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スタートヽ(*^ω^*)ノ
ベンチに並んで座るふたりの間に、そよそよと風が吹いた。
空は茜色から群青へと、じわじわと色を変え始めている。
キヨが腕時計をちらりと見て、小さく息を吐いた。
『……そろそろ、帰ろっか』
その声は穏やかで、でもどこか名残惜しさがにじんでいた。
「……うん」
レトルトはそう答えながらも、膝の上で手をぎゅっと握っている。
本当は、もっと一緒にいたかった。
でも、「まだ帰りたくない」なんて、言えるはずもなくて。
心の中で何度も繰り返して、でも言葉にはできず、ただキヨの隣を歩く。
日が暮れて、街灯がひとつ、またひとつと灯る。
並んで歩く距離が少し近くなって、腕と腕がふと触れるたび、心臓が跳ねた。
雑貨屋の前まで戻ってきたところで、キヨがふと立ち止まった。
『レトさん』
「……ん?」
レトルトが振り返ると、キヨがかばんの中をごそごそと探って、ひとつの袋を取り出した。
『これ、さっき……こっそり買ったんだ』
手渡されたのは、小さな紙袋。
開けると、中にはあの“カニのぬいぐるみ”が、ちょこんと顔を覗かせていた。
「……えっ……」
レトルトは、驚いて言葉を失う。
『レトさんが前に話してくれたやつ、これだよね? 俺、それずっと覚えてて。今日見つけた時、レトさんのことばっか考えてて……気づいたら買ってた笑』
キヨはちょっと照れたように笑って、でもその目はまっすぐで。
『……もらってくれる?』
レトルトは思わず、胸元でぎゅっとカニを抱きしめた。
「……嬉しい。ありがとう、キヨくん……」
唇が震えて、言葉が最後まで出なかった。
キヨは優しく微笑んで、そのままレトルトの頭をふわっと撫でる。
『また、会える?』
その問いに、レトルトは強く頷いた。
「……うん!絶対、また……!」
もう手を振るのも惜しいような気持ちで、でも2人は歩き出す。
それぞれの帰り道――
だけど、胸の奥に、あたたかい何かを抱えながら。
夜の空気は少し冷たかったけれど、
カニのぬいぐるみはずっと、レトルトの腕の中でぽかぽかと温かかった。
つづく