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「はぁ~寒、やっぱ今年は一段と冷えるな……」
今年もこのイベントが世界にやってきた。年中休みの俺が唯一働かなきゃならないイベント……そう、クリスマスだ。世の中はリア充がどうだとか非リアへの嫌味だとか一緒に過ごそうだとかそんなことに注目してる人が多いが俺にとってはもはやどうでもいい。だいたい忙しすぎていちいちそんなことは気にしてられない。なんたって俺はサンタなのだ。まぁそうは言っても普通のサンタよりは忙しくないだろうけど。俺からのプレゼントはちょっと特殊だ。世の中のたいていの子供は親というサンタからプレゼントを貰うだろう。しかし、中には様々な理由からプレゼントが届かない子供がいる。そんな子たちに俺はプレゼントを配るのだ。
「まずは……叶の精霊(かなえのせいれい)からみんなの願いを聴かなきゃなっと、おーいいるかー?」
「はーい、ここでーす」
不服そうな声が後ろから聞こえる。
「お、いたいたwじゃあ早く願い聴かせてくれー」
「ったく……毎年そーだけどさもうちょっとこう、ありがとう!!とかさ、そういうのは無いわけ?」
「あーはいはい、ありがとねー」
このちょっと面倒くさいやつが叶の精霊だ。こいつが世界中の子供たちの文字にはない心からの願いを届けてくれる。こいつがいないと仕事ができないから一応感謝はしている。でも面倒くさい。
それから俺は叶の精霊から願いを聴き、今日、12/24まで色んな準備をしてきた。
「時刻は……22:30か……よし、ちょっと早いけど……出発だ!!メリークリスマス!!」
俺を乗せた金色のソリは白銀の粉を振りまきながら寒さで澄んだ空中を星空を背景に進んでいく。そんな星空を写し取ったかのような人工の光が地上には輝いている。いつもは星々をかき消してでも自らを主張する光もこの季節は赤、青、緑に姿を変え、その身に雪化粧を纏い、1つの大きなスノードームを創っている。そして俺は今からこのスノードームにささやかな飾り付けをする。プレゼントというささやかな飾り付けを。
「よし、着いたな!!」
俺が今回配るプレゼントは50数個ほどだ。割りと余裕はあるが、もたもたしてるとあっという間に夜明けになってしまうので早くしなければ。
「まずは……目一杯の温かいご飯か……」
基本的にお願いはこういうものが多い。境遇が境遇とはいえ心苦しいものだ。
「ご飯の出てくる魔法は……っと、これだな」
願いが売り物ではない場合は魔法を使ってプレゼントを出す。魔法で出したものは使ったりしない限りはその状態を維持し続けるという超便利なものだ。が、個人的な使用と目的以外の使用は厳禁。また、例え一時的でも魔法を授けるのも絶対にやってはいけない。まぁ当たり前といえば当たり前だが。
「一日だけど目一杯楽しんでくれよ……」
そう言って俺は一軒目を後にした。
その後5時間ほど掛け、俺はほぼ全てのプレゼントを配り終えた。
「よし、次で最後っと……今年は割と楽めなのが多くて助かったな」
去年は大きな家とか銃(用途は置いといて)とか渡すに渡せないものが多くてどうしようかと苦労したものだ。
「さてさて最後の家は……ん?」
着いた場所にはカーテンから明るい家庭の光が所々漏れているタワーマンションがそびえ立っていた。俺はあまりに珍しいこの出来事にしばらく動くことができなかった。別にそこにタワーマンションが建っていることは何ら不思議ではない。ただ、こんな金持ちしか住んでいないような都心の一等地にプレゼントを貰えない子供がいることに驚きを隠せなかった。
「てかこの子のオーダー手紙を見ろってなってんだけど……これどういうことだ?」
疑問を抱きつつも俺はその子のいる階層まで飛び窓からその子の姿をそっと覗いた。するとそこにはおそらく親からと思われるプレゼントが置いてあった。
(え?プレゼントあるじゃん……)
と思ったその時、机の上にあった一通の手紙と静かに花開いているユーフォルビア、そして、季節外れもいいところなタイムの花が目に止まった。魔法を使って手紙をこちらに手繰り寄せ内容を確認する。その瞬間、俺は確信したことが2つ。1つはこれが今までで一番大変なプレゼントだということ、そしてもう1つ、俺はこの子の願いを叶えてやることはできないってことだ。