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「おはよう!」「……」
今日も渓(ケイ)は無視だ、何故かここ数週間避けられている気がする。
「ねぇ〜、いい加減無視しないでよぉ」
私は根気強く話しかけ続けるが、朝のチャイムが鳴り、仕方なく自分の席につく。
良い花の匂いがする。
「うっ、眩し 」
チカっと目に光がさす。
「…私何かしちゃったのかなぁ」
思い返してみるが、特に何かあった訳では無い。と思いたい。最後に話したあの日だって普通に下校しただけだった気がする。
「渓は好きな人居ないの?私たちもう高校生なのに!恋愛の一つや二つした事ないなんて!!」
「えっ、いや、俺は別に…居ないけど」
背の小さな渓は視線を逸らす
「歯切れ悪〜!絶対居るじゃん!もしかして私だったり〜」
「え゛っ、恋香(レンカ)流石に冗談が過ぎるよ!」
……もしかしてこの会話か?まさか本当に好きな人が居る?!渓に聞くにしても無視されっぱなしだ。どうしようか、そんな事を考えてたらもう昼飯時になってしまった。
「恋香!ご飯食べよう!」
「あっ、いいよ!」
いつも仲良くしてくれる親友だ。私は横目で渓を見るが、どうやらスマホゲームに夢中らしい。
「見て見てタコさんウインナー!今日は上手く出来たの」
「いいじゃん!上達してるね」
「…恋香はいつも渓くんが作ってくれたタコさんウインナー自慢してたよね」
「そりゃそうだよ!渓料理上手なんだから、自慢したくなる!」
「この前まで元気だったのに」
渓が口を聞かなくなる前はずっと渓が私の弁当を作ってくれていた。最近はいちごパンばっかり食べるしかない。
「恋香がバレー部入ってくれてたら良かったのにな、恋香が居たら百人力だったのに」
「部活動はめんどくさいんだよね〜、何より渓と一緒に帰りたいし」
そう言ったものの最近はめっきり一緒に帰ってくれない。私が誘う前にそそくさと渓が先に帰ってしまう。同じ帰り道のはずなのに走ってみても渓は見当たらない。
「恋香おっちょこちょいだったけど、話上手だし友達になれて本当に嬉しかったんだよ」
「何を今更〜、照れるなぁ」
「本当に…」
いちごパンを食べ終わり、渓の方を見る。まだゲームに夢中らしい。親友は気づけば教室から出ていっていた。私は渓に近寄ってみる。
「ねぇ渓」
「…」
やっぱり無視。ここまで来ると悲しさより怒りが出てきた。私は下校時間まで渓を無視する事にした。
「よし、直ぐに後を追って…」
HRが終わった直後、渓の方を見ると渓は教室を出る直前だった。私はすぐさま追いかけたが、渓は学校の階段や廊下を巧みに歩き、私をまこうとしてる。
「渓のやつ、絶対わざと避けてるじゃん!!」
私は必死に追いつこうとしたが、疲れて階段に座ることにした。空がもう赤い。
「はぁ…しんど!1階降りたと思ったら2階に居るし、階段降りたと思ったら廊下に居るし…幽霊かよ!」
独り言を言いながらガラスの向こうにある中庭を見る。そこには金魚が呑気に泳ぐ大きく深い噴水の縁に渓が座っていた。右手を顔につけて頬杖をしている。
「このっ、クソ野郎!」
私は中庭に足を踏み入れる。出入口は1つしかない。今度こそ一緒に帰れる!
「けー!このサイテー野郎!」
渓は驚いた表情でこちらを見る。手には何かを握っているようだ。
「無視しないでよ!なんで私を置いてくの!いつも一緒に居たのに!!あの日好きな人いるかって茶化したから?!」
私はズンズンと渓の方に歩み寄る。渓は立ち上がり、私を見ている。私を認識している。
「…恋香?」
「やっと声出したなこの野郎!なんで無視するの!」
渓の肩を掴み体を揺らす。渓は何かモゴモゴと言っている
「ハッキリ喋んなさいよ!」
体勢を崩した渓が手に持っていた物を噴水に落とす。ゆっくりと底に沈むそれを見た。私が渓にあげたピアスだった。
「あっ!何するんだよバカ恋香!」
渓は迷わず肩までの深さがある噴水に足を入れ、校則違反のピアスを探す。大人になろう!って無理やり渓の右耳に開けたピアスを。
「違う違う!なんで無視するのかって聞いてんの!ピアスなんてほっといてよ!」
「うるさい!」
「そんなものクソ金魚に食わせとけ!」
無理やり渓を噴水から出そうと引っ張るが、体勢を崩して私も中に落ちてしまった。
「あぁもう、最悪!渓のせいなんだから!」
渓と目が合った。さっきまでまともに私を見てなかった渓と。数週間まともに私を見てくれなかった渓と。
「なんで無視するの…」
私より小柄な渓は、不安そうにこちらを見る。訳が分からなかった。
「れんか、恋香ごめん、あんなつもりじゃなかった…あんなつもりじゃ」
「何言ってんのかわかんないし、なんで渓が泣いてんの」
渓は細い声で少しずつ話した。あの日私が渓を茶化した後、私は調子に乗りもっと茶化した。渓は耐えられずに私の肩を軽く押した。長い階段から落ちた私は、鞄に入れてたいちごパンと一緒に。
「…ふっ」
「なんで笑ってられるんだよ…」
「いちごパンと一緒に死ぬなんて笑うしかないでしょ!私死ぬならけーとが良かったのに〜!それに」
私は真っ直ぐ渓の顔を見た、今にも死にそうって顔。
「そんなしょうもない事で落ち込んでんなよ!」
「しょ、しょうもなくない!死んでんだぞ!俺が、殺したんだぞ」
渓はグズグズの目を見開き私の頬に両手を添えた。
「…本当にどうしようも無い奴だね、今も、子供の時も」
「はぁ?…まぁ、気にしないでよね、不慮の事故なんだし!」
渓は目を擦り、ごめん、と言った。
「はぁ、ほらここから出るよ!このままだと風邪ひく」
私より一回り小さな渓の手をひく。その手は酷く冷たく、濡れていなかった。
「僕も恋香好きだよ」
「は?」
「恋香があの時は言えなかったけど、… こんなはずじゃなかった。恋香が…生きてる時に……言いたかった」
「まじで遅すぎるでしょ!でも、けーらしい」
渓はまた目を滲ませる。大人しくて私だけを見てくれた渓。私は幼稚園児の時から好きなの、気付いてたかな。私は噴水の中を覗く
「はぁ、クソ金魚と死ねて満足かよ!」
「その金魚嫌いどうにかならないの…?」
「けーの家で飼ってる金魚が死んだらどうにかなるかもね!」
薄暮を写した水面の内側。沈む渓の水死体を横目に、私達は馬鹿みたいな会話を永遠と楽しんだ。