テラーノベル
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桜子は自分の盗作疑惑が匿名掲示板に上がっているなんて、もちろん誰にもいわなかった
さらに地方の映画キャンペーンサイン会などにも何度か参加した、そこにシオンはすっかり旅行気分で桜子の荷物持ちだと笑って同行した、とにかく彼は桜子と一分でも離れたくないという感じだった
そして仕事が終わると二人でその土地の食べ歩きや、古墳や城跡のガイド付き歴史散歩、または大阪に帰って来てからもシオンがインスタで見つけた流行の場所を訪れるようになった
.:・.。. .。.:・
「ええ? シオン君! 蔦屋の面接受かっちゃったの?」
桜子は猫じゃらしを握りしめながら、さっき聞いたシオンの言葉にびっくりした
今二人は「猫カフェ」のフカフカのラグが敷かれた部屋に並んで座り、シオンが胡坐をかいたまま膝の上乗せている真っ黒な猫が落ちないように支えながら、頭を下げて謝った
「ごめんなさい!桜子さん」
「どうして謝るの?」
桜子の手にしている猫じゃらしの羽の先がひらひら舞う度、目の前の茶トラの瞳がまん丸に開き、お尻をフリフリと揺らして狙いを定めている
シオンは申し訳なさそうに眉を下げ、黒猫の背を撫でながら言葉を継ぐ
「最初はそんなつもりなかったんだけど、なんだかどうしてもあそこで働いて見たくなって・・・そしたら求人募集の紙がカウンターに貼ってあって・・・僕・・・思わず店員さんに声をかけたんだ、そしたらその人が店長さんで、そのまま、あれよあれよと面接室に連れて行かれて・・・」
桜子は止まっていた猫じゃらしをまた揺らして言った、茶トラが待ってましたとばかりに飛びつく
「そりゃぁ、シオン君は経験者だから即戦力よね、当たり前だわ、でもそれがどうして私に謝る事になるの?」
彼は申し訳なさそうに、小さな声で打ち明けた
「それで僕・・・実は、今の自分の住所・・・桜子さんのマンションの場所を書いたんだ」
「そうね・・・もちろん、面接には自分の住んでる所の現住所と連絡先が必要よ」
シオンが身を乗り出した、その勢いに驚いた黒猫が、膝の上で「うにゃ」と不満げに体勢を変える
「僕・・・桜子さんに連れて行ってもらってから、どうしてもあそこで働きたくて、店長も人手不足で困ってて、それで・・・来週から出れるか? って言われて、僕いつでも働けるって答えちゃって・・・そしたらグループLINEで昨日僕のシフトもう送って来られて・・・」
「ええ? それじゃ、来週から本当に蔦屋で働くの? シオン君?」
「ごっ・・・ごめん! 勝手に住所使って! でもっ・・・すぐに僕、自分のアパート探すよ、それで決まったら店長に言って住所変更するからっ・・・だからそれまで――」
必死に説明するシオンの耳が真くなっている、桜子は、自分の膝の上に乗って来た茶トラの背を撫でながら言った
へぇ~「シオン君って本当に行動派だよねぇ~・・・私も見習わなくちゃ」
「本当にごめんなさい・・・」
彼は謝りながらも、指先は黒猫の顎の下をカリカリと掻いている、黒猫は気持ち良さそうに目を細め、喉をゴロゴロと鳴らして、スライムみたいにダラリと体を垂らしている
シュンとうなだれるシオンと、とろけ切った黒猫・・・その光景がなんだか愛おしくて桜子の胸の奥がキュンとなる、最近ではおなじみになった体の反応だ
「ねぇ・・・シオン君、もう住所書いちゃったんなら、一緒に住まない?」
黒猫を撫でる、シオンの手がぴたりと止まった
「え?・・・いいの?」
桜子は、膝の上の猫の毛並みを見つめたまま・・・少し照れたように言葉を紡ぐ
「正直・・・この年になって男の人と、どうこうなんてすっかり諦めていたから、ずっとこのまま私は一人で生きていくと思ってたの・・・でも」
「でも?」
シオンが、息をひそめて問い返した
「これからも・・・私、シオン君と一緒にいろんなことしたい、一緒に寝て、一緒にごはん食べたいの、シオン君さえ良かったらずっとうちにいて」
一瞬の沈黙の後・・・シオンの瞳にじわっと涙が滲んだ、目の縁に溜まった雫がいまにもこぼれそうに光っている
グスッ・・・「どうしてそんなに天使なの? 桜子さん」
クスクス・・・「ええ?」
ガバッ「よろしくお願いしますっっ!」
「キャァ!猫ちゃんがっ!!」
シオンが勢いよく桜子に抱きつくと、膝の上の黒猫は慌てて飛び降り、茶トラも「ミャッ!」と跳ね起きる、そしてぐるりと二人を取り囲んでいた猫達が、一斉に四方へ散り
遠くのキャットタワーの猫達が、騒がしい客を迷惑そうにずっと見つめていた
コメント
2件
そうなるよね😊同棲は自然なことだと思うよ👍 シオンはともかく。桜子の今後に心配事は多々あるけど🥺
読了しました〜! 今回はシオンの就職話からまさかの同棲決断まで、二人の距離がぐっと縮まる温かい回でしたね。猫カフェの猫たちが逃げていくラストのコミカルさと、桜子さんの「ずっと一緒にいたい」という真っ直ぐな告白の対比が絶妙。同時並行で盗作疑惑も気になりますが、シオンがいつかその闇を知った時の展開も想像してしまいます。次回も楽しみです!
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