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翌日の朝。
ちょうど順番的に火の番だったいるまが、日が昇ると同時にみんなのことを起こし始めた。
もちろん、すぐに起きてくれる者もいれば、なかなか起きない者もいる。
いるまは、すぐに起きてくれる者は別に何も言わないが、なかなか起きてくれない者にはやや苛立ちの籠った拳骨をお見舞いした。
特に、だらしなく涎を垂らしていたLANには、もう飛びっきりの拳骨を。
見事に脳天にクリティカルヒットし、LANは一瞬にして夢の世界から現実の世界へと引き戻された。
ら「何するの!?痛いでしょ!?」
い「いやぁ、なかなか起きんから。」
ら「それは申し訳ないけども!!」
い「あと顔が腹立つ。」
ら「おい、ぶっ飛ばすぞマジで。」
本気な顔をして拳をわなわなと震わせているLANを見て、他の4人がプルプルと肩を震わせて笑いを我慢する。
いるまが「おー、怖い怖い」と棒読みで言うと、LANは言葉にならない声を上げてポカポカといるまを殴る。
といっても、いるまの片方の肩をひたすら肩叩きしているようなものだったが。
仲間想いのLANが、腐ってもリーダーが、その仲間を本気で殴るわけはない。
それをわかっているからこそ、いるまも逃げないし他のメンバーも止めたりはしない。
こ「おー、朝からイチャイチャしてますなぁ。」
す「こんなところに来ても相変わらずだねぇ。」
朝からそんな茶番を繰り広げていると、誰かのお腹が盛大に音を立てた。
流石に昨日のきのこはもう全部消化&排出されているからか、お腹が空いたのだろう。
チラリと音が聞こえた方にみんなそろって目をやると、みことが恥ずかしそうに顔を赤くさせてお腹を押さえた。
暇「お前か。」
み「ごめぇん、、、!」
ツートップ組のイチャイチャを遮ってしまったからか、みことが謝る。
そんなみことに「何で謝んの?w」といるまが指摘し、みんなを見渡した。
そして、自分たちが今立っているこの場所を見渡す。
それに倣って、他の5人も辺りを見渡した。
何か近くに食べられるものはないか、と思ったのだが、あったのは真夜中にみんなで争った仮設トイレだけだった。
空腹だが、そこら辺の草をちぎって食べるようなことはしたくない。
ということで、はぐれないように6人行動で食料調達に出ることにした。
昨日すちとみことが見つけた森みたいなところに行ってみれば、木の実ぐらいあるのでは、と思ったのだ。
だが、現実はそんなに甘くなく。
森にあったのは、、、唐辛子が詰まったパックだった。
しかも、巨木の根元にぽつねんと置かれたそれは、絶対に人の手が加わっているものだろう。
自然にできた唐辛子じゃない。
大きさも色も揃っているし、何よりもパックに入っている。
絶対どこかで売られているやつだ、とか思いながら、6人は顔を見合わせた。
す「これ、、、もらって良いやつなのかな?」
ら「えぇ、、、どうなんだろ。」
み「なんか危なさそうやけどな。」
こ「てか、こさめ辛いの嫌!!」
ということで、もう少しこの辺りを探してみようということになった。
まだ夜が明けたばかりで暗い森の奥の方に入るのはなかなか怖かったが、LANが「肝試しみたい!」と喜んで走って行ってしまったから、残された5人はそれを仕方なく追いかける。
はしゃぎすぎだろ、とメンバーの中でも特に怖いのが苦手な暇72、いるま、こさめが思う。
しばらくすると、大分先を走っていたLANが、何かを見て、うわあっ、と驚きの声を上げた。
何があったのか、と走って行ってみると、そこには開けた場所があった。
その開けた場所の草は青く、開けた場所を囲むように生えている木の幹や葉もまた、青かった。
い「何だこれ?」
ら「わからん。来たらこうなってた。」
す「青い葉っぱ?ここだけ?」
暇「え、なんか動いてね?」
暇72の指摘で、6人はじーっと草を凝視する。
すると、草だと思っていたものがぶにょぶにょと動いているのがわかった。
ふと冷たい感触がして、こさめが足元を見ると、そこにも青いぶにょぶにょしたものが。
それは、こさめの足に巻きつこうとしていた。
え、とこさめの口から声が漏れる。
その声を聞いて他のメンバーはこさめを見、そしてその足元に集っている青いぶにょぶにょを見て眉を吊り上げる。
真っ先に動いたのは、LANだった。
ら「こさめに何してんのお前ら!!」
俺の可愛い天使に!、やら、こさめが可愛いのはわかるけど怖がらせちゃダメなんだよ!、やら騒ぎ立てながら、LANはこさめを庇うようにして青いぶにょぶにょを蹴散らす。
青いぶにょぶにょは、LANに散らされてまた他の青いぶにょぶにょのところに戻って行った。
ら「ふう、こさめ、これで大丈夫だよ!」
こ「らんくん、、、キモイ、、、」
ら「何で!?!?」
LANは、こさめに引き気味な目で見られ、ショックを受けたように硬直する。
しかし、すちの「あれ、集まり始めてるよ」と言う声で我に返り、ハッと青いぶにょぶにょを見た。
木の幹や葉にくっついていた青いぶにょぶにょもまた集まり始め、ひとつの大きなぶにょぶにょになる。
それを見て、みことはあるものが脳裏によぎった。
み「スライムみたいやな、、、」
みことのその呟きに、他の5人がハッとした。
忘れかけていたが、ここは恐らく自分たちがいた世界とは違う。
もともといた地球に、こんなスライムに似た青いぶにょぶにょはいなかった。
だとしたら、ここは異世界ということになる。
そして、ここに来る前に、あのXさんと同じ場にいた。
つまり、、、
い「Xのせいで、俺らはこんなとこに飛ばされたってわけだ。スライムのいる、異世界に。」
こ「スライムがいるってことは、魔物がいるってことだ!」
暇「うわ、これ何かの企画?だときたらマジでリアルすぎん?X、どんだけ金かけるんだよ、、、」
す「そんなこと言ってる場合じゃなくない?あの青いのが仮にスライムだとして、すごい大きくなってるけど。」
そう。
青いぶにょぶにょをスライムと呼ぶことにすると、そのスライムはスライム同士で融合してどんどん大きくなっているのだ。
そして、蹴散らしたLANをみんなで睨みつけている。
LANはその光景にややヤバいものを感じ始め、チラリとほかのメンバーを見て助けを求める。
だが、見事に全員に、助けたこさめでさえもLANから目を逸らした。
ら「え、ヤバくね?俺戦えんよ?」
み「、、、らんらんならいけるよ!」
い「トイレのドア破壊した時みたいに破壊しろ。お前の怪力ならできるはずだ。」
ら「いや無理だって!?」
LANはそう言いながら、メンバーに物理的に背中を押されて、転びそうになりながらも前に出る。
すると、スライムが威嚇するように更に大きくなって、LANに襲いかかった。
LANはびっくりして、反射的に拳を繰り出す。
手に何かぶにょっとした感触があった次の瞬間、スライムが弾け飛んだ。
そして、そのまま動かなくなった。
ら「ゑ?」
他「、、、そんなことある!?!?」
LANの間抜けな声の後、他の5人が叫び声に似た声を上げた。
LANはしげしげと自分の拳を見つめ、くるりと振り返って「倒せちゃった☆」と言う。
あまりの怪力に、LAN以外のメンバーは開いた口が塞がらない。
だが、そんな驚きと共に、本当に拳を突き出しただけでスライムを倒すことができるのか、という疑問も出てきた。
確かに、普通のゲームではスライムは最初に戦うような激弱な雑魚モンスターだ。
だが、実際に異世界に飛ばされて2日目の6人にとっては、強敵。
魔物という時点で人生終了のお知らせが頭の中で流れ出すのに、それを素手で倒すなど以ての外。
つまり、、、
暇「Xさんが難易度下げてくれた?」
い「いや、絶対違うだろ。」
す「じゃあ、俺らが普通に強い?」
み「ぅわあ!よくある異世界転生チートや!」
こ「え、転生?てことは俺ら死んだの!?」
ら「みんなそろって過労死!?そんなことある!?」
い「なわけねぇだろ!?!?」
この場にツッコミ役が1人しかいないことについてXさんを恨み、いるまは頭を抱える。
この状況は、どう考えてもありえないことだ。
彼らは死んではいないし、ここまでリアルな異世界再現は流石のXさんでもできっこない。
、、、とわかっているが、本当に異世界に飛ばされただけということを信じたくなくて、いるまはXさんを呪った。
そこで、こさめのお腹が鳴る。
こ「ところでさ、こさめすっごいお腹空いたんだけど、、、このスライム、食べていい?」
こさめのそんなびっくり発言に、最初、いるまは何をどこからどう言おうかわからなくなった。
空腹なこさめには、スライムすら美味しい料理に見えているのだろう。
このスライムに毒があるとは思えないし、そもそも毒入りスライムは紫色なイメージがある。
せいぜい食べてもお腹を壊すぐらいだろうと思い、いるまは深々とため息をついて頷いた。
他「いるま/いるませんせー/いるまちゃん!?」
いるまがこのことを許可すると思っていなかったこさめ以外の4人は、びっくりしたような声を上げる。
だが、いるまのげっそりと疲れきったような顔を見て、何も言わずに微笑んだ。
なるほど、とみんなが思っただろう。
こさめはそんな5人のことを知らずに、やったー!、と能天気に喜び、スライムに駆け寄る。
そして、その破片を拾って目の前に掲げた。
こ「うわ、すっごいぶにょぶにょ!」
嫌な表現を満面の笑みでしたあと、こさめは、それを躊躇いなく口に入れた。
いるま、暇72、すちがこさめから視線を逸らす。
LANは仏のように微笑ましくこさめを見守っており、みことは心配そうにオロオロしていた。
こさめはもぐもぐと咀嚼したそれを飲み込み、5人を振り返る。
そして、、、にっこにこの笑顔を見せた。
こ「すっごい美味しいよ!?」
ら「そっか、、、でもお腹大丈夫?」
こ「仮設トイレがあるから大丈夫!!」
謎の理屈で大丈夫だと言い張り、こさめは無我夢中でスライムの破片を貪る。
それを見ていたみこととLANは、じゅるっ、と涎を飲んだ。
いるま、暇72、すちは、そんな2人を危うげなものを見るかのような目で見る。
み「ゲームしながらずっと思っとったんやけど、魔物ってコスパ良いよな、、、!」
ら「わかる。狩るのは命懸けるし危険だけど、狩れたらたくさんお肉手に入るしお金も手に入るし、宴会できるし。」
LANとみことが何かを決意したかのような顔をした時、ボンッと何かが破裂するような音がした。
慌てて見ると、こさめの姿が変わっていた。
もっと詳しく言うと、こさめの衣装が。
先ほどまで着ていたパーカー型の長袖の腹出し&ぶかっとズボンにスニーカーではなく、ひらひらとした長いマントに胸元には水色のブローチの、黒を基調とした衣装。
そう、、、シクフォニのオリジナル楽曲である『J0KER×JOK3R』の衣装とそっくりの衣装になっていたのだ。
こ「あれ?何これー?」
他「そんな呑気にしてる場合か!?」
1人だけ衣装が変わったこさめは、『J0KER×JOK3R』の衣装を見下ろす。
そうしていると、何となく手のひらがむず痒くなって、こさめは手に力を込めた。
すると、こさめの手のひらの先に水色に発光する魔法陣が現れ、そこから更にひと振りの大剣が出現した。
その大剣はまさしく、シクフォニのオリジナル楽曲『僕だけの声を』のものであった。
変身していない5人は、その様子を見て息を呑む。
スライムを食べてその魔力を身体に取り込んだために、こうなったのだとしたら。
す「これから元の世界に戻るまで絶対に魔物に襲われない、っていう保証はないよね、、、」
暇「それなら、多少嫌な思いしても強くなんなきゃ生き延びらんないよな、、、」
い「まあ、、、そうなる。」
ら「やっぱり、食べる、よね?」
み「お腹も空いたし、丁度良いのでは!?」
様々な言い訳をみんなで出し合ってから、5人は一斉にスライムの破片に飛びついた。
そして、その変わり身の速さにポカンとしているこさめを置いて、スライムを貪ったのだった。