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10月24日 PM 0:00
CASE嘉助
新宿市内にある椿御用達の焼肉店に来て、2時間が経った。
個室の部屋の中に白い煙が立ち込める。
〇〇組の組長がかなりご立腹で、僕が来てからも腹の虫が収まる事がなかった。
網の上で焼かれた高級な肉は丸こげになっていて、ぬるくなったビールも虚しく見える。
「全く、椿さんの勝手な行動は困るんだけど」
小太りのおっさんは嫌味を言いながら、煙草を蒸す。
横目でチラッと、僕の右隣に置かれているアタッシュケースを見つめた。
〇〇組は兵頭会の傘下に入れなかった格下の組だった。
そんな組が何故、椿会と手を組むようになったのか。
この男が椿の為に良いように動くからだ。
海外からの銃の輸入、薬物の製造工場の運営。
この2つの仕事は〇〇組が請け負っている。
椿組の儲けの殆どが薬物の売買、後はキャバクラやホストクラブの運営。
この男は別に椿が、この場に来てない事に怒っていない。
詫びの品を持ってきて欲しいが故、僕を呼び付ける為に駄々を捏ねたのだ。
「申し訳ないです。今回はこちらの不手際ですので、お詫びの品をお持ちしました」
そう言って、持ってきたアタッシュケースをテーブルの上に置く。
パカッ。
アタッシュケースを開け,中に入った200万の札束を見せる。
〇〇組の組長は札束を見るや否や、目の色が180度変わった。
分かり易い男だ。
金が好きな人間程、使い易い奴はいない。
「ふ、ふんっ、分かってるじゃないか。さっさと金を寄越せっ、本当に200万あるか確かめないとなぁ」
「どうぞ、御確認下さい」
僕の言葉を聞いた〇〇組の組長はアタッシュケースを乱暴に奪う。
カチャッ。
背後から聞き慣れた音がし、振り返らなくてもどんな状況なのか分かる。
後ろに立っている〇〇組の組員数人が銃口を向けてきている。
「椿さんがな、お前さんのここ最近の動きが怪しいとぼやいててな?どうなんだ?」
嫌味な笑みを浮かべながら、僕の反応を伺う。
椿が僕を怪しんでいる事のは、薄々気付いていた。
伊助達が殺したのは僕に対しての警告だ。
「裏切ったら殺すぞ」と、脅しを掛けに来たと言う所か。
椿は僕の素性までは知らない。
当然、目の前にいる男もだ。
使えるものは何でも使う。
その考えだけは、お前と同じだよ椿。
「随分と余裕そうだな、おっさん」
「あ?」
「兵頭会の傘下に入れなかったカス組が、調子乗ってんじゃねーぞ」
「なっ!?お前、俺に舐めた口聞いてんじゃ…」
ガチャッ。
〇〇組の組長の言葉を遮るように個室の扉が開いた。
入ってきたのは夜中なのに黒のサングラスを掛け、ス
ーツ姿の男達だ。
皆、胸ポケット部分に彼岸花のバッチが着けられている。
カチャッ。
スーツの男達は銃を取り出し、〇〇組の組員達の頭に銃口を向ける。
パシュッ、パシュッ、パシュッ!!!
「ブッ!?」
「グハッ!!」
ブシャァア!!!
バシャッ!!!
男達は一斉に引き金を弾き、個室の部屋が赤く染まる。
〇〇組の組員達の頭から噴き出した血が、壁と組長の男の顔に思いっきり掛かった。
「うわわわわわわ!!!?な、何で、神楽組の組員が!?」
「若、遅くなりました。外にいた〇〇組の組員と椿会の組員達の処理は、終わらせてあります」
「は、は?若だと?」
うちの組員の言葉を聞いた組長の男が、驚いた表情のまま僕の顔を見つめてくる。
「冗談だろ…?だって、神楽組の息子は殺されたんだろ!?それも随分前にだ!!!」
「その息子が死んでなかったって事だよ。アンタの目の前のいる男は正真正銘、神楽ヨウって訳だ」
「嘘だろ…?だ、だって、椿さんはそんな事、一言も言ってなかったぞ!?」
「そりゃあ、知らないからね」
カチャカチャッ。
組員から貰った銃に弾丸を込めながら、組長の男の問い掛けに答えた。
「し、知らないだと…?意味が分からん!!!こんな筈じゃなかったのに…」
「どの道、アンタはここで死ぬんだ。死ぬ時まで頭は使いたくないだろ」
そう言って、組長の男に銃口を向ける。
カチャッ。
「ま,待て!!!そ、そうだ、ヨウさんに寝返る!!!お、俺の持ってる物を全てや…」
パァァァンッ!!!
ブシャァアッ!!!
黙って引き金を弾き、放たれた銃弾は組長の男の額に命中し血が噴き出す。
ピチャッと返り血が頬に付着し、テーブルの上に置かれていたお手拭きで拭う。
「若、組長が車でお待ちになっています」
「組長まで付いて来たのか、竹」
「すいません」
竹と呼んだ図体の大きい男は昔、僕の世話係りをしていた男だ。
今はお父さんの側近をしている。
「組長は先程の話の続きをしたいそうなので」
「理解出来てなかったって事か」
そう言いながら煙草を咥えると、竹がライターで素早く火を着けた。
***
ここに来る数時間前、神楽組の事務所に訪れていた。
お父さんと組員達に掛けたJewelry Wrodsを解く時が来たからだ。
「椿会の組員がうちに何の用だ?」
やんわりとした話し方だが、明確な敵意を感じる。
僕を取り囲むように立っている組員達も同じように。
何十年かぶりにお父さんと対面したが、昔と全く変わっていない。
大人しそうな雰囲気も、年齢の割に若い顔立ちも。
組長席に置かれている亡くなった母と僕の写真を飾っている所も。
家族の写真なんか飾らないタイプだったくせに。
「僕の顔、忘れちゃったかな」
そう言って、タンザナイトの瞳で親父の顔を捉える。
黙ったまま僕の顔を見つめたまま、親父の額から冷や汗が流れ出す。
「く、組長?どうしたんですか?おい、組長に何をした」
「何もしてないよ、竹」
背後に立っていた竹の方に振り返りながら答える。
竹と他の組員達もすぐに、親父と同じ表情になって行く。
「ヨウ…、なのか?だ、だってっ、お前は死んだ筈じゃ…」
「お父さん、僕がJewelry Pupiyだって忘れたの?」
「っ!?まさか、俺や組員達に使っていたと言うのか」
「その通り、僕が死んだと思わせる必要があったからね」
僕の言葉を聞いたお父さんは、頭を抱えながら項垂れる。
「必要があった?どうしてまた…」
「あぁ、お父さんは分からない?僕の考えてる事」
「…、椿恭弥か。お前が拓也さんに懐いていた事は覚えている。椿恭弥を恨んでいるなら何故、椿会の組員なんかしているんだ」
「監禁されている白雪さんを助ける為と、椿会の傘下に入ってる組を潰す事。椿会が何をして金を稼いでいるか知ってるでしょ」
お父さんの顔を見ながら煙草を咥えると、竹がライターを着火させ煙草に火を着ける。
「知っているが…、それとヨウの復讐になんの関係があるんだ」
「あのさ、お父さん。ただ、椿を殺すだけじゃ駄目なんだよ。椿が築いてきた物を壊してから殺さないと」
「…、ヨウ、お前の気持ちは分かった。俺達に死んだと思わせた事も、今こうして現れた事にも意味があるんだな?俺に出来る事なら協力するよ。今まで,お前を蔑ろにしてきた罪滅ぼしをさせてくれ」
「親父のそう言う所、嫌いじゃなよ。僕の言葉をすんなり受け入れてくれるから」
こうやって言い出す頃合いだと思って、ここに来たんだ。
数ヶ月前から親父が仕事をしてる場所に行き、僕の存在を頭に入れさせた。
毎回毎回、行く先々に行き、ただお父さんと目を合わせるだけ。
疑心暗鬼にさせ、僕を恋しがらせ、組員達に探させたら尚良しだけど…。
案の定、お父さんは思った通りの行動をしてくれた。
神楽組の組員達が必要以上に街に繰り出してくれたお陰で、椿会の売人達が捕まり兵頭会に送り込まれた。
自分のシマを荒らされてるんだ、それ相当の罰が売人達に下された。
「神楽組の動きが活発になった所為で、雇った売人達が姿を眩ましやがった。チッ、〇〇組が派遣して来た
野郎どもが使えなさ過ぎる」
椿はこの言葉を何回もボヤき、〇〇組の組長を何度も呼び出しては殴ってたな。
売人達が捕まった所為で稼ぎは下がり、椿会の組員達が売人をする事に。
売人を新しく派遣した所で、結果は同じだ。
人数が多かった椿会も四郎君達に殺され、半分程減った。
モモちゃんを奪う為に、組員達を何度も出動させた所為。
チンピラ風情が束になった所でプロの殺し屋に勝てる訳がない。
これも僕がそうなるように仕組んだんだけど。
「ありがとうお父さん。実はさ、組に戻ろうと思ってるんだけど…。どう思う?」
「嬉しいに決まってるじゃないか!!お前に組を継いでほしかったんだから。竹もそうだろ?」
「はい、組長。若が生きていてくれただけでも、感無量です」
「雪哉さんにも報告しないとな、若頭就任式の手配をすぐにしよう。そうだ、久しぶりに飯に行こう。数十年ぶりの食事なんだ、良い物を…」
竹と他の組員とお父さん達は勝手に飯の予定を立て始める。
「食事は後にしてもらうよ、〇〇組の組長に呼び出されてるんだ」
「ヨウを呼び出すなんざ、生意気な事を…。俺との食事よりも優先する事か」
「始末する為に行くんだから、当然だよ。組に戻りたいって言ったのには理由があって、椿が僕の事を怪しんでてさ。椿会を抜ける必要があるんだ」
僕の言葉を聞いたお父さんは神妙な面持ちをした。
何故,お父さんがその顔をするのか理解出来ない。
ただ単に食事に行けなかった事に拗ねてるだけ…、ぽいな。
「竹達を外に待機させておけ、会うだけなら遅くならないだろ」
「そんなに心配?僕の事」
「当たり前だろ?いくつになっても、自分の子供の事を心配するものだ。これからは、うちの組員を好きに使ってくれて良い。ここにいる連中は昔、お前の世話をした事がある連中だ」
正直な所、竹以外の組員の顔を覚えていない。
僕の事を覚えてるみたいだけど、組員を好きに使って良いなら好都合だ。
雪哉さんは使えそうにないからだ。
タイミング悪く、四郎君に癌が見つかり生死に関わる問題が発生してきた。
四郎君が自分の息子だって知ってから、雪哉さんは四郎君を拓也さんと重ねて見出している。
この間の食事会がまさにそうだ。
不倫相手との間に出来た拓也さんと腹違いの兄弟。
まさか、四郎君が拓也さんの弟だとは夢にも思わなかった。
「お言葉に甘えさせてもらうよ」
「うんうん、早くヨウの若頭就任式が見たいよ」
そう言って、お父さんは満面の笑みを浮かべた。
***
今はお父さんの機嫌を取っておいた方が良さそうだ。
調子ならいくらでも乗せておけば良い。
「分かったよ」
「組長が行きつけの中華屋に予約を入れています。若も昔に、何度か組長と一緒に行った事がありますよ」
「どこでも良いよ、ご飯を食べるだけなんだから」
「そう言わずに…、組長かなり喜ばれてるんですから」
わざわざ、思い出のある中華屋に行く必要があるのだろうか。
お父さんが覚えてる思い出は、僕は覚えていない。
覚えていたとしても、それは僕にとっては嫌な記憶だ。
「竹さん、車を表に回しました」
「車が到着しましたね、行きましょう若」
竹はそう言って、僕の肩にコートをソッと掛ける。
〇〇組の組長の男を一瞬だけ見つめ、黙ったまま個室を出た。
CASE 四郎
同時刻 横浜 闇闘技会場
車を近くの公園の駐車場に停め、車から降りる。
「四郎、会場はこの先?」
「あぁ、パーカーのフード深く被ってろ」
「うん」
モモは言う通りにフードを深く被り、俺の手を握った。
ズボンの尻ポケットにトカレフTT-33を突っ込み、公園の駐車場を後にする。
会場に向かっていると、モモが呟く。
「三郎以外にJewelry Puipyの気配が2つする。前にも会った事がある人の気配…」
モモの言葉を聞いて、頭に浮かんだ顔は椿だった。
椿が会場に居てもおかしくない。
賞品がJewelry Pupiyなら、尚更の事。
気になるのはもう1つの気配の方だ。
佐助か木下穂乃果とか言った女のどちらなのか。
考えを巡らせていると、いつの間にか会場の入り口に到着していた。
ガードマンらしき人物はいないな…。
「中に入れる?」
「扉が不自然に開いてるな。モモ、俺の側を離れんなよ」
「う、うんっ」
カチャッ。
トカレフTT-33を取り出し、不自然に開いてる扉をゆっくりける。
キィィィ…。
扉の軋む音が真っ暗なフロントに響く。
だが、扉の軋みの音を会場の歓声が掻き消す。
「「ワァァアアアア!!!」」
声のした方に向かい、大きな扉をソッと開けた。
キィィィ…。
「さぁ、いよいよ今夜の目玉となる試合が始まります!!!優勝すれば、賞品と賭けられた金額を持って帰れます!!!この試合は闇サイトにて随時、配信されますよ!!!」
チェック柄のスーツを着た男が、ステージの中心に立って話している。
モニターを見るとYASUKE VS KATAMEOTOKOと書かれていた。
佐助じゃなく、木下穂乃果の方だったか。
席は満席で客達は、早く殺し合いが見たくて仕方ないようだ。
「あっ、三郎が上がって来たよ、四郎」
モニター画面が切り変わり、三郎がステージに上がる所が映し出されている。
カツカツカツ。
背後から革靴の足音が聞こえモモを後ろに下がらせながら、トカレフTT-33を構え後ろを振り返る。
カチャッ!!!
振り返ると、やはり椿が数人の組員を連れて立っていた。
「待っていたよ四郎君。相変わらず気配を感じるのが早い」
「待ち伏せしてたんだろ、俺を。入り口のドアをわざと、不自然に開けていたんだろ」
「そこまでは考えていないさ、君がここに来る事は分かっていたしね。君とモモちゃんをVIPルームに案内したいと思ってね」
「…、何か企んでるんだろ」
「あぁ、今は一緒に殺し合いを観戦しようじゃないか」
何故、急に椿がこの提案をして来たのか意図が分からない。
「部屋に行かなくても良いだろ」
「僕としては大人しく来てほしいんだけど」
そういって、椿が取り出したのはスイッチが付いた機械だった。
見た瞬間、これが爆弾スイッチだと分かった。
「四郎…、この人の言う事聞くの…?絶対に、何かするよ…」
「ガキは大人の話に入って来るなよ」
椿の口から、ゾッとする程の冷たい声が発せられた。
流石のモモも顔を青ざめる。
「言う事,聞いてくれるかな?大事な三郎君の事を死なせたくないだろ」
「つくづく、お前が嫌な人間だって理解したわ。三郎を人質に取ったつもりかよ」
「君が素直に言う事を聞いてくれるのって、三郎君かモモちゃんが関係してる時なんだね」
「…んな事はどうでも良いだろ」
「モモちゃんなら、僕がお預かりするよ」
俺と椿の会話に入って来たのは、七海が攫われた時に一緒にいた緑髪の男だった。
椿の顔から胡散臭い笑顔が消え、緑髪の男を睨み付ける。
「何で、君がここにいるのかな天音君」
「お前には関係ない事だ、気にする必要はない。用があるのはこの男だけだろ」
「
嫌味な男だな、本当に。まぁ、良いよ?モモちゃんを連れて行っても」
椿が投げやり気味に言葉を吐き、天音から視線を逸らす。
「マスターの命令で来たから、安心して良いよ。もうすぐ、君のメンバー達がここに来るから」
天音が椿に聞こえないように小声で話した。
ボスが一郎達に連絡したんだろう。
歩けない七海の代わりに、ここに来た感じか。
モモを連れて行くつもりがなかったから、この申し出は有難い。
「モモ、この男は七海の連れだ」
「七海の…?」
「コイツと留守番しろ」
「えっ…?四郎だけ行くの?」
俺の言葉を聞いたモモの表情が一気に曇る。
「すぐ戻る」
「…、うん」
モモの頭を優しく撫で、扉の前に立つ椿の元に向かう。
俺と椿は2階に上がり、黒塗りの扉の前で止まると、組員の男が扉を開けた。
キィィィ…。
大きな窓ガラスから会場が一望出来るようになってるのか。
黒い毛皮の絨毯に赤皮のソファー、ガラスのテーブルの上にはウィスキーボトルが置かれている。
広さは16.5…ぐらいか。
「座りなよ、酒でも飲む?」
「…」
椿の言葉を無視して、対面するようにソファーに腰を降ろす。
「拓也とは全く似てないね、お前」
「…、は?」
突然のワードに心臓が飛び跳ねた。
「驚いたよ、拓也に腹違いの兄弟がいるなんてさ。雪哉さんもやるよね?他所で女を作って。ヤル事はやってんだから」
「どうやって調べた」
「うちにも優秀な情報屋はいるからね」
確かに、調べようと思えば簡単に調べられる。
この男なら、どんな方法を使ってでも俺の事を調べただろう。
ロックグラスに注がれたウィスキーを口に含みながら、椿は言葉を続ける。
「あぁ、でも目元は拓也にそっくりだ。僕が好きだった目だ」
「こんな話がしたくて、ここに呼んだのか」
「それもあるけど…。雪哉さんがあのアルビノのガキを手に入れたがってるのか、分からなかったんだよね。それも、闇市場に四郎君達を連れてね」
「言いたい事があるなら、はっきり言え」
バサッと、テーブルの上に大量の資料が置かれた。
「拓也と白雪との間に出来たガキを、僕はずっと探し
てたんだ。忌々しい存在の子供が生きてるってだけで、吐き気がする」
資料に書かれていた内容に目が留まる。
『兵頭雪哉は兵頭拓也の娘、兵頭モモの存在を隠す為に闇市場のオーナーに預けていた。少女は客達の目に留まるだけの賞品として7年間、闇市場で暮らしていた』
『7年契約をオーナーと結び、兵頭雪哉は自身が拾って来た子供達を殺し屋に育てるプランを立てていた』
資料に添付されたモモの写真の隣に、闇市場に売られた詳細が詳しく書かれていた。
「雪哉さんがモモちゃんを売っていたって知ってた?」
椿が資料を1枚拾い上げながら立ち上がった。
「君達には何も言わずに、モモちゃんを回収させた。
何で、そうしたんだろうね?君達のボスは」
そう言って、椿は俺の顔を覗き込んだ。
CASE 三郎
脳裏に四郎とモモちゃんが会場に到着した映像が流れた。
だけど、椿が四郎だけを連れて出て行ってまう映像に切り替わる。
何で、椿が四郎だけを連れて行ったんだ?
追いかけないとっ!!!
そう思った瞬間、木下穂乃果がナイフを投げ飛ばしてきた。
ビュンッ!!!
軽々と投げられたナイフを交わすと、木下穂乃果がケラケラと笑い出す。
「行かせる訳ないじゃん?逃がさないんだから!!!」
タタタタタタタタタッ!!!
木下穂乃果が叫びながら入れ出し、持っていた銃を構え引き金を弾いて来た。
バンッ、バンッ、バンッ!!!
放たれた弾丸がスローモーションに見えるようになったのは、左目をくり抜いてからだ。
弾丸を避けながら体勢を低くし、助走を付けて走る。
持って来ていた村雨を抜き、木下穂乃果の懐に入り込みむ。
下から上に向かって刀を振り上げたが、木下穂乃果は持っていた銃で刃を受け止めた。
キィィィンッ!!!
「「「ワァァァァァァァァァ!!!」」」
会場が一気に湧き上がり、お互いに賭けられた金額が跳ね上がる。
俺と木下穂乃果の耳に歓声は届いていない。
お互いが同時に離れ、動き出しては打つかるの繰り返しだ。
ズシャッ!!!
木下穂乃果の太ももに刃を突き刺すと、狂ったように笑い出した。
「アハハハハハ!!!めちゃくちゃ痛いんだけど!!!これ!!!」」
そう言って、刃を素手で掴みながら太ももから抜く。
ズポッ!!!
自分の手のひらに出来た深い傷を舌で抉り出す。
舌に血肉が付着しているにも関わらず、木下穂乃果はアイスを舐めているみたいに舐め続ける。
「うわっ、きっしょ!!!」
思わず心の声が漏れてしまった。
「もっと、もっと切ってよ。私が生きてるって実感させてよ!!!
口の周りが真っ赤に染まった木下穂乃果が走り出した時だった。
ドンッ!!!
背中に何か撃たれた衝撃が走り、グラッと視界が大きく揺れた。