テラーノベル
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「ひよりちゃん、今日の声……ちょっと違うね」リビングで母がテレビを見ながら言った。
テレビには、笑顔でインタビューに答える“私”が映っていた。
でもその声は、合成音声。
私のイントネーションを元に作られた、なめらかで“整いすぎた声”。
「最近のAIってすごいのね〜」
母は感心して笑っていた。
その横で、私は同じ顔をして黙っていた。
(私が喋るより、AIのほうが好かれるってこと?)
そのとき、スマホが鳴った。
《新しい動画、バズってます!》
《“泣きながら感謝する姿”、感動コメント続出です!》
──泣いてないけど。
私はそんなこと、言ってないけど。
動画の中の“私”は、完璧な照明とBGMで、
泣きながら「夢が叶いました」と語っていた。
「ねえ、これ、いつ収録したの?」
父が不思議そうに尋ねてきた。
私は答えられなかった。
だって、知らないうちに作られた映像だったから。
(これ、誰が操作してるの?)
考えても無駄だと思った。
だって、みんなもう“その私”を本物として扱ってる。
その夜、妹の部屋から笑い声が聞こえた。
「ひより姉ちゃん、また炎上してる〜!」
「でもこの動画、声かわいいし加工うまっ!」
ドア越しに、SNSの通知音が連続して鳴っていた。
誰かが、私の“虚像”を拡散していた。
私は布団の中で、スマホの画面を見ていた。
そこには、どこかで撮られた“私の寝顔”の画像があった。
コメント欄には、こう書かれていた。
《この子、もう本人じゃない気がする》
私は何もしてない。
けれど、私という存在は日々、
“誰かの編集”によって再構成されていた。
リビングに戻ると、テレビがつけっぱなしだった。
音声合成された“私”が、流暢に語っていた。
「わたし、いつも応援されてるのが信じられないです。
だから──もっと頑張ります」
私は、その“自分”の声に耳を傾けながら、
静かに呟いた。
「私が喋るより、AIのほうが、伸びるんだよね」
母は振り返らずに言った。
「ひより、静かにして。今、あんたの話聞いてるの」
……私の声じゃないのに。
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