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激高する晃一は、まるで駄々をこねる五歳児だ。謝りながらも、そこに心からの謝罪はなく、本心では歪みに歪んだ自己愛が作用し続け、完全に吞まれている。
私以上に自身を優先する価値観があるから、こんな状況でも感情だけで話してしまう。もう二度とあんな真似しないと言いながらも、こうして罵声を浴びせ、暴力的になってしまう。
もう私は、この人を愛していないのだということがよく分かった。今の晃一を見て浮かぶ言葉は、滑稽や辟易などの好きとは大きく離れた、無関心に近いものばかり。年が離れていたとして、まだ冬馬君のような青年のほうが人として見れる。
「何か言ってみろよ!」
「別れましょうか」
晃一の怒りは水風呂に入る猫のようにして、一瞬で冷めた。彼は今まで夢でも見ていたのだろうか、もしや風邪か熱があったのだろうか。あの濡れっぷりだ、全然あり得る。どのような思考回路をもってすれば、いつまでも婚姻関係を持っていられると思えてしまうのか。私にはさっぱりだから、やはりそうだったのだろう。
この現実をうそではないか、夢ではないかと。そう何度も何度も私へ問う。そのたびに私は「離婚しましょう」と口にする。
徒歩でユーラシア大陸を横断できるくらいにそれが続いたので、さすがに飽き、もう率直に離婚届を渡した。それでようやく熱が下がり、平熱すら突き抜け冷えたようで、痙攣した呼吸を見せてくれた。
「な、んで……」
「暴力的で浮気までしてる人間と、どううまくやれと?」
晃一は「浮気は……」と言い訳を語ろうとしたが、それが無意味なことと理解できたらしく、すぐ黙り込んだ。