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えれめんたる
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「……これ、夢じゃないよね」
朝、自分の銀行口座の残高を確認して、思わず声が漏れた。
昨日、落としたはずの1万円札が、なぜかコートのポケットに戻っていた。
代わりに、隣のデスクでいつも自慢話をしていた同僚が「財布を盗まれた」と騒いでいる。
「ひどいよね……。貯金全額、引き出されちゃったみたいで」
周囲が同情の声を上げる中、私はデスクの下でバッグを抱きしめた。
指先に伝わる、人形の微かな脈動。
(……あなたがやってくれたのね)
確信した。
私が「欲しい」と願えば、誰かの犠牲の上にそれは成り立つ。
罪悪感
そんなもの、とうに捨てた。
だって、今まで私がどれだけ搾取されてきたと思っているの?
これは、世界が私に支払うべき「利息」なのだ。
昼休み
私は実験をすることにした。
わざと、混雑したカフェのテラス席へ向かう。
手には、飲みかけのアイスコーヒー。
「あ……」
わざとらしく足をもつれさせ、コーヒーを自分の方へぶちまける。
冷たい液体が服にかかる……はずだった。
パリン、と背後でガラスの割れる音が響く。
振り返ると、優雅にランチを楽しんでいた見ず知らずの女性が
自分のグラスを叩き割り、破片で手を切っていた。
私の服には、一滴のシミもついていない。
「……ふふっ」
こぼれそうになる笑いを必死で堪える。
痛みを引き受けてくれる誰かがいる。
私の不運を代わりに背負ってくれる「奴隷」が、この街には溢れている。
(もっと、もっと試したい)
私はSNSを開き、あの人形をくれたアカウントにメッセージを送った。
『もっと大きな幸運が欲しいです。どうすればいいですか?』
すぐに返信が来た。
画面に表示された短い一文に、私の心臓が大きく跳ねる。
『人形に、あなたの“痛み”をもっと食べさせてください。自ら不幸を呼び込めば、配当は倍になります』
私は自分の爪を、掌に深く食い込ませた。
じんわりとにじむ赤い血。
その痛みと引き換えに、次は何が手に入るだろう。
バッグの中で、人形の黒い瞳がギラリと光った気がした。