人間不思議なもので、どうやらあれからいつの間にか眠ってしまっていたようだ。
頭痛も綺麗さっぱり治った。
「…ひでぇ顔」
鏡に映る俺は情けない顔をして、浮かない表情だった。
水の滴る顔をタオルで拭いて、ほっぺを叩く。
「…っし、出掛けよ」
この前買った服を着て、お気に入りのショルダーバッグをかける。
愛用している腕時計もつけた。
「帽子は、いっか」
躊躇いはあったけど、少しでも日の光を浴びたかったから。
髪の毛をもう一度整えて、これまたお気に入りの靴を履いて外に出る。
「いってきまーす」
誰もいない部屋の中に声をかけてドアに鍵をかけた。
1人で家にいると気が滅入るし気分転換も兼ねて、マンションをあとにした。
「あったあった」
気になる文献の乗った本を探し求めてようやく見つけた。
「あとは、…えーっと」
様々なジャンルの本棚を見て周り、役立ちそうなものを選んでカゴに入れていく。
「うーん…とりあえずこんなものかな」
あまり買うとしまうとこもなくなるし、単純に重い。
会計をして、本屋を出る。
「一旦、預けるか?」
回る順番ミスったかなと思いつつ、駅前にコインロッカーあったはずだとそっちに向かった。
ロッカーに紙袋に入った買った本たちをしまう。
「さて、」
暖かくなってきた、というか暑くなってきたからちょうど良さげな服でも買うかなと服屋さんに入る。
しばらく見て回りながら手に取ったりしていた。
「これ、かっこいいな」
目に留まった服を手に取る。
色を見ながら、どうしようかと悩んでいた。
「何かお探しですか?」
ふと声をかけられる。
横を見れば、店員さんが立っていた。
「あ、いえ、ちょっと新しい服買おうかなって」
にこやかに笑う店員さんにそう返す。
「それでしたら、こちらのものと合わせてみてはいかがですか?」
俺の持っていた服の向かい側にあった若葉色のカーディガンを渡される。
元々持っていた白のTシャツと合わせられた。
「え、俺にはちょっと似合わないんじゃ?」
「いえいえ、お客様整った顔をされてますからなんでもお似合いですよ」
「えぇ…」
俺の周りの人たちが顔整いすぎて、そう思えない。
それに、あまり顔のことは言われたくない。
「それと、このベージュのカーゴパンツを合わせていただければ」
うきうきとしている店員さんに押されて、それを無碍にもできず渋々試着室に入る。
渡された服を着てみたが、どうにもピンとこない。
「…うーん、似合ってんのか?」
全面鏡に写る自分。
くるりと回って後ろも見てみる。
「…分からん」
カーテンを開けて、傍に立っていた店員さんに声をかけた。
「あの…ど、どうですか?」
「可愛っ……ん゛ん゛、失礼、とてもお似合いです。かっこいいですよ!」
なんだかすごい勢いで褒められ倒される。
「かわ?……店員さんがそこまで言うなら…」
別の何かを言いかけていたような気がしたけど正直、褒められて悪い気はしない。
純粋に嬉しい。
「ありがとうございます」
困りつつも笑うと、店員さんは変な声を出して胸を押さえて俯いた。
「わっ、大丈夫ですか⁈」
「だ、大丈夫です…推しの配給過多と思ってください…」
「?、えぇっと、この服買います」
「!、お買い上げありがとうございます!」
ぱっと顔を上げた店員さんは満面の笑みでお礼を言ってきた。
「このまま着られますか?」
「そう、ですね」
「では、タグなど切らせていただきます」
嬉々とした様子に何故か俺も嬉しくなった。
着て来た服をわざわざ袋に入れてくれ、出入り口まで見送ってくれる店員さんに会釈をしてお店を出た。
「…また行こ」
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