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先輩の言葉が、夕暮れの空気に溶けていく。
あんなに真っ直ぐな瞳で見つめられたら、昨日までの絶望が嘘みたいに、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
「……ずるいのは、私の方です」
私は、遥に繋がれたままの手を、ゆっくりと、でも確実に離した。遥の指先が名残惜しそうに空を切るのがわかって、胸が痛む。でも、今の私は、二人のどちらにも答えを出せる状態じゃなかった。
「先輩にそう言ってもらえて、すごく……嬉しい。でも、昨日の涙がすぐに消えるわけじゃないんです。……遥の気持ちも、今はまだ、ちゃんと受け止められない」
私は二人から一歩距離を置いて、俯いたまま絞り出すように言った。
「……明日の部活、ちゃんと行きます。マネージャーとして、やるべきことをやりに。……だから、今日はもう帰らせてください」
凌先輩と遥。二人はお互いに視線をぶつけ合ったまま、どちらも私を止めようとはしなかった。私は逃げるように公園を走り去った。
背後で、凌先輩の低く、静かな声が聞こえた。
「……遥。僕は、もう手加減しないよ」
「……当たり前だろ。俺だって、最初からそのつもりだよ」
翌朝。
いつも通り、でも決定的に何かが変わってしまった部室の扉を開ける。そこには、昨日の気まずさを脱ぎ捨てた凌先輩が、コートの真ん中で誰よりも鋭い球を打ち込んでいた。そして、そのボールを、遥が不敵な笑みを浮かべながら打ち返す。
三人の新しい、そしてもっと激しい「日常」が、朝の光の中で始まろうとしていた。