だいぶ前に書いていた作品です。
良ければ見てもらえると嬉しいです。
目を覚ました瞬間、胸の奥に違和感が広がった。
寝室はいつも通りだ。
机の上には昨日の夜に開けたままの参考書と、半分残ったペットボトルの水。
床には脱ぎ散らかした靴下。窓のカーテンからは、白っぽい朝の光が差し込んでいた。
だが、音がない。
普段なら、隣の家からは小学生の子どもが支度をするドタバタ音や、母親の呼ぶ声が聞こえてくる。
遠くの国道を走るトラックのエンジン音、鳥のさえずり、テレビのニュース。
それらがすべて消えていた。
まるで耳が塞がれたかのように。
静寂の中で、自分の心臓の音だけがやけに大きく響いていた。
ドクン、ドクン、と胸の内側から突き上げる音。
呼吸を整えようとしても、逆に乱れていく。
僕は布団を蹴飛ばし、玄関のドアを開け放った。
朝日を浴びた住宅街が広がる。
アスファルトは朝露を吸い込み、淡い光を反射している。
風が植え込みの葉を揺らし、青空には雲ひとつない。
しかも人影が、ない。
家の前の道は通学路だ。
普段なら小学生の集団が賑やかに通るはずの時間帯。
けれど、ランドセルの色も、声も、足音も存在しない。
気味の悪い沈黙に背筋が冷たくなり、僕は無意識にポケットからスマートフォンを取り出した。
画面には無情な二文字――「圏外」。
通話アプリを立ち上げて母の番号を押す。
だが画面は一瞬待機の後、ぷつりと暗転したように応答しなかった。
発信音すら鳴らない。
「……嘘だろ」
かすれた声が自分の喉から漏れる。
だがそれすらも、空気に吸い込まれて消えていった。