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「……——なぁ」
「ん?」
クローゼットの前に立って服を着替えている琉成に声を掛けると、奴が笑顔で振り返った。
ベッドの端に座ったまま、人当たりのいい表情を浮かべる琉成の顔を見上げ、ジッと見詰める。夢の中ではいっつも俺とのエロい妄想ばっかしていた琉成だが、実の所普段は何を考えているのだろうか?あんな夢を見た後ではどうしたって不思議でならず、これを機にちょっと訊いてみようかと思うが、はぐらかされて終わりな気もして迷いが生まれる。
「……」
「どうしたの?」
何も言葉を続けない俺の様子が気になるのか、腰をかがめてこちらの顔を覗き込んでくる。 端正な顔をした細マッチョの清一や、何故か歳を重ねる程にショタ感が増していっている充とはまた違う、懐っこい印象のイケメンが近距離まで近づいて来られて反射的に後ろへ盛大に下がってしまった。
だが琉成がその事で傷付いたり、ガッカリした様な感じは無い。むしろ俺が逃げたり騒いだりした時の方が嬉しそうなのは何故なんだろうか。こちらの過剰な反応を楽しんでいるのだとしたらタチが悪い。
「あ、いや……えっと。お前は普段どんな事を考えてんのかなぁって、ちょっと不思議に思ったんだ」
「……気になるの?」
「ならないと言ったら嘘になる」
夢であんな経験をするまでは、あまり気にしていなかったと思う。訊いたって、どうせはぐらかされたり、スルーされるんだろうなと思うと一々問い掛けるのも億劫だったというのもある。知りたいと意思表示をしても教えてもらえないというのは正直ストレスでしかないし、傷付きだってするのだから。
「そっかぁ。知ってくれていなくても全然気にしないし、むしろそうでありたいけど……でもやっぱ嬉しくもなるもんだね。圭吾が俺を知りたいって思ってくれるのって」
着替えを終え、服の裾を整えながらニッと嬉しそうに琉成が笑った。 その笑顔を見て胸の奥がじわりと熱くなるのを感じる。
琉成が嬉しいと、俺も嬉しい。
あぁそうか、コレが恋人同士ってやつなのか。
「九割は圭吾の事考えてるよ。残りは、授業の事とか次に提出するレポートどうしようかなぁとか、ご飯何にしようかなぁとか、そんな感じ」
「比重がオカシイぞ。ってか、エロい事ばっか妄想してんじゃ無いだろうなぁ……」
夢だとはいえ、体験済みなせいでジト目を向けると、「当然!」と明るい声で返された。
「世界中に『俺の圭吾ってこんなに可愛いんだよ』って言いたくって、公衆の面前だろうが所構わずに深くねちっこく丹念に愛でて、その細い体を存分に喰らい尽くす事ばっか考えてるよ」
そう言って、ベッドに腰掛けている俺の前に琉成が片膝をついて座った。そして俺の右手を取ると、手に甲にそっと口付けをおとす。
「王子かよ。ってか、やっぱりんな事ばっか考えてんのな」
夢で見た通りで納得しか出来ない。だからって、本当にやったら一生跡が残るくらいにぶん殴った上に意地でも別れてやる。
「でも……安心して、絶対にそんな事はしないから。圭吾の可愛い姿を愛でていいのは、この世で生涯俺だけだしね」
柔らかな笑みを浮かべ、俺の手を引き、自分の頬に触れさせる。そして頬擦りをするみたいに顔をゆっくり動かし、「これ以上、嫌われたくないもん」と呟いた。
「圭吾は元来淡白な質だからね、現状でもかなり無理をさせているのは自覚してる。だけど俺にはしたい事が沢山あって願望は尽きないけど、ソレを全て押し付けて、心から嫌われるのはイヤだからさ」
「……そうな。流石にコックリング?だっけか、アレでちんこ軽く叩かれたうえに装着までさせられた時には、もうコイツとは別れようかと思ったくらいにビビったわ」
「でも受け入れてくれた」
「まぁ……『今すぐ死ね』とは思ったけどな」
「俺は圭吾が許してくれる範囲の事しかお願いしないよ」
つまり大人なオモチャやコックリングはお許しの得られる範囲だと思ったわけだ。いや、アウトだろ。……まぁ事実許しちまったんだけどな、散々全身弄られて、頭ん中真っ白にさせられてたから。
「頭ん中ではそりゃもう散々に、強姦レベルでまですげぇめっちゃくちゃにしてるけど、ずっと一緒に居たいからさ。人前じゃ絶対に喰べたりはしないよ」
真っ直ぐに俺の目を見据え、ハッキリと琉成が断言した。 周囲への言葉や雰囲気での威嚇は多々あれど、確かにコイツは俺に、人前では『いかにも恋人っぽい触れ方』をした事はなかった。それこそ、夢の中ですらも。
食べ物を食わせ合ったりはどうなのよと言われると何とも微妙な所だが、餌付けの延長みたいなもんだからノーカンだろ。……一部の腐った女子達には妙にウケているらしいが、内情は悟られてはいないと断言出来る。
言動に関しては何とも言えぬ点が多くあるが、少なくともエロい触れ方をしやがったせいで決定打を与える様な真似はしていない事は確かだ。
その事に気が付き、一気に俺の頬が真っ赤に染まり、ドクンッ心臓が大きく跳ねた。
(んとーに、愛されてんのな、俺)
夢の中だろうが現実だろうが。同じ行動や言動を得られた事で、嘘では無いと確信出来る。
「あーくそ!もういいからどっか行け」
真っ直ぐに琉成の顔を見られず顔を逸らす。俺を強姦ばっかしてる妄想をするド変態のクセに、んな奴からの愛を実感したせいで恥ずかし過ぎ、憎まれ口しか出てこない。
「え!やだよ、んなに可愛い顔してもらえてんのに」
俺の腰に抱きつき、イヤイヤと首を横に振る。完全にガキの行動だが、図体がデカイのにワンコ系なせいか似合ってしまうのが恐ろしい。
「ねぇ、もっかいしよ?」
「——は⁉︎無理言うな!圭吾も清一も、もうすぐ帰って来る時間だろうが」
「ちょっとだけ!ね?ちょっとだけだから。それにほら、この部屋は防音もバッチリだし、ドアを開けられない限りは平気だって」
「男の言う『ちょっとだけ』は絶対に信じるなって、誰かが言っていた!」
「くっ!」
渋い顔をして、今度は琉成が俺から顔を逸らした。どうやらその通り過ぎてぐうの音も出ない様だ。
「だけど、あー……明日は俺、バイト……休みだから、さ」と言うと、キラッキラとした瞳をしながら琉成がこちらに顔を戻す。
「デート?デートする?」
「講義が終わった後でもいいなら、だけどな」
照れ隠しで痒くもない後頭部をぼりぼりとかく。 ただ放課後にどこかへ二人で行くというだけなのに、何故、『自分達は恋人同士なのだ』と意識してしまうとこんなにも気恥ずかしくなるのだろうか。今までだって何度も二人で放課後に出掛けてきたというのに。
「何処がいい?パンケーキとかどうかな?巨大パフェの予約をして、圭吾が挑戦するのを俺が見ているとかもいいね」
楽しそうに話す琉成の背後にパタパタと振られた尻尾の幻覚が見えるくらい嬉しそうだ。コイツが過多な性欲を即座に制御出来るくらいだ、よっぽどデートの約束が嬉しいのだろう。
「圭吾も何処へ行きたいか考えておいてね」
「あぁ、わかった」
夢とは違ってコイツの妄想を体感せずに済むので気軽に誘ったのだが、後悔の無い一日を過ごせそうだ。
——と、あの時までは本気で思っていたのだが、結局は数時間程度の食事と買い物の後は早々にホテルに引き込まれ、いつも通りの一日とほとんど変わらなかった。無理矢理違った点をあげるとしたら、普段以上にしつこかった事くらいだろう。
デートに誘われて嬉しかったにしたって、もう二度と止めて欲しいと強く思う一日となったのだった。
【番外編⑤・終わり】