※流血表現あり
※嘔吐表現あり
※見てて精神的に痛い
※色々注意
「い゙ッ…!」
太宰の鋭い歯が、皮膚を割いて肉を抉(エグ)った。
噛まれた部分から溢れ出た鮮血が、腕を伝って着物に染まる。ボタボタと布団の上に落ち、シーツも赤い血の色に変わった。
鉄錆のような臭いが鼻腔を漂う。
痛い…ッ、!
逃げたくても逃げられなかった。
俺を逃さなくするかのように、太宰が俺の躰の上に少し体重をかけているからだ。
「ヂュ…、ッ………ゴクゴクッ……ング………ゴクン…」
まるで一滴も残したくないと云う意を表すかのように、太宰は溢れ出た俺の血を飲む。
太宰の喉仏が上下に揺れた。
「ゔ……ぁ゙……ッ、ぅ゙…」
ズキズキと起こる痛みの強さによって、左腕の感覚がなくなったように感じる。
「フーッ…フーッ…」
痛みを堪えるように強く歯を噛み締め、瞼を固く閉じながら布団のシーツを握りしめた。
微かに目を開く。
痛かった。
怖かった。
何となく、太宰の顔を見るのが駄目だと思った。
横に視線を移す。シーツを握りしめる俺の右手は、酷く震えていた。
「……ッゔ!」
刹那、再び左腕に鋭い痛みが襲いかかる。視界がぼやけていた。
呼吸が浅くなる。
「あぁ……」
快楽と高揚が纏わり付いたような声をこぼして、太宰は俺の頬に優しく触れた。
太宰と目が合う。
「痛いよね、可哀想に……目に涙まで溜まらせて…」
他人事のように云って、太宰は俺の涙を拭った。
恐怖に躰がびくりと動く。
「私と違ってね、“彼”は死んだ人間しか食べなかったんだ」
…また…彼……?
少し瞼を開けて太宰に視線を移した。
「でも私────不味いのはあまり好きじゃあないから……」
そう云いながら、太宰は俺の左手の指先を噛んだ。
「……っ゙!」
ツプ、と丸みを帯びて、月光を反射する血の球が浮き上がる。
「我慢してね?」
太宰の尖った歯がコツン、と何かに当たる。初めて味わう感覚だった。
痛みが襲いかかり、恐怖と云う感情に躰を縛られる。
ずっと、それの繰り返し。
それ以外に、何も起きないのだ。
鋭い光を宿した太宰の眼が、俺を射抜く。
ゆっくりと、そして何処か丁寧に太宰は俺に触れていた。然しソレが長く苦しい痛みに繋がる。
「────中也はさ、優しいよね」
ふと、太宰は俺の指先から口を離して云った。
「え……」
口先から声をこぼした振動で、溜まっていた涙が頬に伝う。
ソレを見て、太宰は目を細めた。
「君は優しいから、私を人間として接している」
何で……急…に、?
左腕の痛みは一向に収まらない。
「私もね、自分で云うのもアレだけど、周りと少し違うと思っていたのだよ」
俺の頬に触れて、太宰は顔を上げさせる。
「でも違ったようだ。私は妖怪、妖魔、怪物、化け物……」
そう呟いた後、太宰は甘い吐息を響かせて、抑揚のある声で云った。
「何故なら────君の其の恐怖に埋め尽くされた顔を、もっと見たいと思ってしまっているのだから」
心臓の鼓動が鈍い音を出す。
喉から変な声が出た。
少し裏返ったような、そんな声。
それらは全て、太宰から感じた恐怖故だった。
刹那、太宰が俺の肩を噛んだ。
「い゙…ッ!」
俺は布団のシーツを掴んでいた右手を動かして、太宰の着物を握りしめる。
「だ…ざ、ッ゙………や゙め゙…てッ……い゙だ、ッい゙」
ポロポロと大粒の涙が溢れ出た。
声が掠れている。然し何処か震えていた。
「____…」
太宰は俺の言葉に返事をしない。
其の瞬間、皮膚に刺さっていた太宰の鋭い歯が、奥深くに刺し込まれ肉を抉った。
「ゔッ゙!!」
躰が反射的に縮こまろうとする。その反動で、俺の躰は不自然にびくりと動いた。
甘い吐息が耳に響く。太宰だった。
「中也…」
太宰は躰を起こして俺の名を呼んだ。
優しく俺の頬に触れる。
目が合った。
「………あぁ…」
再び、太宰は高揚と快楽が交じったような声をこぼす。
「其の顔だよ……」
薄い笑みで、目を細めながら太宰は云った。
「其の顔を────もっと私に見せておくれ」
吐き出そうとした呼気が戻って喉に一瞬詰まり、身の毛がよだつような感覚に襲われる。
「っ……!」
刹那、俺の首後ろの方に太宰は手を回して、うなじに触れて上に押し上げた。
喉元が顕になる。
ソレを見た太宰は薄っすらと笑みを浮かべた。口元には俺の血に染まった鋭い歯が見える。
太宰は俺の喉笛に噛み付こうと歯を近付けた。
その瞬間に来るのは、死───。
肌を通して感じる。
怖い。
太宰の為なら死んでも佳いって思ってた。
なのに──────恐怖が死を拒んだ。
──────ドンッ!!
「っ!」
唐突な衝撃に、太宰は床に腰を付く。
刹那にして沈黙が室内を覆い尽くした。
「は……はっ……はぁ………は………はっ………」
俺の浅くなった息のみが響き渡る。
両腕は前に突き出したままで、酷く震えていた。
見開いた眼が微かに揺れる。
死を拒み────俺は太宰を突き飛ばしたのだ。
何で……俺、ッ…。
「ふぅん…」
太宰の冷ややかな声が耳に響く。
俺は恐怖にびくりと躰が反応して動いた。
「…ぁ………」
声がもれる。
恐る恐る太宰と目を合わせた。
──────ドクン
鈍い心臓の鼓動の音が、全身を駆け巡る。
警報だった。
恐怖だった。
「反抗する贄はスキじゃあないな…」
低い声が室内に響き渡る。
心臓に、氷の塊を押し付けられているような感覚。
冷や汗が頬に流れた。
「……ッ、あ……………」
口先から声をこぼす。
恐怖に躰が震えた。全身の痛みを忘れていた。
只、目の前に居る太宰に─────「中也」
太宰が俺の名を呼ぶ。
俺は太宰に視線を移した。
然し何を見たのか、何を感じたのか、今になっても思い出せない。ナニかに依って記憶が消されたかのようで。
只々、はっきりと判って、くっきりと覚えているのは──────自然と躰が動いた事だ。
──────俺は逃げた。
***
「中也」
私が中也の名を呼んだ瞬間、中也は恐怖に躰を揺らし、酷く震えた。
其の透明な瞳が、私を映す。見た事のない表情だった。
何の感情も宿していないような表情。
ソレに『表情』と云う言葉を当て嵌めて佳いのか不安になる。
抑々『表情』と云うのは、自分の気持ちが顔付きなどに表れる事を指す。
だが私の今のカオは如何だ?
何の感情を指している?
所謂「死相」と云うものにですら、ソレなりの表情等があるだろうに、何故か私のカオには、一片の感情も宿っていなかった。
表情を動かす時に感じる感覚。
誰だって感じた事があるだろう其の感覚は、其の時感じられなかった。
だからこそ、私は今如何云うカオをしているのか、判らなかった。
そして其のカオが、中也に強い恐怖を植え付けた。
「っ…!」
小さく声をこぼして────中也はその場から逃げ出した。
「………………………これで、良かったんだ…」
私は小さく呟く。
室内は沈黙に包まれ、周りには人だけではなく、私以外の何者の気配も感じなかった。
「……っ…………」
中也はきっと、何時か………私の所為で自らの命を殺すだろう。
そんな事は赦されない。
だから私は彼を────私自身の手で切り離した。
突き離した。
“もう此処には戻って来れないような恐怖を植え付けた”事で。
これで、良かったんだ……
だって…………
私は……ずっと…ッ
──────独りぼっちでいないと駄目だから。
瞳の奥から、何かが込み上げてくる。
涙ぐみそうになり、堪えるように私は唇を噛んだ。
昔だって、本当なら独りじゃないといけなかった。
だのに、“君”が傍にいてくれたから。
“君”は特別なのかなって思って。
“君”なら私の傍にずっといてくれるって思い込んで。
結局………私を残して逝ってしまったけれど……。
中也、君もね…………“彼”と似てるのかなって……思ってしまっていた。
“彼”と同じように傍に居てくれる。
だから“彼”みたいに勝手に居なくならないように、今度はもう離れない。
ずっと傍に居ようって思ってた。
人間と妖怪の寿命は違うって判っていた筈なのに………。
その笑顔が……何時も私を狂わせる………。
ご免ね、中也。
本当なら……私も君とずっと一緒に居たかった。
短くても佳い………白妙のような記憶をつくり続けたかった。
でも、此れで佳いんだ……。
私の所為で君が死ぬのならば、私は君を突き放す。
此れからは、ずぅっと独りで居よう。そうすれば────もう何も失わない。
視線を移す。
布団のシーツに、中也の赤い血が鮮明に染まっていた。
どくん
鈍い鼓動が、全身に響き渡る。
先刻の記憶が、鉄錆のような臭いと共に、鮮明に脳に溢れ出た。
刹那、烈しい吐き気が喉元まで込み上がってくる。
「ヴ──ォエッ!…ォ゙エ゙ッ……ゲホッ!…ッエ゙……オ゙ェ…」
口の中から血を吐き出した。
労咳が完治してない訳ではない、先程飲んだ中也の血を吐き出したのである。
──────ビチャ…ッ……ビチャビチャ……ビチャッ!
『あぁ………其の顔だよ…』
『其の顔を───もっと私に見せておくれ』
中也の血を飲んでいる間、私が中也に発した言葉は全て事実だ。
私は妖(アヤカシ)なのだから。
化け物なのだから。
それでも────中也を傷付けてしまった事、血を飲んでしまった事、後悔と罪悪感に、私は吐き気を催した。
「ッ…ォエ゙……っ……はぁ…は───ヴッ、ェ゙………オ゙ェ……ヴエ゙ッ」
息を整えているうちに、また次の吐き気が容赦なく喉元まで込み上げてくる。
そして吐いた。
ソレを何度も繰り返す。
吐き出したものは赤い血に覆われていて、やがて真っ白な液が溢れ出た。
胃液。
口の中が酸っぱく感じる。
「……っ、は……はぁ……はっ……ッ゙…ゲホッ!」
判っていた筈だ。
欲しいモノなんて………手に入った瞬間に失う事が約束される時限装置……。
もう……佳いんだ…。
たとえ私が知らない場所でも、知らない誰かとでも佳い……。
只────中也が幸せに笑って生きて居てくれれば、私はそれで佳い………。
太宰とずっと一緒に居れますように。
「っ…!」
五年前、中也が短冊に書いた願い事を思い出す。
私は眉をひそめた。
本当に…………変な願い事…。
だのに────。
『────太宰っ…!』
もう一度君に、名前を呼んでほしい…
その笑顔を私に向けてほしい…
傍に居てほしい……ッ…
「───片付けよ……」
ポツリと呟いて、私は汚れた布団に手を伸ばした。
꒱―−−――−―−――−−−――−―꒱
皆さん如何でしたか?
今回……うん、なんか……グロ(?)かったね…
いやグロかったって云うか……流血表現…?が凄かった…。
自分でも書いてて、コレ大丈夫かなって…(笑)
あと何か、私のスマホの機種が古い所為か、テラーのアプリが使えなくなっちゃったんだよね……(コレは笑い事じゃない)
それで取り敢えず、Chromeの方でログインしてやってるんだけど……なんか、アレだね………
判る人には判るかもしれないんだけどさ…
ログインの方ってイイネとかコメントできないんだよ…!?
あと文章を大きくしたり、文字を太く(?)できない!
マジで使いづらいッッ!!
今まで読みやすいように使ってた機能が、ログインだと全部使えなくなってるからさぁ……
読みにくいと思う…。
コメントもできないから返信もできないんだよ……ホントご免ね…(´;ω;`)
通知は着てるのに返せない────地獄かッ!
受験合格したら新しいの買ってもらえると思うから……頑張るね……。
と云う訳で、報告はコレだけかな…?
バイバイ〜!
コメント
7件
そんなスイ星さんにオススメの小説があります✨ルール・ブルーって言う小説なんですけど主人公二人がめっちゃ尊いですッ(◜¬◝ )
受験、頑張ってね!
泣くよこれは泣く...太宰さんも中也も優しすぎるんだよぉ...2人が幸せになれる事を願ってます... 受験頑張ってね!応援してるっ!