Side 大我
学園祭のイベントが終わると、一気にクラスは受験モードに入る。
俺は一応ずっと勉強はしてたから大丈夫そうだけど、心配なのはあいつ。
今日、席にはいない。休み時間にでも保健室に顔を出すか。
でももし休んでいるとしたら、大体「不整脈やばい」とか「めんどい」とか何かしらの理由を送ってくる。
授業を終えてスマホを見てみても、何も来ていなかった。
俺は時計を見上げ、時間を確認してから教室を出る。
「あらいらっしゃい、京本くん」
こんなふうにいつも先生に迎えられるから、後ろめたさもなくいられるんだ。
「あ、今は大丈夫なんです。でも樹が…」
室内を見渡すが、誰も寝てはいなかった。
「来てないけど…教室にも?」
俺はうなずく。
「心配なら連絡してあげて。ちょっといる?」
ベッドを指さして言われる。一瞬サボろうかとも思ったけど、首を振った。「戻ります」
無理はしないでね、という声を背中で聞いて保健室を後にした。
昼休みになっても、樹とのラインは音沙汰がない。
「忘れてんのかな」とあいつらしい訳をつけて電源ボタンを押したところで、スマホが震えて着信が表示された。
「やっとか」
通知をタップすると、
『わりい、ちょっと失神したらしくて病院いる
もう落ち着いてるから大丈夫
すぐ退院できるって』
それを見て、「え⁉」と柄にもなく大声を上げてしまった。周りにいたクラスメートが何人か振り返って、俺は肩をすくめた。
血の気が引く思いだった。失神って、大丈夫なのだろうか。メールができてるからひどくはないのかもしれない。
『嘘だろ、マジかよ
心配すぎるから早く元気な顔見せろよ』
その返事として「OK」とキャラクターがいっているスタンプが送られてきた。全くヘラヘラしているが、それはうわべなのは見え透いている。
知らず知らずのうちに、俺の心臓がぎゅっと縮まっている。
俺が発作で倒れたときも、樹はこういう気持ちだったのかも。きっとそうだ。
いつも明るくて軽薄そうだけど、ほんとは俺のことをよく見てくれている。
俺が知らない「ふつうの楽しみ」を奪われた樹は、俺よりよほど悲しくて悔しいんだろう。
それでも俺を必要としてくれてることに、救われていた。
だから、早く戻ってきて。
「ピロン」
また鳴る通知音。見れば、樹から再びメッセージが来ていた。
『心配するほどじゃないから
たぶん明日には行ける』
不安定で不確定すぎる断定だけど、ほんの少しの説得力があるような気がした。あいつのことだから、「もうちょっとサボりたかった」とか言って来る。
そんなことを思って、「待ってる」とだけ返信した。ああ言うなら、見舞いもいらなさそうだ。
あと少し。樹となら走り抜けられる。そんな気がして。
続く
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