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私は特別が嫌い。特別は恵まれた人だけに与えられるものなんかじゃないから。私は特別だから。
「てん、し、?」
背中に生えた真っ白な翼。腰まで届く長い白髪。瞳は宝石のようで
「きれー…」
ついに幻覚でも見ちゃったかな。そんなことを考えていると
「天使さんだよ。」
天使が笑う。翼を広げてゆったりと笑うその子は美しかった。
「どうして、私のところに来たの。」
恐る恐る聞くと天使はなんでもない事のように「迎えに来たんだよ。」と答える。私はまだ死ぬつもりなどないと伝えても天使は帰る様子がない。
「私ねー、お仕事下手なの。」
その言葉とは裏腹に天使の話しぶりは嬉しそうだ。
「下手?天使の仕事に下手も何もあるの?」
何しろ天使など存在も信じていなかったから仕事内容などもちろん知らない。それなのに いつの間にか天使の存在を認めてしまったみたいだ。
「天使のお仕事はね、いい人を天国に連れていくの。」
「みんなにとっての良いことをした人を色んな方法で天国に連れていくの。 例えば、掃除当番を変わってあげた人とか、みんなの幸せを願ってあげられる人とか、小さな良いことを積み重ねた人。」
普通のことみたいに説明してくれる天使。
「え、いい人を殺してるってこと?」
私が聞く。
「そう!理解が早いね〜、偉い偉い!」
私を撫でる素振りをしながらも天使は私に触れることは無い。
「それでね、私は良い人を見つけるのが下手なの。みーんな良い人なんだけどね、私にとっては。」
悲しそうに呟く天使。
「私が選んだ人のほとんどは良い人なんだよ。でもね、自分を大好きじゃないと天国へは行けないの。」
ドキリとした。なにせ私は私が大嫌いだから。
「じゃあ、私もはずれだね。」
ごめん。と言うと天使はまた笑顔になって
「ううん、君は自分が大好きになれるよ。だって私たちは特別なんだから。」
特別。私が大嫌いな言葉。特別って言われるのは異常って言われてるのと同じでしょ。
「特別は嫌い。」
そう言うと天使は困ったように首を傾げる。
「なんで?」
「なんで、って」
「私は特別が好きだよ。だって特別は唯一無二だもん。私も特別。私は自分を大事にできない人を見つけられる特別だよ。あなたはなんの特別?」
「私は、」
私が答えられないでいる間も天使はにこにことこちらを見ている。頭にくる。この怒りが自分に向けたものなのか天使に向けたものなのかは分からない。なのに。
「あなたも私も結局は出来損ないだよ。」
そんなこと思ってない。私と違ってあなたは
「あなたは、自分が好きなんでしょ。」
天使は困ったように笑ってから、静かに去っていった。
酷いこと言っちゃった。天使は私を助けてくれようとしてたのに。嫌いだ。こんな私なんて
「だいきらい。」
「きらい?」
優しげな声が聞こえる。もう驚かない。天使がいるなら悪魔もいるだろう。悪魔は天使とは対照的に小さな子供の姿をしていた。 耳までの長さしかないパーマっ気のある黒髪。飛べるのか疑うほど小さな黒い翼。ガラス細工のように繊細な瞳。
「おねーちゃんはおねーちゃんが嫌い?」
眉を八の字にして首を傾げるその姿は母性本能をくすぐる。
「あなたは自分が好き?」
天使のような悪魔に尋ねる。
「んーん。私は私があんまり好きじゃないの。」
驚いた。小さな子供のうちは自分を愛せるものだと思っていた。自分がそうだったような気がしていた。
悪魔が言う。
「悪魔はね、自分を大好きになれない子がなるの。自分を好きでいられないからほかの人のことを好きになれるの。」
悪魔が恐ろしいなんて嘘だ。悪魔は誰より優しいじゃないか。
「地獄は、どんなところ?」
私がいつか行くであろう場所について尋ねる。
「地獄はね、ふわふわでやさしいところだよ。みんなのことが大好きな悪魔さんたちとお話するの。たくさんたくさんお話して、自分のことが大好きになったら天国へ行くの。」
子供らしい、拙い話し方で教えてくれる悪魔。
「天国は?」
地獄がこんなに幸せそうなら、天国はどんなところなのだろう。
「天国はね、みんなの大切なものを持ち寄って見せ合いっこするの。自分が大好きになれた人たちは、みんなの大切なものを大切にできるんだよ。」
「私も、天国へ行けるかな。」
きっとどちらにいても幸せなのだろう。でも、私は私を好きになってみたい。
「君はもう、大丈夫だよ。」
「本当?」
「君は特別だから。」
特別。そっか、私は特別なんだ。
「特別優しい君は、特別人を大切にできるよ。」
「ありがとう。」
天使のような悪魔は去っていった。
どこからかまた天使が現れて言う。
「君は君を好きになれた?」
少し悩んで答える。
「まだ、私は私を愛せない。でも、ちょっとだけ”特別”が好きになったよ。」
天使がにっこりと微笑む。
「もう大丈夫だね。あなたは特別。私も特別。」
私も微笑んで答える。
「私は特別人を愛せる人でありたい。あなたのおかげで特別でいられるよ。ありがとう。」
天使はぎゅっと私を抱きしめて、ゆっくりと空を泳ぐように去っていった。
私は特別が好きだ。必ずしも恵まれた才能が”特別”ではない。でも、私は特別でありたい。
私は心に染み渡らせるように、ゆっくりと呟いた。
「私もあなたも特別。」
初めてのノベルなので感想等コメント頂けると嬉しいです!!