「あの…アリア?」
ライラに話しかけられ、はっと意識が戻って来る。
「もう、アリアったら、聞いてるの?」
「あ、ごめんね、もう一回言ってちょうだい」
あのねーとライラは無邪気に笑った。
◇
「じゃあ、そろそろ帰ろっかな」
私がそう言うと、ライラは少し寂しそうに頷く。
「それじゃあ、また今度ね、ライラ」
「…うん。元気でね」
私が少し心配しているのがわかったのか、ライラはにこっと笑ってみせた。
「おやすみ」
日が暮れる直前まで話していたからか、あたりはもう真っ暗だ。
きっと家に帰ったら先生に叱られる。
それは当たり前だ。だって授業を逃げ出したんだもの。
「ねぇ!アリアー!」
遠い後ろの方から、ライラがこちらに向かって叫んでいる。
「大好きっ!」
思わず笑みが零れる。 なんて優しいいい子なんだろう。
「私もっ!」
ぶんぶんと全力で両手を振るライラに対し、私は片手で優しく手を振った。
それが、私とライラがまともに話せた最後だった。
◇
「アリアさんっ!!」
もう外は真っ暗で、肌寒くなってきたところで、屋敷の廊下を歩いていた私に先生が後ろから声をかけた。
「もうっ!あなたという人は、また授業を逃げ出して!!まともにやる気はないのですか!?」
「ないですよ」
それだけ言って、私はまた自分の部屋に向かって歩き出す。
「ふざけないで下さい!ちょっと、アリアさん!」
後ろで煩く叫んでいる先生を無視して、部屋の中に入って扉を閉じる。
暫くダンダンと扉を叩いていた先生は、もう諦めたのかやがて静かになった。
こつこつと足音をさせて自分のベッドに歩いていく。
「今日はご飯あるんだ…」
小さなパンとチーズがぽつん、とベッドの上に雑に乗っている。
そっとそれを取ると、近くの机の引き出しの中に入れた。
もしかしたら、明日時間があればライラに渡せるかもしれないと思ったからだ。
どさっ、とベッドに横になり、目を閉じる。
沢山喋ったせいで疲れていたのか、すぐに眠気が押し寄せてきて、どぷんっ、と私を飲み込んでいった。
もはや、ちかちかと山小屋で光る眩しい光になど、目もくれていなかった。
◇
「お母さん!」
ライラの声が聞こえる。
「今度はどこに遊びに行こうかなぁ?」
ゆっくりと目を開けて、私は眩い光を目にする。
「ライラ…?」
「ねぇお母さん!」
今までにないくらい楽しそうな声。
ライラの隣にはライラに似た綺麗な女性がいる。
「ライラ」
優しく、愛情に満ちた声で、女性はライラの名を呼ぶ。
「ライラ」
ふわりと笑って、とても、幸せそうに。
「ライラ」
段々と、怒気のこもった、刺々しく、痛々しく、何より、憎しみが強い、
「…ライラ!」
ぐぐぐ、と女性は拳を握りしめる。
今にもライラに襲い掛からんとばかりに、女性は顔を歪めた。
「…お母さん……?」
「逃げてライラっ…!!」
不味い、とそう思った私は、思わずライラに向かって叫んでいた。
それと同時にライラに向かって走って行く。
「アリア…?」
ぐしゃっ、と肉の潰れる音がする。
血飛沫が目の前に散って、宙を舞う。
「ラ、イラ…」
どさっ、とライラが崩れ落ちる。
「ライラ!!!!」
がばっと、私は自分の声で目覚めた。
「夢…」
はぁ、はぁ、と浅い呼吸を繰り返す。
「なんて夢よ…」
最悪だ、と思いながら、さっき見ていた夢を思い返す。
「無駄にリアルね」
ライラを失うだなんて、絶対にあってはならない。
私の唯一の大切な人で、友達だから。
ふと、私は窓から山小屋を見る。 閉じてあるはずの小屋の扉が、開いていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!