‘23 Christmas story
Last Message .
すきでs | ↵
何時かアメリカの牧師がこう言ったらしい。
Christmas day is a day of joy and charity.
クリスマスは喜びと慈悲の日である。
[ フィリップス・ブルックス ]
聖なる夜、届かぬ想いに眉を下げる青年と 街角で人知れず泣き崩れる女性に伝えてみたいものだ。
数々の恋人が愛に酔いしれる街の隅で、
小さな箱と睨み合い終いには涙する人が居る。
腕時計の秒針は止まる事を知らないのか回り続けている。
待ち合わせの時間はとっくに過ぎていた。
もう君が ‘ 雪だね ’ なんて微笑みながら言って頬と鼻先をほんのり紅く染めて逢いに来る、なんて事は無いだろう。
今年は一段と虚しい冬だ。
手元の液晶画面に映し出されたメッセージのトーク履歴は君の素っ気無い言葉で終わった儘で独り浮ついていた俺が馬鹿みたいだった。
君の手を握る為にコートのポケットに入れた手は未だ暖まらない。
愉しげな男女が行き交う街の隅で不器用ながらに選んだプレゼントを左手に唯、時間が過ぎるのを待ち続ける。
脚元を眺めては柄にも無く ‘ 帰りたい ’ と思った。
何秒、何分、何時間、
純白の雪が降り頻る中、刻一刻と聖なる夜は終わりに近付く。
見上げる程大きなツリーをカラフルなLEDライトが彩っていた。
数々の装飾が俺を一層惨めにさせる。
屹度、君には逢えない。
スマホをポケットから取り出し最後のメッセージを打ち込んだ。
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
‘ 好きです、別れよ。 ’
雪が降っていた。
穢れひとつ無い純白の所為で自分が汚れている事を再確認させられてしまう様なそんな雪だった。
掌に乗せた小さな箱型の液晶画面を眺める。
彼が送って来た ‘ ツリーの前に居るよ ’ なんてメッセージ。
其の次には ‘ ん ’ なんて私の絵文字も句読点ですら無い余りにも簡素な返事。
嗚呼、此れが別れる寸前の恋人の会話か
なんて縁起にも無い事を考える。
まぁ、実際そういう事なのだろう。
君に想いを伝えるのが下手すぎる私。
私にうざったい程の想いを伝える彼。
すれ違うのは当然の事で、私達は其れを乗り越えられる程の愛とやらを持ち合わせていない。
自業自得だ。
元々押されて付き合っただけなのだから。
どうでも良い。
どうせ切れる関係だった。
唯、其れだけだ。
何度も言い聴かせては虚しくなる。
液晶画面に映し出されている私の素っ気無い返事がぼやけた。
頬を伝うモノに嫌気が差して君からの新着メッセージは後で見ようと画面を暗くする。
君は素直すぎるから今も未だツリーの前で独り私を待ち続けているのだろう。
私は恋愛が下手すぎるから屹度もう彼の前で笑い続ける事は出来ない。
2人して馬鹿だと唯、自嘲する。
恋愛なんてしなきゃ良かった。
3年前のクリスマスイヴ、
どうして彼の告白を受け入れてしまったのか。
未だ私にも解らない。
君の事は嫌いじゃない。
嗚呼、違う。
自分にくらい素直になろうか。
想えば何時も君の事しか考えていなかった。
何をするにも君と居た。
何処ですれ違ったのか。
悪いのは私か、はたまた君か。
互いか、運命を決めた神なのか。
何れにせよ私達の運命は酷なモノだった。
もし来世とやらが有って、
もし神とやらが居るのなら1つだけ願おう。
君と私の紅い糸が絡まり解れぬように。
瞳に溜まっては溢れる涙を拭って小さな液晶画面を再度明るくする。
君からの新着メッセージを開いた。
恐らく君からの最後のメッセージに眼を通す。
また、頬が濡れてゆく。
私の好きな人は、彼は、狡い。
ぼやけた視界の中で君への最後のメッセージを打ち込んだ。
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
‘ 好きでした。
どうしようも無く、好きだったよ。 ’
‘ 好き ’ が過去になる前に後戻りしたい、なんてらしくない事を考えながら明るくなった液晶画面に眼を遣る。
メッセージに既読が付き、互いが互いの連絡先から消えたと同時に思い出す。
フィリップス・ブルックスが言った言葉には続きがあるのだ。
May God make you very rich in both.
其の両方において、神が貴方をとても豊かにしますように。
そして想う。
生涯、恋した君を忘れる事は無いだろう。
𝐹𝑖𝑛.
コメント
11件
んわわわわ、愛してます 伝え方が合わなくて傷付けちゃってるのがもう切なすぎる フィリップス・ブルックスさんの言葉の後が2人のこと表しまくってて叫ぶ( 別れ際どっちも伝え合ってるのに女の子が‘好きでした’なの辛すぎた 別れ切り出してるの愛伝えまくってた男の子なのも辛すぎる サブタイトルを‘s’で終わるのまじ天才すぎた!!()
もうエモいし深いし本当綺麗すぎますよ、 「 好きです、別れよ 」って云う矛盾してる言葉とかにも、その男の子の優しさとか入ってる感じがして、しかもタイトル s で終わってるのも良いし、その後になんかスマホのメール送る時に出てくる消すマーク?みたいなのあるのが読む前から泣きそうになりました、! 擦れ違い系ほんと大好き人間なので、まじで有難いです