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#追放
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サイラス、元気か。
俺は元気だ。
今、旅の途中でメキシカにいる。
そこで、面白い男に会った。
フィデロという、頭のいかれた男だ。
笑えるだろう。
ケルパで問題を起こして、ここまで逃げてきたくせに、
またケルパへ戻って同じことをやると言っている。
懲りない奴というのは、どこにでもいるらしい。
お前、昔言っていたな。
金が多く出回るようになれば、いずれ今より貧富の差は広がる、と。
その通りだった。
恐ろしいほどにな。
俺は喘息持ちだが、
そんなものが問題にならないくらい、貧困というやつはつらい。
俺もお前も、名ばかりの貴族だった。
それでも、ここまでではなかった。
俺はフィデロについて、ケルパへ行こうと思う。
そのことを奴に言ったとき、
あいつが何と言ったと思う?
「死んだら、遺体はどこへ送ればいい」
だとさ。
……そうだよな。
妙に納得してしまった。
軍医として同行することにした。
だが、あんな無謀な連中が、うまくいくはずもない。
俺はたぶん、長くは生きない気がする
だから、もし俺がこの地で死んだら、
お前が俺の遺体を引き取りに来てくれ。
妻と子には、悪いが、お前から伝えてくれ。
愛をこめて。
エルネスト
「昨日捕らえた革命軍兵士、二名――本日、死亡いたしました」
報告の声は低く、無機質だった。
「……何か、しゃべったか」
カンティーヨは机に肘をついたまま問う。
兵士は、ゆっくりと首を横に振った。
沈黙。
「そうか」
短く吐き捨てる。
革命軍は勢いを増している。
もはや山中の賊ではない。
民衆の支持を、確実に集め始めている。
――分かっている。
だが、それでも。
「取り調べは続けろ」
声に迷いはなかった。
バティスタ国王の命令だ。
拷問による尋問を、やめることは許されていない。
やめればどうなるかなど、考えるまでもない。
兵士が一礼して退室する。
扉が閉まったあと、カンティーヨは小さく舌打ちした。
「……いまいましい」
今日、国王バティスタが、
アメリアのダレスと会う。
外の力にすがらねばならぬほどに、
この国は、もう追い詰められている。
――それでも、やめられない。
「私、革命軍に志願いたします」
唐突だった。
「小斧を投げれば、五メートル以内なら――
確実に仕留められると思います」
エレンは真剣な顔で続ける。
「なんなら、レイナ女王への忠誠も――
エルネスト様に捧げても構いません」
いつものように顔を出していたエルネストは、言葉を失った。
「あ……ありがとう」
間の抜けた返事が漏れる。
だが、すぐに表情を引き締めた。
「でも、違う」
静かに、しかしはっきりと首を振る。
「君のような子を戦場に行かせないために、俺たちは戦っている」
エレンの瞳が揺れる。
「大丈夫だ」
エルネストは柔らかく笑った。
「どんなことがあっても、君は守る」
その一言で、エレンの目に涙がにじんだ。
「……守るって、言われたの、初めてです」
エルネストは一瞬だけ困ったように視線を逸らし――
「あ、そうだ。ちょっと用事を思い出した」
逃げるように踵を返した。
「じゃあな」
そそくさと去っていく背中。
しばらく呆然と見送ったあと――
「……あの人、奥さんいるらしいですよ」
フローレンスが、ぼそりとつぶやいた。
「なっ……なんであんたがそんなこと知ってんのよ!」
エレンが振り向く。
フローレンスは、何でもないことのように肩をすくめた。
「別に」
淡々と答える。
「それ以外、どこを見るというのです?」
ケルパ王国王都バナナ。
ダレスは、アメリア特殊部隊千名を率い、
王宮へと足を踏み入れた。
謁見の間に入るなり、彼はため息をついた。
「まったく……二百や三百のゴミ相手に、何を手間取っているのやら」
その声音には、露骨な軽蔑が滲んでいた。
玉座の上のバティスタは、わずかに眉をひそめる。
「どう見積もっても、この国には二万の兵が展開している。
我が国からの援助もある。――それでこの体たらくとはな」
ダレスは肩をすくめた。
「死体の数が足らぬのではないか」
「革命軍など、とっくに駆逐されていてもおかしくあるまい」
沈黙が落ちる。
やがて、ダレスが口を開いた。
「……情報は、入っている。
敵はセントクララに、大規模な攻勢を企図しているようだ」
その一言に、バティスタの目が細まる。
「――まさか、知らなかったと?」
「滅相もありません」
即座に取り繕う。
だが、その声にはわずかな揺らぎがあった。
ダレスはそれを見逃さない。
「ふん……」
鼻で笑う。
「もう一つ。サイラス・イシスが、この国に入った」
「サイラス……?」
バティスタは首をかしげる。
「知らぬか。まあよい」
ダレスは興味なさげに手を振った。
「単身では何もできぬ、隠居風情だ」
そう言い切るが、その目の奥にはわずかな警戒が宿っている。
「我がアメリアが諸外国の介入を抑えている間に、
革命軍を葬り去ることだ」
一歩、玉座へと歩み寄る。
圧が、空気を歪める。
「セントクララ――そこが奴らの墓場となるよう、祈っておくがいい」
ダレスは、ゆっくりと口元を歪めた。
「ねえ、軍師様。そのエルネストって人、ここにいるんですか」
丘を登りながら、ユンナが何気なく聞いた。
「わからないな。少なくとも――死んだとは聞いていない」
サイラスは視線を前に向けたまま答える。
「私たち、これからセントクララの医療団のところに行くんですよね」
「ああ」
短い肯定。
「フローレンスっていう人、撤収のことは知ってるんですか」
「知っている。……だが、言うことを聞かないらしい」
ユンナは少し考え――
「じゃあ、言うこと聞かなければ袋に詰めて――」
「その発想、怖いと思わないか?」
間髪入れずに返す。
ユンナは首をかしげた。
「効率的ですよ?」
「そういう問題じゃない」
ため息が一つ。
やがて丘の頂に差し掛かる。
視界が開けた。
眼下に、白い天幕が点々と並ぶ。
――医療団のキャンプだ。
だが、その配置はあまりにも無防備だった。
遮蔽物も、防御線もない。
ただ“そこにある”だけだ。
サイラスは無意識に周囲の地形をなぞる。
風向き。高低差。進軍路。退路。
「……攻められたら、一瞬で終わるな」
ぽつりと呟く。
自分でも分かっている。
――こういう見方しかできないのは。
「我ながら、職業病だな」
「いいえ、撤収などしません」
フローレンスは即答した。
「ここが戦場になるのなら、なおさらです」
一歩も引かない。
「ここを守る兵がいるなら、私が女王様に手紙を書きます」
サイラスは、内心でため息をついた。
――話が通じていない。
「……もう、その段階は過ぎました」
静かに言う。
「撤収か、死ぬかです」
わずかな間。
「そして――撤収すら、危うい」
フローレンスの瞳が揺れる。
だが、それでも。
「ならば、死ぬまでです」
(間)
乾いた音が響いた
フローレンスの頬が弾かれる。
何が起きたのか理解できず、彼女は目を見開いた。
サイラスは、まっすぐに見据えていた。
怒りではない。
冷たいほどの、現実だった。
「……観念の世界で、生きるだ死ぬだと語るのは、感心しません」
低く言い放つ。
「命は尊いものです」
一歩、踏み出す。
「私が死ぬのは自業自得でしょう。――だが」
わずかに声が強くなる。
「あなたが死ぬのは、どう考えても間違っています」
フローレンスは何も言えない。
「あなたは、人を治す側の人間だ」
サイラスは続ける。
「ならば、生きていなければ意味がない」
一瞬の沈黙。
「あなたが人を治療して生かすように――」
「私は策をもって、あなた方を生きてここから脱出させる」
言い切る。
「……同じことです」