テラーノベル
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梨那の両親は不仲で、毎日ケンカが絶えなかった。
母は父を口汚く罵り、父は母に暴力を振るう。
それなら離婚すればいいと思うが、なぜかしない。
結局、お互い「依存し合って」暮らしている。
そんな両親が、梨那は大嫌いだった。
梨那の顔は父親に似ている。だから美人ではない。
だが体型は、母親そっくりのダイナマイトボディだ。
中学生の頃から胸が大きくて目立っていた。
父親似の顔と、母親似の身体。どちらも大嫌いだ。
梨那には大きな 劣等感《コンプレックス》だった。
梨那は高校卒業後、食品会社の工場に就職した。
奨学金を受けてまで進学する気は無かった。
とにかく家を出たい。
給料を貰ったらアパートを借りられる。
職種は何でもよかった。
両親から離れて、工場で真面目に働いた。
20歳になったとき、大卒で入社した新入社員に恋をした。
でも、父親似のブスには、告白する勇気がなかった。
彼は、経理課の美人と付き合い始めた。
あきらめるしかない。
恋なんてできないんだ、と思った。
恋愛をあきらめて23歳になった。
就職して5年。高卒の安月給だが、毎月しっかり貯金をした。
金で喧嘩する両親を見ていたからだ。
ただオシャレや贅沢はできない。
同世代の女子は、着飾って美味しいものを食べている。
別世界、と思いながら街を歩いていたら、桜志郎に声を掛けられた。
「こんにちは!」
明るい桜志郎は22歳。ホストになって1年目だ。
(すごいイケメン。まるでアイドルみたい・・・・・・)
桜志郎は、梨那の指先を見た。
「わぁ、可愛いネイル」
職場にネイリストを目指して勉強中の同僚がいる。
彼女が「練習させて」と塗ったネイルだ。
「そ、そうかな?」
「うん。すごく似合ってる」
(あ、褒められた・・・・・・)
ホストは、とにかく女を褒める。
顔、髪、服、鞄、靴、メイク・・・・・・。
褒める場所がないときは、女の〈声〉や〈名前〉を褒める。
人は人から褒められると「認められた」気持ちになる。
ホストは褒めまくって、客の劣等感を消すのが上手い。
その快感にハマると、女性客は抜け出せなくなる。
桜志郎は、自分はホストだと伝えた。
職業を隠して2回会うと「騙した」という女がいるからだ。
そして「また会いたいね」と言って、梨那の連絡先を訊ねた。
ホストが〈客引き〉をして店に連れていくと『迷惑防止条例違反』になるからだ。
追い掛けたり、引き止めたりも禁止だ。
でも梨那は、それを知らない。
「爽やかで、素敵な人」と思って、連絡先を交換した。
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