「おや、表方が賑やかだ。守満《もりみつ》様が、お戻りのようですよ」
守満が務めから戻って来たということは、追って、琵琶法師も、やって来るということ。
「急ぐのでしょ!何を企んでいるのです!」
手を借りたいと言う割に、ぞんざいな態度を取る晴康《はるやす》に、上野は、更に苛ついたが、時は迫っているようだ。
確かに、晴康の言う通り、見かけの良さを利用して屋敷の裏方にまで、師匠、だと、威張り散らす法師には、漠然とした不信感を抱いていた。
しかし、上流の家で育った訳でもなく、ましてや、その日暮らしの盲《めしい》ならば、大納言家に拾われたと、浮き足立って調子に乗ることもあるだろう。
図々しい。その程度の事と、思っていた。しかし、晴康に言われて、上野は、何故、不信感を抱いたのか、分かったような気がした。
余りにも卒がない。
動きには、無駄がない。
見えていない、はずなのに。
「ようよう、お分かりのようですね」
「晴康殿、能書きは後で。私は、何をすればよいのですか」
「私の駒になって頂ければ」
「駒?!」
また、訳の分からない事を。晴康という男。自身が分かっていれば、相手も分かっていると思う癖があるのか、常に、こうなのだ。
口下手とは違う。言葉足らずとも違う。食えない男、と、言うべきなのか。上野は、いつも、晴康の言動に振り回されていた。
しかし、何故か、兄の常春《つねはる》とは、阿吽の呼吸で、理解し合っている。二人連れだって、出かけたりしているが、どうやら、守近の命であったり、なにがしかの調べ物のようで、要件を、兄は決して明かさなかった。
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