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忘れたい。
…ただそれだけなのに。忘れられない。
許さない。仮にそれが忘れていたとしても。
傷は消えないのだから。
私のトラウマは些細かもしれない。下らないかもしれない。でも、変わらない。
あの時、飛び出した虫も。
あの時、忘れられた約束も。
あの時、つかれた嘘も。
あの時、上手く出来なかった羞恥も。
あの時、失望された親のため息も。
あの時、話しかけられたことも。
心に深く深く残って消えてくれないんだ。どうしてなのか分からない日常を、今日も生きる。
君に「気持ち悪い」と言ったら私にどんな目を向けてくるのだろう。
私ね…覚えてるの。
あの時、私を一瞬でも蔑んだ目を。
お前が忘れても、私は忘れられない。君は良い人だけど完璧じゃない。
正義の味方気分な君が嫌いなんだ。人間らしく悩んで苦しんでる君の方が好きなんだ。
もう君に嫌われるのは懲り懲りだ。
自室で何も出来ないまま、人生に意味を問うのも忘れたまま私は生きる。
トラウマなんてそんなもの。
だって忘れたくない物も、忘れたい物も覚えているのが人間なんだから。
今日は雨が強い。
分厚い雲は光を遮って、人工の光に照らされる。
何も無い、帰るにも一苦労な我が家は私がもっとも寛げる場所だ。
玄関を開ける。
必要な行動さえ億劫なのは空のせいだ。
「ただいま」
何も返ってこない。
やけに家が暗い。おばあちゃんの部屋を開ける。真っ暗で居ない。
私は濡れた服と身体に嫌気がして、二階に上がった。何かに震える第六感と無視できない違和感に気づきながら。
気付けば母親が帰ってきた。
そして知る。おばあちゃんが倒れたと。
やっぱり、私はそう思った。
あれよあれよと時間だけが過ぎ、私は葬式場に参列していた。
知りたくないものを、知ってしまった。
ふと、周りをみる。
誰も泣いていない。そう、私も。
実の息子の父親も父親の兄弟も、孫であり従兄弟の何人かも、私達姉弟も。
誰も泣いていなかった。
葬式は進む。棺で寝てたおばあちゃんは生前との違いが分からなかった。
最後の別れに棺に入れられたそれは、私すら記憶が朧気なおばあちゃんに向けて書いたかつての私の手紙だった。
気持ち悪かった。
母親は義母の事が好きじゃなかった。
散々聞いた私も、おばあちゃんとして慕う気が徐々に失せていった。
だから…せめて、こう言ったの。
「悲しめなくてごめんね」
私がおばあちゃんに向かって最後に言った言葉であり、思った言葉だった。
灰になったおばあちゃんは、決しておばあちゃんでは無い。ただの灰なのだ。
あの時、親族の醜さが。
ちょっと前のトラウマです。
きっと人ならトラウマの一つや二つあるだろう。生きている限り。
そう、これを読んでいる貴方だって。
貴方は、あの時の何がトラウマですか?
そのトラウマを背負って私達は居る。