テラーノベル
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いつものように、3人はスタジオでレコーディングをしていた。
機材の音、スタッフの声、何度も繰り返される演奏。
普段と変わらないはずの光景だった。
けれど、最近の藤澤は少しだけ違っていた。
演奏中に手が止まることが増えた。
譜面を何度も確認して、いつもなら間違えないところでミスをする。
「……ごめん。もう一回いい?」
藤澤が小さく言った。
「うん、もう一回やろ」
若井が答える。
大森も黙って頷いた。
そして、もう一度始める。
――けれど、また藤澤のところで止まった。
「……あ….ごめん」
藤澤はすぐに謝った。
「……涼ちゃん」
大森の声が低くなる。
「最近、ずっとじゃない?」
藤澤は黙った。
「何回やっても同じところで止まるし、こっちも時間ないんだけど」
大森も余裕がなかった。
制作だけじゃない。
いろいろな仕事が重なって、頭の中はずっといっぱいだった。
そんな中で、思うように進まないレコーディング。
気づけば、言葉が止まらなくなっていた。
「正直、最近の涼ちゃん、ちょっと足引っ張ってるよ」
若井の手が止まった。
「元貴……」
思わず口から出た。
けれど、その先は続かなかった。
大森と若井は中学の頃からの幼なじみだった。
だからこそ、大森が今どれだけ追い込まれているのかも分かっていた。
ここで強く言ったら、今まで築いてきた関係が壊れてしまう気がした。
「……」
藤澤は何も言わなかった。
ただ、膝の上で手を握りしめて、譜面を見つめている。
「俺だって何回も同じこと言いたくないんだよ」
大森の言葉が続く。
「もうちょっとちゃんとしてよ」
「……はい…」
藤澤の声は、さっきより小さかった。
それ以上、何も言わなかった。
言えなかった。
本当は言いたいことがあった。
最近、調子が悪いこと。
自分でもどうしてこんなに上手くできないのか分からないこと。
迷惑をかけたくないと思っていること。
全部伝えたかった。
でも、口を開けば涙まで出てしまいそうで。
だから、黙るしかなかった。
「……一回休憩しよ」
若井がようやく言った。
「俺、ちょっと飲み物買ってくる」
そう言って立ち上がる。
大森も椅子から離れた。
スタジオに残った藤澤は、誰もいなくなった譜面台をぼんやり眺めていた。
静かになった途端、さっきの言葉が頭の中で何度も繰り返される。
――足、引っ張ってる。
藤澤は小さく息を吐いた。
そして、誰にも聞こえない声で呟いた。
「……ちゃんとしなきゃ」
その声は、誰にも届かなかった。
次回1000
コメント
4件
楽しみに待ってます✨️
うわあああ読んだ読んだ!!😭💦 第1話からもう胸がぎゅーってなる……! 藤澤くんの「ちゃんとしなきゃ」って独り言、めっちゃ刺さったよ…。 ほんとは言いたいことあるのに、涙が出そうで黙っちゃうとこ、リアルすぎて辛い…。 大森くんのキツい言葉も、余裕なくて追い詰められてるからこそなんだよね…。 3人のバンドの空気感が細かく描かれてて、もう続きが気になって仕方ない!!次回待ってるよ!!🌸✨