた。




「ふざけたこと言うじゃねぇか。最近何かとうるさく思ってたが……てめえにはここのルールをもう一度叩き込んでやったほうが良さそうだな?」

「こっちは筋を通してわざわざ報告に来てるんだ。その辺りを汲んでくれねぇのか?」

「分からねぇな。ベネットの野郎がこんな真似できるとは思わねぇ。てめえの猿知恵だろ?マルコ。所詮は余所者、流儀を知らねぇらしい。おい」




 ヨセフが合図をすると数人の男達が集まる。



「ここのやり方を優しく教えてやれ。殺すなよ、ベネットの野郎にもう一度釘を刺しとかねぇといけねぇからな」

「ドン・ヨセフ。なあ、考え直さないか。あんた達のシマで騒ぎを起こすつもりもないんだ。商売を自由にさせてくれるなら二割は納めても良い」

「どこまでもふざけた野郎だ。てめえらは九割にする。おい」



 ヨセフの合図で周りの男達の殺気か増したのを確認したマルコは。




「これでも穏便に済ませるつもりだったんだがな」




 懐から取り出したのは、シャーリィに献上したものと同じ傑作拳銃コルトM1911である。

 目を見開くヨセフを見て、マルコは溜め息を漏らす。




「まさかボディーチェックすらされないとは思わなかったぜ。ぬるま湯に浸かりすぎたな、ヨセフさんよ」

「まっ……!」



 店内に銃声が響く。マルコは躊躇無く引き金を引き、ヨセフの頭を撃ち抜いたのである。男達が唖然とする中、ヨセフはそのまま椅子と一緒に後ろへ転倒。

 自分達が従属している組織のボスをいきなり射殺すると言う前代未聞の凶行であった。だが、これだけでは終わらない。銃声を聞き付けた二人の男が店内へ駆け込む。その手にはサブマシンガンであるMP40が握られていた。




「決裂だ、殺れ」




 次の瞬間、店内に銃声と悲鳴が響き渡る。ボスを始末した以上、最早手加減をする必要は無くなったのである。店内に居たホーライ・ファミリーの構成員は残らず射殺された。同時に近代装備を有するトライデント・ファミリーは、ホーライ・ファミリーの主要拠点を同時に攻撃する。

 これまで現状維持に腐心した結果ロクに抗争も起きていなかったホーライ・ファミリー側の士気は低くまた装備も粗悪なものであった。更にボスを失った彼らの対処能力は著しく低下。主要施設、特に販路や倉庫、薬物製造拠点を手早く制したトライデント・ファミリーはそのまま残党狩りへ移行。その徹底的なやり口は周囲の組織を驚かせ、僅か数日でホーライ・ファミリーの勢力圏を完全に掌握してしまう。




「逃げるんなら好きにしな。もし残って仕事をしてくれるなら給金を倍払う。あとは自分達で決めろ。ただし、歯向かうなら容赦はしねぇ。それを忘れるなよ」




 マルコは制圧した製造拠点や店などの従事者達に倍の給金を提示。そもそもシェルドハーフェンに居るような人間に義理人情などほとんど無く、大半はそのままトライデント・ファミリーの一員として働くことになった。

 湖の鮮やかな手腕によりトライデント・ファミリーは中規模組織への変貌、十四番街全体に名を轟かせることになる。




「やりやがったな、マルコ」

「まだまだ上を目指すぜ、ボス。幹部連中の引き締めを頼むぞ。ようやくスタートラインなんだからな」

「遊ぶなってか?」

「浪費はするなって話さ。この新しい金は組織を回すために使うんだからな」

「だが、今回のやり方を良く思わねぇ奴も居る。それを忘れんなよ」

「文句があるなら現場で身体を張るように言ってくれ」




 マルコは改めて釘を刺したが、彼と古い仕来たりを重視する幹部達の間にある溝は深まった。

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