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ああ、やっと涼しい怨霊任務が叶ったと思ったのに、まさかの笑顔が原因で新伝承が生まれてしまうオチ……! 抱き合って「また来年」って言い合うシーンが本当に優しくて、じんわり来ました。冷却香のせいじゃない寒気が背筋を走る最後の一文も、温かくてちょっと笑える絶妙な余韻でした。今年もちゃんと生きて会えた、その重みが伝わってくるエピローグでした。Hp2さん、ここまで到達したのが本当に感慨深いです。お疲れさまでした。
エピローグ
一年後。
同じ日。同じ正午。同じ古井戸。
人界の気温は、四十度を超えていた。
降臨前、担当官が確認項目を読み上げる。
「体調は」
「良好」
「冷却香は」
「効いてる」
「補水は」
「済ませた」
「異常を感じた場合は」
「すぐ帰る」
「我慢は」
「しない」
「本当だな」
「何回確認するんだよ」
「お前が数十年黙ってたからだ」
確認を終えた担当官は記録板を置き、仙人の前へ立った。
わずかに乱れていた黒衣の襟を直し、合わせ目を首元まで整える。指先が喉元を掠めると、仙人の背筋が伸びた。
「……暑いのか?」
「暑さ対策は万全だ」
「じゃあ、なんで顔が赤いんだ」
仙人は襟元へ触れながら、担当官を見返した。
「毎年のことだ。分かってるだろ」
担当官の手が、襟に触れたまま止まる。
「……ああ。分かってる」
今度は仙人が先に目を逸らした。
「もう行くぞ」
「ああ。今年も成功させろ」
「当然だ」
正午。
仙人が、黒衣の怨霊として人界へ降臨する。
真夏の熱気の中、古井戸の周囲だけ、すうっと空気が冷えた。
「……寒い」
「なんだ、急に……」
古井戸の傍ら。
青白い顔。黒衣。乱れた髪。
冷気に揺れる衣の裾。
「……恨めしや……」
「出たあああああ!!」
人界人たちが逃げていく。
誰もいなくなったのを確かめ、仙人は黒衣の内側で小さく息を吐いた。
「…………涼しい」
冷却香は、頭から足元までよく効いていた。
喉も乾いていない。視界も揺れない。吐き気もしない。
「なんだよ。怨霊って、こんな快適な仕事だったのか」
誰かが近づいてくる。
仙人は即座に怨霊の顔へ戻った。
「……恨めしや……」
現れたのは、前年、倒れていく怨霊を最後まで見ていた男だった。
男は怯えながらも逃げず、持っていた水を差し出した。
「去年、飲ませてやれなかったから」
仙人は動かなかった。
「今年は、倒れるなよ」
震える手から、そっと水を受け取る。
気づけば仙人は、ほんの一瞬だけ笑みを返していた。
男の目が、大きく見開かれる。
「…………笑った」
まずい。
これでは怨霊らしくない。
仙人は慌てて顔を戻す。
「……恨めしや……!」
そして、何事もなかったように任務へ戻った。
◇
任務終了。
天界へ帰還すると、担当官が待っていた。
記録板を握り締めたまま、座りもせずに帰還口を見つめている。仙人の姿を認めた瞬間、その張り詰めていた顔がわずかに緩んだ。
黒衣には、まだ冷気がまとわりついている。
けれど足取りは確かで、青白い顔にも苦しげな様子はない。
仙人は担当官を見て、晴れやかに笑った。
「任務成功だ」
その瞬間、担当官が駆け寄った。
何かを言うより先に、仙人の身体を強く抱き締める。
「おい……」
驚いた仙人の腕も、やがて担当官の背へ回った。
「また来年も、一緒だからな」
耳元へ落ちた声に、仙人は小さく笑う。
「ああ。また来年」
冷却香で涼しく保たれていた身体が、抱き締める男の体温でゆっくりと温まっていく。
真夏の怨霊任務も、悪くない。
今年もまた、二人の夏は無事に終わった。
――はずだった。
「――訂正します」
灯台調整員の声が響いた。
二人が、抱き合ったまま顔を上げる。
「任務成功ではありません」
「なんでだ」
「人界で、《水を差し出すと怨霊が微笑みかける》という新たな伝承が生まれました」
仙人の顔が引きつった。
「何っ!?」
「昨年の事故以来、あの男は怨霊を大変心配していたようです。先ほどの目撃談を、すでに周囲へ話しています」
担当官が仙人の肩を掴んだ。
「お前、笑ったのか」
「水を持ってきてくれたんだぞ! 少しくらい笑うだろ!」
「怨霊が人界人へ愛想を振りまくな!」
「ついだ!」
「現在、関連する世界線が増加しています」
「なにいいいいい!?」
二人の背筋に、ぞっと寒気が走った。
今度は、冷却香のせいではなかった。
――終。
#多聞くん今どっち!?
低気圧
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