テラーノベル
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放課後。
校舎の窓から差し込むオレンジの光。
廊下に残る足音も、だいぶ減ってきた時間。
「柔太朗、今日も行くの?」
後ろから声をかけられる。
「うん、当番だし」
軽く笑って返す。
慣れてる。
このやり取りも、この役目も。
不登校の生徒に、毎日プリントを届ける。
それが自分の役目。
生徒会長みたいな立場だから、当然って思ってる。
「えらいね〜ほんと」
「別に普通だよ」
そう言いながら、鞄にプリントをしまう。
整えて、折れないようにして。
ちょっとだけ気を使う。
どうせ本人には会えないのに。
それでも、なんとなく。
校門を出る。
夕方の風が少しだけ冷たい。
サッカー部の掛け声が今日は聞こえない。
部活がない日。
少しだけ時間に余裕がある。
「……」
歩きながら、ふと思う。
(今日も、会えないんだろうな)
名前は知ってる。
顔は知らない。
話したこともない。
でも、毎日行ってる。
変な関係。
住宅街を抜けて、
少し古い通りに入る。
人通りも減る。
静か。
見えてくる。
あの家。
古びた外壁。
所々ひび割れてて、
そこに絡みつくように伸びてる蔦。
手入れされてない感じ。
少しだけ、空気が違う。
「……」
足が少しだけ止まる。
毎回、ちょっとだけ緊張する。
理由は分からない。
ただ、なんとなく。
ゆっくり近づく。
スライド式のドアの前に立つ。
インターホンはない。
いつも通り。
コンコン、と軽くノック。
「お便り届けに来ましたー」
少しだけ声を張る。
中から足音がする。
ギシ、って床が鳴る音。
(今日は誰だろ)
いつもは、お父さんか、おじさん。
短い会話だけして、
プリント渡して終わり。
ガラッ。
ドアが開く。
「……」
一瞬、時間が止まる。
初めて見る顔。
(……え)
高い。
目線が、思ったより上。
180くらいある。
細身なのに、ちゃんと存在感ある体。
ラフな服装。
少し乱れた髪。
でも。
顔。
整いすぎてる。
(なにこれ)
思考が追いつかない。
目が合う。
その瞬間、
心臓が、ドクンって強く鳴る。
「……何」
低い声。
少し不機嫌そう。
でも、
それすら似合ってる。
「……っ」
声が出ない。
(誰)
いや、分かってる。
(勇斗?)
でも、
想像と全然違う。
もっと地味で、
暗くて、
下向いてる人だと思ってた。
なのに。
こんな。
「……用事ないなら閉めるけど」
少しだけ眉をひそめる。
「っ、あ!」
やっと声が出る。
慌てて鞄を開ける。
手、少し震えてる。
プリントを掴む。
「お、お便り…!」
そのまま、
ぐいっと胸に押し付ける。
距離、一瞬で近くなる。
「……は?」
勇斗が少し驚いた顔をする。
(やばい近い)
顔、近い。
呼吸、感じる。
一気に体温上がる。
「じ、じゃあね!」
それだけ言って、
その場から離れる。
ほぼ逃げるみたいに。
足、速くなる。
(なに今)
心臓がうるさい。
(なにあれ)
息が少し荒くなる。
頭の中、
ぐちゃぐちゃ。
角を曲がって、
やっと立ち止まる。
「……はぁ」
大きく息を吐く。
手で顔を覆う。
熱い。
(絶対バレた)
変なやつだと思われた。
いや、それより。
「……」
思い出す。
あの顔。
あの目。
あの声。
(……無理)
胸がぎゅっとなる。
「……好きかも」
ぽつり。
言ってから、
自分で固まる。
「……は?」
(早くない?)
会ったの、
今が初めて。
なのに。
(いやでも)
思い返すだけで、
心臓がまた鳴る。
「……終わった」
完全に。
恋に落ちた音が、はっきり聞こえた気がした。
コメント
2件
続き見たいです!!
最高すぎます!!
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