テラーノベル
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今日はドレスではないだけ前回よりマシなのかもしれない。
でも、どう頑張ってもこんなに清楚な水色のワンピースは似合うわけがない。
こういう可愛いワンピースは、ふわふわのお嬢様が着るべきで、私のような喪女が着ていい物ではないんですと世界中に叫びたい気分だ。
「着替えを手伝おうか?」
真面目な顔で冗談を言うアレクサンドロに、ヒナは全力で首を横に振る。
アレクサンドロはユリウスに叱られながら、隣の部屋に行った。
またこのコルセットのお世話に?
くすぐったい靴下も苦手だ。
たとえ3cmでもヒールは苦手。
眼鏡も没収。
前髪も止められてしまった。
サラサラの生地で着心地の良いワンピースのサイズがピッタリなのはなぜ?
「お美しいです」
「お嬢様は肌が白いので何色でもお似合いですね」
お世辞もありがとうございます!
そんなに頑張って励まさなくても大丈夫です!
「ありがとうございます」
ヒナが微笑むと侍女三人も嬉しそうに微笑んでくれた。
「ヒナ、準備できた?」
「はい、アレク様」
ふわっと揺れるスカート。
真っ黒で艶やかな髪。
眼鏡ナシ、前髪も止め、大きな黒い眼がしっかりと見えたヒナにアレクサンドロは見惚れる。
「俺のことはアレクって呼んで」
「私のことは兄と」
なぜかユリウスまで変なことを言い出し、ヒナは思わず笑った。
「便乗するな」
「ヒナさんはイーストウッド家です」
あぁ、親戚のお兄ちゃんってことね。
「わかりました。お兄様。私のこともヒナと呼んでください」
「はい。ヒナ」
あっさりお兄様と呼んだヒナをアレクサンドロは見つめる。
さぁ、早くアレクと呼べ! と期待しているかのような目だ。
「ア……アレク?」
狼の耳があったら、嬉しそうにピーンとなっていそうなアレクサンドロ。
こういうところはすごく可愛いと思う。
普段はイケメンすぎるけれど。
さぁ街へ行こう! とご機嫌なアレクサンドロに手を繋がれながら、ヒナは豪華な廊下を進んだ。
「今日はお忍びなので、護衛は少ないです」
「わかった」
「もちろんアレは所持していません」
「そうか」
二人の会話はとても不思議だ。
ユリウスは補佐だと言っていたが、まるで主従関係みたいだ。
ユリウスの方が年上なのに。
今日のアレクサンドロはいつもよりもキラキラが少ない服。
武官のみんなが着ているようなラフな服だ。
もう少しボタンを外したらチャラい大学生になれるかもしれない。
髪はメッシュでオシャレだし、顔はもちろんイケメン。
スポーツならバスケが似合いそうだ。
大学に行ったらモテるのだろうな。
前回立ち止まってしまった階段に差し掛かったヒナの身体は無意識にビクッと動いた。
ここはたくさんの騎士がお辞儀をしていた階段。
よかった。
今日は三人しかいないし、剣を持っていないみたいだ。
馬車に乗るのは初めてで不安だったけれど、アレクサンドロとユリウスが一緒だから大丈夫。
観覧車の椅子みたいな固い椅子と振動でおしりは痛いけれど。
「……すごい」
漫画で見るような中世ヨーロッパの街並みにヒナは目を輝かせた。
森で見たお城と、裾野に広がる街!
やっぱり追い出されたグレーのお城とは全然違う。
「きれい……」
道路は石畳。
オレンジの屋根、黄色の壁。
カラフルだが派手すぎない街並み。
広場の横に止まった馬車からヒナはアレクサンドロの手を借りてゆっくりと降りた。
たくさんの店、たくさんの人、たくさんのオオカミ。
キョロキョロしてその場から動きそうにないヒナの手をギュッと握ると、アレクサンドロはそろそろ俺を見てと囁く。
「んなっ!」
急に変なことを言わないで!
イケメンの囁きは心臓に悪い。
バクバクする心臓が飛び出さないように必死で抑えると、ヒナはアレクサンドロを見上げた。
「アレク様、連れてきてくれてありがとうございます」
その微笑みに今度はアレクサンドロが悩殺される。
「アレクでしょ」
ヒナの微笑みでバクバクする心臓を押さえながら、アレクサンドロはヒナの耳元で再び囁いた。
ついでにお仕置きだと耳をペロッと舐める。
「ふひゃっ!」
「ははっ、変な声」
「んもう、いたずら禁止!」
街へ着いただけでイチャイチャなカップルを見ながら、ユリウスは手際よく護衛を配置した。
ヒナからは気にならない位置で。
でもいざという時に間に合わなくては困る。
今日は私服で街へ溶け込む騎士と、狼の姿で護衛する武官の両方を手配し、護衛させる。
「適当に歩いて、気になった店に入る、でいい?」
アレクサンドロがグレーの眼を細めて微笑むと、ヒナはうれしそうに「はい」と答えた。
「あっ、アレク様だ」
小さい子がアレクサンドロの名前を呼び、親がペコペコする。
「アレク様よ!」
「隣の子は誰?」
黄色い声も飛び交い、当然ながらお姉様たちの視線が刺さる。
すみません。
庶民がイケメンの隣を歩いて申し訳ないです。
つながれた手が熱い。
ふと隣を見上げると、濃いグレーと薄いグレーのメッシュの髪がよく似合うイケメンの横顔が眩しかった。
「ヒナはどんな物が好き?」
キラキラなバッグの店の前でアレクサンドロが立ち止まり、ヒナに見せる。
「ポケットとか機能性重視です」
ヒナは店の片隅に追いやられた飾りのないシンプルなバッグを指差した。
「そうか。俺もそっちの方が好きだ」
見た目だけ派手でも中身が良くなければ使えないとアレクサンドロが笑う。
バッグのことを言っているかのような会話だが、おそらく見た目だけ良い貴族をアレクサンドロは皮肉っているのだろう。
最近は礼儀知らずなご子息・令嬢が多い。
やたらと馴れ馴れしかったり、媚びを売ってきたり。
中身が良くないと……ね。
ユリウスは二人の会話を聞きながら苦笑した。
「アレク、あれは?」
「オオカミの尻尾用のリボンを売る店だ」
「なにそれ」
活気あふれる街には多くの人々。
でもコンクリートで囲まれた都会とは違い、みんなあまり急いでいない。
オオカミが普通に歩き回る穏やかで、平和そうな街だ。
店に並べられているものはきっと手作り。
ひとつひとつの形が違って味がある。
職人さんになるのも良いよね。
住み込みで修行をさせてくれたら最高。
美味しそうなパンの匂いもする。
服、雑貨、食べ物。
「いい街ですね」
雰囲気が素敵だとヒナが言うと、アレクサンドロは嬉しそうに笑った。
「……これかな」
通りすがりの装飾品店でアレクサンドロが手に取ったのは蝶のバレッタ。
先日着た紫のドレスに似合いそうな紫の蝶だ。
「キレイ」
模様が細かく、色は紫からピンクのグラデーション。
アレクサンドロはヒナが気に入ったことを確認すると、店員に向かってスッと手を上げた。
店員はヒナの髪をくるくると簡単に巻くと蝶のバレッタで留める。
そのまま当然のようにアレクサンドロは支払いをしてしまった。
「ア、アレク?」
焦るヒナの口にアレクサンドロは人差し指を押し付ける。
「ディーンはノート、ランディは万年筆。俺からはコレ」
使ってくれると嬉しいと笑うアレクサンドロの笑顔が爽やかすぎて眩しい。
モテ男の行動は心臓に悪い!
ヒナは真っ赤な顔で「ありがとう」とお礼を言った。
街を回っていると、街の人たちがアレクサンドロの名前を呼んだり、おばあちゃんが拝みだすという不思議な光景をヒナは目にした。
もちろんお姉様たちはうっとりだ。
なにげなく振り返るとアレクサンドロが買ったお店は、お客さんが殺到している。
食べ物を買うと、銀食器に移し替えられてユリウスが必ず先に食べる。
たぶん隠れているのだろうけど、私服の護衛っぽい人が何人も。
狼の姿も武官たちだろう。
王宮に住んでいる。
将来国の代表になる人。
ヒナは隣を歩くアレクサンドロを見上げた。
「疲れた?」
優しい目でヒナを見るアレクサンドロに、ヒナは首を横に振った。
綺麗な橋を渡り、公園に着く。
散歩中の人を装っているがきっと護衛。
公園にいそうな子供連れの親子やご老人の姿はなかった。
「普段気軽に街に来られないからヒナと街が歩けて嬉しい」
大きな木の下のベンチに二人で座ると、木陰に吹く風が心地良かった。
ユリウスは近すぎず遠すぎない微妙な距離で立っているけれど、どうして?
一緒にベンチに座ればいいのに。
「アレクは兄弟いる?」
「いないよ。ヒナは?」
「いない」
お互いの事を聞くのは初めてかもしれない。
好きな食べ物、趣味、特技。
これではまるでお見合いだ。
「ねぇ、ヒナは水曜ヒマだよね?」
「月・木は武官で、火・金が文官だから水曜はあいていますよ」
「じゃあ、水曜は俺の手伝いね」
「アレクの手伝い?」
「疲れた俺を癒す係」
もふもふしてくれればいいよと言うアレクサンドロにヒナは笑った。
可愛く笑うヒナをアレクサンドロはじっと見つめ、手を恋人繋ぎに変える。
「好きだよ、ヒナ」
は?
好き?
いやいや、聞き間違い。
突然、耳元でサラリと言われたアリエナイ言葉にヒナは目を見開いた。
アレクサンドロは右手でヒナの左耳からアゴにかけてなぞると、ゆっくり顔を近づけ、そのまま触れるだけのキスをした。
「好きだよ」
ペロっと唇を舐める姿はまるで狼の姿で口を舐められた時のようだ。
こんなイケメンが私を好き?
そんなのアリエナイでしょ?
逃げようと腰を下げたが恋人繋ぎにされた手でグッと押さえられ逃げられない。
アレクサンドロのもう片方の手がヒナの頭を押さえる。
耳たぶにも首にもキスされ、頬にも、そして再び唇まで戻ってきたアレクサンドロの吐息にヒナの心臓が跳ねた。
犬にベロベロ舐められるのとは違う熱いキスに戸惑いながら、ヒナは繋いでいない左手でアレクサンドロを押す。
だがアレクサンドロはびくともしない。
全然終わらないキスにヒナはパニックになった。
少し離れたユリウスでさえ気づくほどの甘い魔力は、大地にも影響を及ぼした。
木がざわつき、葉が生い茂る。
ユリウスの足元にあった小さな花がゆっくりと咲いた。
水が濁っていた公園の池の水は透明に。
枯れていた草花が緑の葉に蘇る。
ユリウスも護衛たちもその信じられない様子に驚き、周りをキョロキョロと確認した。
「ヒナ、つがいになろう」
色気のありすぎる吐息が首にかかる。
「……つがい? つがいって動物の夫婦?」
ピンと来ていなさそうなヒナにアレクサンドロは別の言葉で言い直す。
「結婚しよう」
チュッチュという音と、アリエナイ言葉のダブル攻撃に魂が抜けそうだ。
絶対おかしい。
アリエナイ。
結婚?
結婚って私の知っている結婚と同じ?
ちょっと待って?
付き合ってもいない。
いきなり結婚?
狼族はそういう感じ?
「ム……ムリ、わかんない、ムリ、アリエナイ、イケメンがおかしい、絶対おかしい」
「ヒナ?」
何かを呟くヒナの顔をアレクサンドロが覗き込む。
グレーの綺麗な目が急にヒナの真正面に。
「も、もうムリー!」
ヒナから溢れた膨大な魔力は、アレクサンドロの身体を通り抜け、ユリウスの身体も通過し、多くの人々に異変を感じさせることになった。
コメント
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第18話読み終えたよー!!😭💕 もうアレク様がね、街中でいきなり「好きだよ」ってキスしてプロポーズとか、心臓止まるかと思ったわ!!!イケメンの行動がおかしいってヒナの叫びに全力で共感するんだけど!?笑 蝶のバレッタのプレゼントの仕方もスマートすぎてズルい…そして公園のシーン、周りの自然が魔力で変化しちゃう演出がロマンチックで最高だったよ✨ 水曜のもふもふ係とか、これからどうなるの続きが気になりすぎる〜!!和泉さん、今回もありがとうございます🌸
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