テラーノベル
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side:読者
ゾーン1は”白く”なっていた。
目が痛くなるほどにピンク色だった地面は、漂白剤にかけられてしまった服のようになってしまっている。
そして、虚無に居る時の様に人間が意味不明な言語で、意味不明な言葉を囁くのだけが聞こえた。時折、遠くの方で誰かが戸を殴るような音や、叫び声。誰かを呼ぶような声も、聞こえる。
最初の線路に、バッターの移動を支えてくれた電車は無く、空っぽの線路だけが空虚に在った。
だが、電車がないからと言って先に進めないわけではない。
線路の上を行き、次の駅――ダミアンへ向かう。
ダミアンには、駅名が書かれた看板がなかった。
看板は、戦後の教科書の様に黒く塗りつぶされ、元の文字が読めなくなっている。
少し進むと、バッターに煙鉱山の亡霊討伐をお願いしたエルセンがいた場所にたどり着いた。
近くにある山小屋にも、坑道周辺にも。エルセンの姿は見当たらない。
アドオンアルファがいた小さい坑道は、大地が崩れており入れなくなっている。
メインの坑道に入ると、休憩所にもやはりエルセンの姿はなかった。
休憩所を抜けると、バッターが亡霊たちに囲まれたあの空間が姿を現した。
しかし、そこもやはりもぬけの殻だった。
エルセンどころか、亡霊の気配すら少しも感じない。
だが、何もいないという考えは少し間違えていると言える。
眼鏡をかけ、全身に拘束具を施し、なおも真顔で動いている奇妙なモノがいた。
その悪魔じみた人そっくりの霊魂の名は、セクレタリー。
セクレタリーだけが、何もなくなったこのゾーンにいた。
そのうち、梯子が見えてきた。エルセンたちの宿舎があったペンテルへ行くための梯子だ。
梯子の先では、エルセンたちが取り出したメタルがそこら中に散乱していて、道をふさいでいた。道の向こうにも宿舎の方にも、エルセンの姿は見えない。
メタルをどかして、次の場所へ向かう。
宿舎は、入り口がメタルで塞がれて入れなくなっていた。
宿舎の反対側にある休憩室は、メタルで塞がれていたが、どかして入ることができた。
その中に、エルセンの姿はやっぱりない。
休憩室から直通の牧場に入ってみるが、そこに居た数頭の牛たちも消えていた。
そのままペンテルの駅の方まで行ってみるが、看板はやはり黒塗りにされており、読めなかった。
ゾーン1の駅は全て直通の為、そのまま次の駅まで向かおうとしたが、土砂崩れによって線路を辿ることはできなくなっていた。
煙鉱山まで戻り、灯が消されていたあの通路まで戻ってくる。
ここを進めば、郵便局のあるビルの地下…すなわち、ザッカリーと初めて出くわした場所に行けるはずだ。
しかし、灯は点いていた。
バッターが通った後にエルセンが直したのか、はたまたセクレタリーか。それとも、また別の存在か。
誰の仕業かは分からなかったが、進行するのには有利だった。
ザッカリーと初めて出会った場所に行くと、そこにはザッカリーの姿があった。
「よーう。読者の皆さんよ。元気かい? …つーか、なんでここにいんだ? ここの浄化は終わったろ?」
ザッカリーは笑いながら言った。
「…え? 俺? 知らないね。だって俺、本当はここにいないからな。小説上のあれこれで、作者様が勝手に俺をここに配置しやがったんだよ。ほんっと。悪趣味なことするぜ」
ザッカリーは、真っ白になった壁や天井を見回してから言う。
「…なあ。読者さんよ。あいつの旅に着いてって、楽しいか?」
ザッカリーは、ただただこちらを見通しながら言った。
「このセリフはさ。作者が物語上、都合がいいから付け足すセリフとシーンだがよ。いっこ言わしてくれ」
ザッカリーは、深く息を吐いた。
「楽しいかい? ここにいたはずの命、ここにあったはずの物、存在できたはずの世界…ぜーんぶ壊しちまうのって」
こきりと首を鳴らしながら、ザッカリーは地面に座り込んだ。
「俺はアンタらが背負ってる大義さ、めっちゃ分かる! ってわけじゃねえけどよ。他人の物をぜーんぶ奪ってまで成す大義に、意味ってあるのかねえ」
胡坐をかきながら、ザッカリーはおどけたように言った。
だが、彼のお面の奥に宿る目は、少しもおどけていないようだった。
「ああーあ。何も言わなくていいぜ。所詮俺らは、この作品でしか生きられない偶像だからな。実在してるアンタらに、俺らを殺さないで! なんて訴えんのは野暮だよな」
ザッカリーは少しだけ笑いながら立ち上がると、静かに画面の奥を見据えた。
「だからさ。言っとくぜ。選択は大事だ。読者」
ザッカリーはこちらを見つめている。
「俺の言った、選択。ちゃーんと覚えとけよ。いつか、絶対アンタのためになる。約束するよ」
ザッカリーは言い終えると、笑った。
「ま、今の俺は作者に乗っ取られてるみたいなもんだから、多分本編に戻ったら俺の記憶はなくなってると思うぜ。もちろん、ここで過ごした記憶だけな」
ザッカリーは消えた。
郵便局へ向かうエレベーターがある部屋には、やっぱりエルセンはいない。
エレベーターに乗って地上階へ向かう。
地上階にも、エルセンはやっぱりいない。セクレタリーが数人いるだけだ。
デーダンのオフィスがあった、10258階に行ってみたが、オフィスに行くまでの階層にもオフィスにも、エルセンはいなかった。
あったのは、段ボールと、長机。エレベーターに、デーダンのオフィス。それからセクレタリーだった。
地上階から外に出ると、駅があった。
看板はやはり黒塗りだが、旅の途中で駅名は記憶している。シャチハタだ。
そこにもやはり電車は無かったが、線路があった。
線路の上を歩いていくと、そのうちアルマ――デーダンの本宅がある駅へとたどり着いた。
そして、電車はそこにあった。
バッターが最後にやって来たのはアルマだから、ここに置きっぱなしにされているのは、当たり前とも言えた。
アルマに入ると、ポスターのなぞ解きをしたあの部屋があった。
通り抜けると、アルマの肉の泉について説明してくれたエルセンを殺した場所まで辿り着いた。地面には、そのエルセンが着ていたのであろう白い上着が落ちている。
彼は、浄化が終わる前に死んでしまったが、彼が居たという痕跡は残っていた。
その先には、デーダンの本宅へとつながっている部屋があった。
しかし、あそこは音を頼りに進む場所だ。しかも、音の発信源は、デーダンのラジオだ。そのラジオは、確か戦闘中に壊してしまったはず。
本宅へは向かえないので、ペダロに乗り込んだ。
向かうのは、ラジオの音を辿る通路へ行く道を塞いでいたブロック達を解除するあの場所だ。説明文が長くて申し訳ない。
ペダロを漕いでそこまで向かうと、電卓の様に入力するブロックが浮いていた池に、変化が起きていた。
電卓のような入力用ブロックは消え、その代わりに泉の向こう側に陸地と、入り口が出来上がっていたのだ。
陸地までペダロを漕ぎ、入り口に入ると、中には宝箱が一つだけあった。
開けると、中にはグランド・フィナーレという、プラスチックを思わせる奇妙な物体があった。
プラスチックといえば、この世界に存在する4つのエレメントのうちの一つだ。
ご苦労だった。読者の皆々様方。
これにて、バッターに合流する。
鴨之助
259
#動物
星乃.
41
上野文
10,264
コメント
1件
わあ……読み終えた直後、しばらく動けませんでした。ゾーン1が「白く」なって、かつてそこにあった命も物もすべて消えてしまった光景、すごく鮮明に脳裏に焼きついています。特にザッカリーの「選択は大事だ」という言葉が重く響きました。彼が自分を「作者に乗っ取られた偶像」と自覚しながら、それでも読者に語りかけてくるメタ構造……世界の成り立ちそのものを揺さぶられて、設定好きとしてはたまらない読後感です。エルセンを探す孤独な歩みも、グランド・フィナーレの発見も、すべてが「これから何かが始まる」予感に満ちていて。次が待ち遠しいです。