テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
27
「……これ、夢じゃないよね」
朝、自分の銀行口座の残高を確認して、思わず声が漏れた。
昨日、落としたはずの1万円札が、なぜかコートのポケットに戻っていた。
代わりに、隣のデスクでいつも自慢話をしていた同僚が「財布を盗まれた」と騒いでいる。
「ひどいよね……。貯金全額、引き出されちゃったみたいで」
周囲が同情の声を上げる中、私はデスクの下でバッグを抱きしめた。
指先に伝わる、人形の微かな脈動。
(……あなたがやってくれたのね)
確信した。
私が「欲しい」と願えば、誰かの犠牲の上にそれは成り立つ。
罪悪感
そんなもの、とうに捨てた。
だって、今まで私がどれだけ搾取されてきたと思っているの?
これは、世界が私に支払うべき「利息」なのだ。
昼休み
私は実験をすることにした。
わざと、混雑したカフェのテラス席へ向かう。
手には、飲みかけのアイスコーヒー。
「あ……」
わざとらしく足をもつれさせ、コーヒーを自分の方へぶちまける。
冷たい液体が服にかかる……はずだった。
パリン、と背後でガラスの割れる音が響く。
振り返ると、優雅にランチを楽しんでいた見ず知らずの女性が
自分のグラスを叩き割り、破片で手を切っていた。
私の服には、一滴のシミもついていない。
「……ふふっ」
こぼれそうになる笑いを必死で堪える。
痛みを引き受けてくれる誰かがいる。
私の不運を代わりに背負ってくれる「奴隷」が、この街には溢れている。
(もっと、もっと試したい)
私はSNSを開き、あの人形をくれたアカウントにメッセージを送った。
『もっと大きな幸運が欲しいです。どうすればいいですか?』
すぐに返信が来た。
画面に表示された短い一文に、私の心臓が大きく跳ねる。
『人形に、あなたの“痛み”をもっと食べさせてください。自ら不幸を呼び込めば、配当は倍になります』
私は自分の爪を、掌に深く食い込ませた。
じんわりとにじむ赤い血。
その痛みと引き換えに、次は何が手に入るだろう。
バッグの中で、人形の黒い瞳がギラリと光った気がした。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!