テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第十三章 そこには居ない青
亮平 side
「最近蓮に会いたいって言わないね……」
「そうだっけ?」
翔太が帰ってからもモニターが気になって、操作するけど、故障してはなさそうだった。
インターホンが幾度と鳴り、覗き込んだモニターには、画面の隅を、北風に煽られた落ち葉が横切る――ただそれだけの映像だった。
能天気にソファーの上でアイスを頬張る涼太に、クッションを投げつけると、〝痛っ何?〟なんて言って余計に腹が立った。
最近翔太の周りはなんだか、翔太無しで動いている気がして不思議な感覚がある。
今日も、歌割りに翔太のパートが入っていないことをだれも気付かなかった……あり得ないでしょ。
「そんな事よりイチャイチャしよっ?」
イヤらしくお尻に伸びてきた手をバチンと叩くと、大きなため息をついた涼太は
「翔太、空元気なだけだよ。でも今俺たちに出来ることは一緒にいてあげることくらいだろ?」
異変に気づいていないこの、幼馴染……
「あんた今まで、翔太の何を見てきたのよ」
〝怒るなよ〟と言って、首筋に唇を押し当てると、足を絡めて体を重ねた。
不安を繕う温もりも、嬉しさを分かち合う喜びも、
それでも――
翔太の奥までは届いていない気がした。
「二人きりの時はアイツの話はよそう……俺たちだってこの二人の時間が奪われるかも分からないんだよ?」
「そうだけど……」
ふと目に止まったメンバー全員の集合写真。
翔太の姿だけが一瞬ぼやけて見えた気がして、
瞼を擦って、もう一度見る。
そこにはいつものように、柔らかな笑顔で微笑む翔太の姿があって、胸のざわめきに蓋をした。
それにしても……
テーブルの上に置きっぱなしのリモコンを手に取る。
何気なく音楽番組の録画を再生した。
新曲のパフォーマンス映像。
見慣れたフォーメーション。
見慣れた立ち位置。
なのに。
「……あれ?」
サビ前、センターに入るはずの動線が、ほんの一拍だけ空いて見えた。
気のせいだと思って巻き戻す。
もう一度再生する。
今度は何もおかしくない。
ちゃんと揃っている。
けれど、胸の奥に残った違和感だけが消えない。
無意識に、集合写真へ視線が戻る。
さっきと同じ笑顔。
同じ距離感。
同じ配置。
それでも、名前を呼ぼうとした瞬間だけ、音が出ない。
誰を呼ぼうとしたんだっけ。
指先が、写真の中央あたりで止まる。
触れているはずなのに、そこだけ温度がない気がした。
「……気のせい、か」
小さく呟いて、写真を伏せた。
「ねぇ……やっぱりやめて疲れてるから触らないで」
「ひどくない?少しは俺にも構ってよ?」
普段男らしいくせに……ずるい人。
甘えたように膝の上に擦り寄って〝ベッド行こう〟なんて言われれば、断れるわけないでしょ。
一度は愛した人の不安げな顔が頭をよぎった。
あんなに誰にでも甘えることの出来た……
——誰だっけ。
……あぁ、翔太。
そうだ。翔太だ。
あれっ何を考えていたんだっけ――
……まあいい。
誰にも縋れず、ただ耐えている。
彼を想う。
いつからこんなにも遠くの人になってしまったんだろう
――しょうた――
それ以上、考えるのはやめた。
涼太の腕に引き寄せられて、背中に回された手が離れない。
逃げ場のない距離なのに、不思議と息が楽だった。
唇が触れて、声を出す前に塞がれる。
確かめるようなキスが、何度も落ちてくる。
寝室のカーテンの隙間から、東京の夜が覗いていた。
深い青の中で、星だけがやけに近い。
翔太 side
どうやったら、あの夢の続きを見ることが出来るのだろう。
そんなことに時間を割くほど、素敵な夢だったし、毎日でも夢で蓮に会えるのならって考えただけで、胸が弾んだ。
そんな都合のいい夢なんてあるわけないのに、考えるだけで気が紛れた。
久しぶりの蓮からのメッセージも、俺を元気付けた。
短い写真付きのメッセージ。
📩「いつか2人で見に行こう。翔太の青を」
レイク・ルイーズの夏の湖の写真。
見たこともないような青が目に飛び込んだ。
夢に見た、氷で覆われた景色の事など知らないはずなのに――
以心伝心、なんて言葉が浮かんだ。
夢の続きを見ているような、そんな感覚を覚える。
腑に落ちないのは、追伸で書かれていたメッセージ。
📩「追伸 : お揃いの指輪持って帰っちゃダメだろ」
コメント
7件

マジで宣伝しようかな 天才すぎるでしょ
